第79話:神域の誤診、聖鍼の宣戦布告
お読みいただきありがとうございます!
四天王をすべて退け、ついに宿敵ヘイズ博士と対峙した枢。
しかし、そこで語られたのは、帝都の繁栄を支える「医学」のあまりにも残酷な真実でした。
「神に近づく」と豪語するヘイズの魔導医術に対し、枢はたった一本の鍼を掲げます。
月曜日、お昼の更新です。
運命の最終決戦、その第一撃をどうぞ見届けてください!
玉座の間に漂う「静寂」は、四天王ノアが作り出したものとは次元が違っていた。それは音が消えたのではなく、存在そのものが世界の理から切り離されたような、絶対的な断絶。黄金の椅子から立ち上がったヘイズ博士は、数百年を生きているとは思えないほど瑞々しい肌を湛え、その瞳には銀河を閉じ込めたような底知れぬ魔力の光が渦巻いていた。
「……素晴らしいよ、枢君。……君が魔族の里で地脈を浄化した際、私は確信した。……君の持つ『聖鍼』の技術こそが、私の理論を完成させる最後の、そして最も純粋な触媒になるとね。……さあ、君がこれまで集めてきた『気のデータ』をすべて私に寄越しなさい。……それがあれば、私は人類を病からも、老いからも、そして死という最大のバグからも解放できる」
ヘイズが両手を広げると、宮殿の床に刻まれた幾何学模様が一斉に血のような赤色に染まり、枢たちを包み込んだ。それは空間そのものを一つの「巨大な手術台」へと変える、禁断の神域結界。
「……死をバグと呼ぶのですか、ヘイズ博士。……あなたが語る『解放』とは、他者の地脈を奪い、民の命を電池のように使い潰した先に成り立つ、ただの『搾取の永劫回帰』に過ぎない。……それは医学ではありません。……命への冒涜であり、世界という巨大な患者に対する、史上最悪の誤診です」
枢は、自身の足元から体温を奪おうとする赤い光の鎖を、微動だにせずに見据えていた。彼の翡翠眼は、ヘイズ博士の肉体が、もはや人間のそれではないことを見抜いていた。数千、数万という人々の経絡を強引に繋ぎ合わせ、自身の心臓に集約させた「魔力のキメラ」。
「……ハハハ! 誤診だと? ……滑稽なことを。……私はこの三百年間、一度として治療に失敗したことはない。……私に従った者は繁栄を享受し、私に抗った者は淘汰された。……それが進化の真理だ。……枢君。君の鍼が、この私の『神の肉体』に届くとでも思っているのかね?」
ヘイズが指を弾くと、空間から無数の光のメスが、物理的な速度を超えて枢へと放たれた。それは、アルバスが使っていたものとは比較にならないほど高密度の、「概念」さえも切り刻む術式。
「……届かせます。……いえ、届かせなければならない。……それが、私を信じて命を預けてくれた、すべての患者さんたちへの責任ですから」
枢は往診バッグの奥底から、これまで一度も人前で見せたことのない、虹色の輝きを放つ「神鍼」を取り出した。それは初代皇帝がかつて、神々との契約において授かったとされる、あらゆる理を無効化し、生命の根源へと至る至高の一本。
「……リナ、カザン、絶対に私の影から出ないでください! ……ヘイズ博士。……あなたの肉体は完璧に見えますが、その接続部には、無理やり繋ぎ合わせたことによる『拒絶反応』の歪みが、無数に蓄積されている。……そこを突けば、あなたの神域は、ただのガラクタの山に変わる」
枢の全身から、これまでの旅で培ってきた「癒やしの気」が、目に見えるほどの翡翠色の光となって溢れ出した。彼は放たれた光のメスを避けることなく、あえてその中心へと突っ込んだ。
「……聖鍼流、最終奥義――『極点回帰・百会の裁き』!」
枢は跳躍し、ヘイズの頭上から、その脳天の中心にある**『百会』**に向けて神鍼を振り下ろした。
ヘイズは嘲笑を浮かべ、防御の障壁を展開するが、枢の神鍼は「防御」という概念そのものを突き抜け、その中心を射抜こうとしていた。
ツボとしての『百会』は、頭頂部の中心にあり、文字通り「百(多数)の経絡が会(交わる)」、全身の気を統括する最高位の要穴。ヘイズ博士が数千人の魔力を制御している「中枢指令室」が、まさにここであった。
「……ぬ、……な、何だ、この感覚は……!? ……私の障壁が、……私の術式が、……吸い込まれていく……!?」
「……百会は、天の気を受け入れる門。……そこに、あなたが奪った人々の『苦しみ』と『怒り』を、一気に還流させました。……ヘイズ博士。……あなたが飲み込んできたすべての命が、今、あなたという器を内側から押し広げようとしていますよ」
神鍼がヘイズの障壁に触れた瞬間、パキパキという不気味な亀裂の音が空間に響き渡った。ヘイズの端正だった顔が、内側からの圧力によって異形へと歪み始める。
「……ぐ、……あああぁぁぁっ! ……おのれ……、おのれの分際で……! ……認めん、……私は……神だ、……私が世界の法なのだぁぁぁ!」
ヘイズの全身から、制御を失った真っ赤な魔力が噴き出し、玉座の間全体を飲み込もうとする。
ついに始まった、聖鍼師と大賢者の、命を削り合う最終決戦。
枢の放つ一刺しは、数百年続く帝都の呪いを、真に終わらせることができるのか。
物語はついに、最高潮のクライマックスへと突入する。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ついに始まった枢さんとヘイズ博士の最終決戦。
神の如き力を誇るヘイズに対し、枢さんはその「歪み」を突くことで対抗しました。
初代皇帝から受け継いだ「神鍼」の輝き、そして「百会」を狙った一撃……。
今回登場した**『百会』**。
頭のてっぺんにあるこのツボは、自律神経を整え、ストレスや頭痛、さらには全身の不調を改善する「万能のツボ」として有名です。ヘイズ博士にとっては、数千の魔力を制御する「司令塔」であり、最大の急所でもありました。
次回、第80話は本日**【18:00】**に更新予定です!
暴走するヘイズの魔力に対し、リナとカザンが命懸けの援護。
枢が狙う、ヘイズ博士の「魂の処方箋」とは!?
「枢さんの『宣戦布告』が格好良すぎて震えた!」
「ヘイズの歪んだ顔……スカッとした!」
と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをお願いします!
午後の更新も、全力でお届けします!




