表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/271

第78話:静寂の医師、無音の処刑場

おはようございます!


激闘の末、鋼鉄のガルスを沈めたくるるたちの前に、ついに「審判の門」が開かれます。

しかし、そこは音も光も吸い込まれるような、異様な静寂に満ちた空間でした。


四天王最後の刺客、そして全ての黒幕であるヘイズ博士の影。

聖鍼師の物語は、ついに最終決戦の幕を上げます。


本日から平日の4回更新スケジュール【08:00 / 12:00 / 18:00 / 21:00】となります。

今週も、枢の往診の行方を共に見届けてください!

 「審判の門」の重厚な石の扉が、軋んだ音を立ててゆっくりと左右に分かれた。その向こう側に広がっていたのは、豪華絢爛な宮殿の装飾とは無縁の、あまりにも殺風景で、広大な円形の空間だった。床には幾何学的な魔導回路が刻まれてはいるが、そこからは一切の光も、魔力の振動も感じられない。ただ、肌を刺すような冷たい「静寂」だけが、霧のように立ち込めていた。


「……枢さん、気をつけて。……ここ、魔法が全く機能していません。……私の杖に宿る聖なる力も、外に出そうとした瞬間に、何かに吸い込まれるように消えてしまいます」

 リナが狼狽した声を上げ、自身の杖を何度も振りかざす。だが、本来なら眩い光を放つはずの治癒魔法は、一瞬の火花を散らすだけで、闇に溶けるように消失してしまった。


「……リナ、無駄ですよ。……ここは『無音の領域』。……物理的な音だけでなく、魔力の『波長』そのものを打ち消す反転魔導が、空間全体に張り巡らされています。……魔法を力として使う者にとっては、ここは窒素の足りない深海と同じ……一歩進むごとに、自らの魔力を奪われ、衰弱していく処刑場です」


 くるるは往診バッグを肩にかけ直し、一点の曇りもない翡翠眼ひすいがんで闇の奥を見据えた。彼の翡翠眼は、魔力の光ではなく「生命の気の流れ」を視るもの。魔法が消されたこの空間においても、蠢く不気味な影を捉えることができていた。


「……フフ、……察しが良いわね、枢。……魔法という脆弱な力に頼る愚か者たちが、最後に行き着く絶望。……それが私の執刀室よ」


 闇の中から、影のように揺らめきながら現れたのは、全身を黒い包帯で巻き、顔の半分を仮面で覆った小柄な人物。

 魔導医師四天王、最後の一人。「静寂の医師・ノア」。

 彼は生まれながらにして魔力を持たず、それゆえに他者の魔力を無効化し、沈黙させる独自の「反魔法医術」を極めた、ヘイズ博士が最も信頼を置く暗殺医師であった。


「ノア……。あなたはかつて、魔力を持たないがゆえに医療を志す道を閉ざされた。……それをヘイズが拾い、他者の力を奪う武器として育て上げた。……しかし、その復讐心は、あなた自身の経絡を真っ黒に染め上げ、今や心臓の鼓動すらも止めてしまおうとしている」


「……黙れ! ……魔力という『光』に恵まれた者たちが、どれほど傲慢に世界を壊してきたか、貴様にわかるものか! ……私はこの無音の闇の中で、すべての傲慢を解体し、等しく沈黙させてきた。……聖鍼師よ、貴様のその『気』とやらも、この闇に溶かしてあげよう!」


 ノアの姿が、一瞬でかき消えた。

 魔法による転移ではない。純粋な体術と、自身の存在感を消す「無音の歩法」。

 次の瞬間、枢の背後の死角から、魔力を吸い取る特殊な鉱石「吸魔銀」で作られた数本のメスが、無音で飛来した。


「……枢さん! 後ろ!」

 リナが叫ぶが、その声が届くよりも早く、枢の身体は独楽こまのように最小限の半径で回転していた。


 キンッ、と、この部屋で初めて「音」が鳴った。

 枢が取り出したのは、これまでとは違う、鈍い銀色を放つ「鉛鍼えんしん」。

 気を通しにくく、重いその鍼は、魔力を吸い込むノアの武器に対して、物理的な「重し」となってその軌道を狂わせたのだ。


「……ノア。……魔法が効かないことは、私にとって不都合ではありません。……むしろ好都合だ。……邪魔な魔力の残響がない分、あなたの『魂の叫び』が、これほどまでに鮮明に聴こえてくるのですから」


 枢はノアが潜む闇の座標を、気の波形から完全に特定した。

 彼は自身の左手首の内側、親指の付け根に近い場所にある**『太淵たいえん』**に、自ら一本の鍼を打ち込んだ。


 ツボとしての『太淵』は、肺の経絡の「原穴」であり、全身の気を統括する重要な場所。ここを刺激することで、枢は外部の環境に左右されることなく、自身の内側から溢れ出す「真の気」を、全身に循環させたのだ。


「……聖鍼流、真理術――『太淵たいえんの脈動』!」


 枢の全身から、翡翠色のオーラが陽炎のように立ち上った。それは魔法による光ではなく、一人の人間が持つ、極限まで磨き上げられた「生命の輝き」。その輝きは、ノアが作り出した反魔法の闇を内側から食い破り、空間に確かな生命の鼓動を刻み込んだ。


「……バ、バカな!? ……私の『無音の領域』を、力技で押し戻すだと!? ……そんなエネルギー、一人の人間が持っていいはずがない!」


「……これは力ではありません。……『調和』です。……ノア、あなたの絶望も、この脈動の中で診てあげましょう。……あなたの呼吸が浅くなっているのは、過去の悲しみが胸にある**『中府ちゅうふ』**に溜まり、横隔膜を硬直させているからです」


 枢は驚愕で動きの止まったノアの懐に、音もなく滑り込んだ。

 ノアが迎撃のメスを振るうよりも早く、枢の二本の鍼が、ノアの両肩の下、鎖骨の端にある**『中府』**を、寸分の狂いなく貫いた。


「……あ、……カハッ……!!」

 ノアの喉から、震えるような吐息が漏れた。

 中府は肺の気が集まる場所であり、悲しみや不安によって閉ざされやすい要所。そこに枢の温かい気が流れ込んだ瞬間、ノアが数十年にわたって抱え続けてきた「魔力を持たない劣等感」という名の呪縛が、ダムが崩壊するように一気に解け去っていった。


「……息を、……吸いなさい、ノア。……あなたはもう、闇の中に隠れる必要はない。……その小さな手は、人を殺めるためではなく、自分と同じように苦しむ者を抱きしめるためにあるのです」


 ノアの身体から力が抜け、吸魔銀のメスが石畳に虚しく転がった。

 仮面の奥から、大粒の涙が溢れ出し、無音だった空間に、初めて「嗚咽」という名の人間らしい音が響いた。


 四天王最後の一人が、聖鍼師の「慈悲の一刺し」によって救済された。

 枢はゆっくりと顔を上げ、広間の最奥……一段高い場所に設置された、黄金の椅子に座る男を睨みつけた。


「……ヘイズ博士。……診察の準備は整いました。……あなたの積み上げた、数百年分の『誤診』。……今、ここで私が正して差し上げます」


 黄金の椅子に座る老人は、狂気と愉悦の混じった拍手を送りながら、ゆっくりと立ち上がった。

「……素晴らしい。……実に見事だ、枢君。……君こそが、私の『新世界』の、最後のピースにふさわしい。……さあ、始めようか。……医学が神を殺し、新たなことわりを産み出す、聖なる手術バトルを」


 帝都宮殿、玉座の間。

 一人の鍼師と、都を支配する大賢者の、歴史を懸けた最終決戦が幕を開ける。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


四天王最後の刺客、ノアを救い出したくるるさん。魔法が封じられた無音の空間で、己の「生命の気」だけで闇を照らす姿は、まさに聖鍼師の真髄でした。

復讐ではなく、敵の絶望さえも「肺の疾患」として捉えて治療する。枢さんの揺るぎない信念が、ついにヘイズ博士の目の前まで届きました。


今回登場した**『太淵たいえん』**。

手首の脈動を感じる場所にあり、呼吸器の強化だけでなく、全身の気を整える非常に重要なツボです。自分自身のバランスを保ち、極限状態で力を発揮するための、枢さんならではの選択でした。


さあ、いよいよ次回からはヘイズ博士との直接対決が始まります。


【平日更新スケジュール:08:00 / 12:00 / 18:00 / 21:00】


次回、第79話は本日**【12:00】**に更新予定です!


「枢さんのオーラ、格好良すぎて痺れた!」

「ついにヘイズ博士との決戦……ドキドキが止まらない!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをお願いします!

今週も、全力で走り抜けます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ