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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第76話:幻惑の植物園、猛毒の処方箋

お読みいただきありがとうございます!


四天王の一人、アルバスを沈めたくるるたちが足を踏み入れたのは、宮殿内に作られた巨大な空中庭園。

そこに待ち受けていたのは、美しき花々と共に、死を司る毒を操る次なる刺客でした。


聖鍼師の医学知識と、魔導医師の植物兵器。

どちらの「薬」が真の救いをもたらすのか。


本日5回目の更新、夕食前のひとときにどうぞお楽しみください!

 「解剖のアルバス」を無力化し、さらに宮殿の深部へと足を進めた一行を待ち受けていたのは、冷たい石造りの回廊ではなく、溢れんばかりの緑と極彩色の花々に彩られた巨大な「空中庭園」であった。天井の魔導ガラスから注ぐ擬似的な陽光が、湿り気を帯びた空気を照らし出し、甘く、しかしどこか神経を逆撫でするような香りが充満している。


「……枢さん、気をつけて。……この花の香り、ただの芳香ではありません。……吸い込むたびに、頭の奥が痺れて、魔力の循環が不自然に加速させられているような……。これは、強力な神経毒の類です!」

 リナが慌てて聖なる加護を自身と仲間に展開する。カザンも槍を構え、その鋭い嗅覚で周囲の異変を察知し、警戒を強めていた。


「……ええ、リナ。……これは『夢魔草むまそう』。……魔族の領土にさえ滅多に生えない、対象を強制的に幸福感の中に沈め、そのまま衰弱死させる禁断の毒草です。……しかし、これほどの規模で栽培し、品種改良まで施しているとは。……並大抵の植物学的知識ではありませんね」


 くるるは往診バッグから、翡翠色の液体が満たされた小さな瓶を取り出した。それを自身の鼻腔付近に一滴垂らし、鋭い翡翠眼ひすいがんで庭園の奥、巨大な食虫植物の陰に隠れた「影」を捉えた。


「……フフ、……私の庭に土足で踏み入るとは、礼儀を知らない聖鍼師ね。……その瞳、私のコレクションに加える価値がありそうだわ」


 艶然とした声と共に現れたのは、深緑色のドレスを纏い、背中に蝶のような魔導翼を持つ美女。

 魔導医師四天王、第二の刺客「薬禍やっかのフローラ」。

 彼女は、あらゆる植物から抽出した毒と薬を自在に操り、ヘイズ博士に「最も美しい毒」を献上することを至高の喜びとする、狂気と美学の医師であった。


「フローラ。……あなたはかつて、貧民街で疫病を治療するために、新薬の研究をしていたはずです。……その知識を、なぜこれほどまで無意味な殺戮のために転じるようになったのですか?」


「……無意味? 心外だわ、枢。……私は、美しくない命を淘汰し、私の薬に耐えうる『選ばれた生命』だけを育んでいるの。……ヘイズ先生の理想とする新世界には、弱くて醜い草花は必要ない。……さあ、私の愛し子たちの餌になりなさい!」


 フローラが優雅に手を掲げると、庭園内の植物たちが一斉に意志を持ったかのように動き出した。いばらの触手が蛇のように地を這い、美しい花弁からは、触れただけで肉体を溶かす酸の飛沫が散布される。それは植物の皮を被った、緻密な「生体兵器」の波であった。


「……カザン、リナ、一歩も動かないでください! ……植物の急所は、人間よりもさらに繊細です! ……フローラ、あなたの処方箋は間違っている。……薬とは、弱きを助けるためにあるもので、選別するためにあるものではない!」


 枢は往診バッグから、これまでとは趣の異なる、先端に微細な穴が開いた「中空の銀鍼」を取り出した。彼は庭園から漂う毒素の波を避けることなく、あえてその中心部へと肉薄する。


「……聖鍼流、薬理転換――『曲池きょくちの浄化』!」


 枢は迫り来る茨の嵐を最小限の動きで受け流し、自身の肘の外側にある**『曲池』**に、自ら鍼を打ち込んだ。


 ツボとしての『曲池』は、肘を曲げた時にできるシワの端に位置し、全身の熱を下げ、血圧を整え、さらには体内の「解毒機能」を劇的に高める免疫の要所だ。枢は自身の経絡を一時的に超活性化させることで、フローラの放つ猛毒を体内で即座に中和し、それを逆に「解毒の気」へと変換して周囲に放出し始めた。


「……な、何ですって!? 私の毒が……消えていく……!? 私の愛し子たちが、震えているわ!」


「……毒と薬は紙一重。……量を間違え、意志を間違えれば、それはただの汚物です。……フローラ、あなたの肺からは、自身の毒草を吸い込み続けたことによる『内臓の焼け』が始まっています。……そのイライラも、独善的な思考も、すべては体内の毒素が脳を侵しているからです」


 枢は驚愕で立ち尽くすフローラの懐に、瞬きする間もなく滑り込んだ。彼女の美しい顔が恐怖に歪む。


「……ここをなさい。……あなたが自分自身を、一番壊していたのですよ。……『大椎だいつい』、かん!」


 枢の銀鍼が、フローラの首の付け根、第七頸椎の下にある**『大椎』**へと深々と突き刺さった。

 大椎は全身の陽の気を統括し、熱を払い、意識を鮮明にする「百病の王」とも呼ばれる要穴。そこに枢の清浄な気が流し込まれた瞬間、フローラの脳内にこびりついていた毒による幻想が、一気に霧散していった。


「……あ、……あぁっ……!!」

 フローラの瞳から、異様な光が消えていく。彼女は膝をつき、自身の白い手を見つめて震え出した。

「……私は、何を……。あんなに救いたかった子供たちの顔も、忘れて……。……どうして、私はこんな醜い花を……」


 庭園の植物たちが、主の戦意喪失と共に力を失い、しおれるように静止した。

 枢は静かに鍼を引き抜き、フローラの肩に手を置いた。

「……本来のあなたに戻る時間は、たっぷりあります。……まずは、自分自身の心の治療から始めてください。……さあ、リナ、彼女を安全な場所へ」


「はいっ、枢さん!」


 二人目の四天王を鎮め、一行はついに宮殿の中枢……ヘイズ博士の執務室へと続く「審判の門」の前に立った。だが、そこにはこれまでの二人とは比較にならない、禍々しいまでの魔力を放つ、重厚な甲冑を纏った「医師」の姿があった。


「……よくぞここまで来た。……だが、我が剣……医学の『鋼の意志』は、貴様の細い鍼などで折れるものではないぞ」


 四天王第三の刺客、武装医師「鋼鉄のガルス」。

 聖鍼師の物語は、ついに肉体そのものを改造した究極の「人造人間」との対峙へと突入する。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


四天王の第二の刺客、フローラの「美しき毒」を自身の体で解毒し、逆に彼女を救ってみせたくるるさん。自分のツボを突いて免疫力を極限まで高めるという、まさに命懸けの往診でした。


今回登場した**『曲池きょくち』**。

肘にあるこのツボは、皮膚病の治療や解毒、さらには高血圧の改善など、現代の私たちにとっても「万能のツボ」として親しまれています。枢さんのように毒を中和するのは難しいですが、日々の健康維持には欠かせない場所ですね。


次回、第77話は本日ラスト、**【21:00】**に更新予定です!

物理攻撃が効かない「鋼鉄の医師」ガルス。

枢が狙う、鎧の隙間にある「魂の正穴」とは!?


「枢さんの解毒シーン、格好良すぎて痺れた!」

「次はついにガチガチの重装騎士……鍼でどう戦うの!?」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

本日最後の更新まで、あと3時間。どうぞお楽しみに!

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