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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第74話:数千の鼓動、一閃の救済

お読みいただきありがとうございます!


かつての因縁を断ち切り、帝都の中心部へと進むくるる

しかし、そこで目にしたのは、ヘイズ博士の魔導薬によって命を蝕まれ、病院から溢れ出した数千人の市民たちの姿でした。


魔法が効かない絶望的な状況下で、一人の鍼師が立ち上がります。

「全員まとめて、私が診ましょう」


聖鍼師の真骨頂、一斉広域治療の幕が上がります。

日曜お昼の更新、どうぞお楽しみください!

 帝都国立病院の前にある広場は、もはや野戦病院を通り越して、地獄の様相を呈していた。病院の建物内には入りきれず、石畳の上に直接寝かされた数千人の市民たち。彼らの表情は一様に土気色をしており、胸を掻きむしり、喘ぐような呼吸を繰り返している。先ほどのバルトスと同様、ヘイズ博士が「福音」として配った魔導強化薬の副作用……魔力暴走による全身の経絡の「焼き付き」が、都全体を同時に襲っていたのだ。


「……枢さん、これは……。ひどすぎます。……私の聖なる光でも、彼らの苦しみを和らげることすらできない。……魔法を注げば注ぐほど、彼らの中の魔力が反発して、さらに体温が上がってしまうんです!」


 リナが悲痛な声を上げ、自身の無力さに拳を握りしめる。彼女の放つ高純度の治癒魔法ですら、変質した患者たちの肉体にとっては、火に油を注ぐような毒にしかならなかった。周囲では、白衣を纏った都の医師たちが、なす術もなく右往左往し、中には発狂して膝をつく者の姿もあった。


「……無理もありません。……彼らの肉体は、外部からの魔力供給を前提とした『依存体質』に改造されている。……そして、その供給源である地脈が今、ヘイズによって無理やり吸い上げられているために、彼らの中の魔力のバランスが完全に崩壊しているのです。……これは病気ではない。……巨大なシステムによる、意図的な『収穫』の残骸ですよ」


 くるる翡翠眼ひすいがんには、数千人の患者から立ち昇るどす黒い気が、空を覆う巨大な網のように見えていた。その網の糸は、すべて宮殿の地下へと繋がっている。ヘイズは都の民の命を「電池」のように使い、その最後の一滴まで絞り取ろうとしているのだ。


「……カザン。……そして魔族の戦士たち。……あなたたちの槍を、一時的に私に貸してください。……それも、ただの槍ではありません。……あなたたちが持つ、純粋な『武の気』を、私が導く先へと叩き込んでほしい」


「……何をするつもりだ、枢? ……この数千人を、同時に相手にするというのか?」

 カザンが驚愕に目を見開く。


「……一人ずつ往診していては、日が暮れるまでに半分も救えません。……ならば、この広場そのものを一つの『人体』と見立てて、巨大なツボを突くまでのことです。……幸い、この広場の地下には、地脈の分岐点が流れている。……そこに、あなたたちの気を流し込み、私が鍼で『弁』を操作すれば、都全体の汚濁を一気に排出できるはずだ」


 枢は往診バッグから、これまで一度も使ったことのない、透明な水晶でできた巨大な長鍼を取り出した。それは初代皇帝がかつて、荒れ果てた大地を一刺しで肥沃な土地へと変えたとされる伝説の神器――**『地脈の調律鍼』**であった。


「……全員、耳を塞いでください! ……これより、帝都の大掃除を始めます!」


 枢が広場の中央、噴水台の石畳に、その水晶鍼を深々と突き立てた。

 ドォォォォォォォン!!

 地面を揺らす重低音が響き、広場全体に幾何学的な光のラインが走り始める。


「……カザン、今だ! 広場の四隅にある、あの魔力集積点へ向けて、全力で槍を突け!」

「……応よ! ……魔族の意地、見せてくれる! ……ぬぉぉぉぉぉぉ!」


 カザンと精鋭たちが、凄まじい闘気を纏い、指定された地点へと槍を突き下ろした。その衝撃波が、枢の展開した光の回路を通り、地中の濁った魔力を一箇所へと追い込んでいく。


「……ここです。……都の汚れを溜め込む、大地の**『湧泉ゆうせん』! ……聖鍼流、広域救済術――『千手往診せんじゅおうしん・黎明の雨』**!」


 枢が水晶鍼を強く押し込むと、噴水台から水ではなく、目も眩むような黄金の光が天高く吹き上がった。その光は空中で無数の小さな「光の鍼」へと分裂し、広場に横たわる数千人の市民たちの足の裏……『湧泉』のツボへと、吸い込まれるように降り注いだ。


 ツボとしての『湧泉』は、足の裏の窪みに位置し、生命力の源泉とされる場所だ。そこを枢の放つ清浄な気が貫いた瞬間、患者たちの体内から黒い瘴気が一気に足裏から地面へと排出され、代わりに大地の柔らかな生命力が注ぎ込まれていく。


 一秒前まで死の淵にいた数千人の市民たちが、一斉に深く、長い息を吐き出した。

「……あ、……身体が、軽い……」

「……痛みが、消えていく……。なんだ、この温かい光は……」


 一人、また一人と、自らの力で立ち上がり始める市民たち。広場を埋め尽くしていた絶望の呻きは、瞬く間に驚喜と安堵の声へと変わっていった。その中心で、汗だくになりながら鍼を支え続ける枢の姿を、市民たちは神を見るような眼差しで見つめていた。


「……馬鹿な。……こんな、デタラメな治療があるか……。数千人の魔力暴走を、たった一撃で鎮めるなど、ヘイズ博士にすら不可能なはずだ……」

 腰を抜かした帝都の医師たちが、震える声で呟く。


「……ヘイズ博士には不可能でしょうね。……彼は命を『燃料』としか見ていない。……だが、私は命を『流れ』として見ている。……詰まった場所を掃除し、本来の流れを取り戻してあげる。……医術とは本来、そういう地道で、優しいものなのですよ」


 枢は水晶鍼を引き抜き、往診バッグに収めた。

 彼の顔には隠しきれない疲労の色があったが、その翡翠眼はなおも鋭く、宮殿の最上階を見据えていた。そこには、自らの「電池」たちが一瞬で回復したことに驚愕し、怒りに震えるヘイズの巨大な魔力の揺らぎがあった。


「……さて。……患者さんたちが元気になったところで、次は、その病原菌の親玉を直接叩きに行くとしましょうか。……リナ、カザン。……総仕上げの時間です」


 市民たちの歓声に包まれながら、聖鍼師の一行は、ついに宮殿の階段へと足をかける。

 伝説の再来。

 一人の鍼師が引き起こした奇跡は、今や帝都全土を巻き込む巨大な変革のうねりとなっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


数千人を同時に救う、くるるさんの圧倒的な広域治療。

まさに「神」と呼ばれた聖鍼師の真骨頂ですね!

伝説の神器を用いたダイナミックな治療シーン、楽しんでいただけたでしょうか。


今回登場した**『湧泉ゆうせん』**。

「泉が湧く」という名の通り、生命力(元気)が湧き出る重要なツボです。

足の裏にあるこの場所から毒を出し、大地のエネルギーを取り入れる。枢さんの理論には、常に生命への深い敬意が込められています。


次回、第75話は本日**【15:00】**に更新予定です!

宮殿の奥で待ち受ける、ヘイズ直属の「魔導医師四天王」。

医療の概念を歪めた彼らに、枢の怒りの鍼が炸裂します!


「数千人を一気に救う展開、鳥肌が立った!」

「カザンたち魔族との連携が熱すぎる!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

午後の更新も、全力で走り抜けます!

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