第7話:魔族の恩返しは、斜め上の方向だった
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第6話では魔族の刺客が「患者」になってしまいましたが、どうやら彼は一人ではなかったようです。
伝説の薬草をチラつかせ、枢を釣ろうとするザドゥ。
職人気質の枢が、その誘いにどう応えるのか……。
異世界における「プロの道具選び」にもご注目ください。
翌朝、王宮の裏庭。
枢が薬草を摘んでいると、茂みがガサリと揺れた。
現れたのは、昨日「四十肩」を完治させてやった魔族の刺客、ザドゥだった。
「……またあなたですか。今度は腰でも痛めましたか?」
枢は呆れ顔で、手元の薬草に目を戻した。
「……枢殿。昨日の恩、一生忘れぬ」
昨日の殺気はどこへやら。ザドゥは、あまりにも軽快な動きでその場に膝をついた。
肩がスムーズに回るのがよほど嬉しいのか、その表情は憑き物が落ちたように晴れやかだ。
「恩を返したいのなら、私の前から消えてくれるのが一番なのですが。……ここ、一応は王宮ですよ?」
「そうはいかぬ。……実は、我が『影狼部隊』の者たちも皆、長年の隠密活動のせいで体が限界なのだ。特に副隊長のヘルガは、首の寝違え……いや、重度の『頚椎の歪み』で、まともに暗殺の標的を追うことすらできぬ有様でな」
魔王軍の暗殺部隊が、職業病でまともに仕事ができない。
そんな笑えない冗談を、ザドゥは至って真剣に語る。
「断ります。私は人間、あなたは魔族だ。……それに、私は多忙ですよ。次から次へと無料奉仕するほどお人好しではありません」
「頼む! これを、これを受け取ってくれ!」
ザドゥが必死の形相で差し出したのは、人間界では百年以上前に絶滅したとされる希少植物『月光銀草』だった。
それは、折れにくく魔力伝導率が極めて高い、伝説の「鍼」を作るための至宝。
「……ほう。これをどこで?」
「魔界の奥深くだ。我が隊なら、いくらでも調達できる。枢殿の腕にふさわしい道具だとは思わぬか?」
枢の目が、プロのそれへと変わった。
これほどの素材があれば、今の自分には打てない「禁忌のツボ」さえも貫ける鍼が作れる。
「…………。良いでしょう。道具にこだわるのはプロの矜持。……明日、その副隊長を連れてきなさい。特別に診てあげましょう」
魔族の刺客は、まるで少年のように「かたじけない!」と叫び、風のように去っていった。
こうして、人知れず「魔王軍御用達」の治療院が、王宮の裏庭に誕生しようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
王女様に続き、ついに魔王軍まで顧客リストに加えてしまった枢。
次回、**「首が回らない副隊長ヘルガ」**が登場します。彼女の悩みは、果たして体調だけなのか……?
「魔族とのやり取りが面白い!」
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