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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第69話:深淵の掃除屋、絶たれた経絡

お読みいただきありがとうございます!


帝国艦隊の猛攻を退け、里に束の間の静寂が戻ったかに見えました。

しかし、墜落した旗艦の残骸から放たれる不気味な魔力の脈動が、新たな危機の訪れを告げます。


ヘイズ博士が送り込んだ、血も涙もない「掃除屋」。

聖鍼師の前に立ちふさがる、かつてない異形の強敵とは……。


本日4回目の更新、15時のティータイムに、手に汗握る死闘をお届けします。

 煙を上げて墜落した帝国魔導艦の残骸から、その男は音もなく姿を現した。周囲の木々が焦熱の余波で燃え盛る中、男が歩を進めるたびに、火炎はその熱を奪われるようにして消失していく。男の名は「うつろ」。ヘイズ博士が自らの魔導実験の果てに造り出した、痛覚も感情も持たない、対・異能者用暗殺人形であった。


 その姿は異様だった。全身を覆う漆黒のタイツのような衣装には、無数の「銀色の管」が縫い込まれ、そこから不気味な紫色の液体が循環している。男の瞳には焦点がなく、ただ機械的に、最優先目標であるくるるの姿を捉えていた。


「……リナ、カザン。……今すぐ、里の者たちを連れて結晶の裏まで下がりなさい。……この男、これまでの兵士たちとは『根』が違います」


 枢の声に、かつてないほどの緊張が走る。翡翠眼ひすいがんで男を診た瞬間、枢は戦慄した。男の体内には、正常な人間にあるべき「経絡」が存在しなかった。代わりに、全身を網の目のように覆う魔導回路が、強引に気の流れを制御し、一点の淀みもなく魔力を循環させている。


「……往診を拒絶する、完全なる『無』……。……面白いですね。……ならば、その偽りの体、どちらが先に限界を迎えるか、試してみましょうか」


 枢は往診バッグから、これまで一度も使ったことのない、漆黒の輝きを放つ「短鍼」を三本、指の間に挟んだ。

 刹那、虚が動いた。

 踏み込みの予備動作すらなく、男は一瞬で枢の眼前にまで肉薄し、手首に仕込まれた隠し刃を振り下ろした。


 ガギィィィィィィィン!!

 枢は短鍼で刃を受け止め、そのまま男の腕を滑らせるようにして回避した。しかし、虚の攻撃は止まらない。人体の関節の限界を無視した、奇妙な角度からの連続攻撃。それは、筋肉や骨格のことわりを知り尽くしている枢にとって、最も予測しづらい「不自然な動き」だった。


「……なるほど。……あなたは『動いている』のではない。……魔導によって『動かされている』だけだ。……ならば、その命令系統の中枢……あなたの首の後ろにある**『大椎だいつい』**を叩くしかない」


 ツボとしての『大椎』は、全身の陽の気が集まる交差点だ。だが、虚のような改造人間にとって、そこは魔導信号が全身へと分岐する、最も脆弱なハブ(拠点)に他ならない。枢は虚の猛攻を紙一重でかわし続け、その翡翠眼で「信号の瞬き」を追った。


 虚が、自身の魔導回路を過負荷オーバーロードさせ、爆発的な加速で枢の背後を取る。

 だが、その瞬間を、枢は待っていた。


「……見えましたよ。……あなたの、偽りの心拍が!」


 枢の体が独楽のように回転し、虚の背後に回る。

「……聖鍼流、解体術・第三式――『虚空こくうの楔』!」


 三本の黒鍼が、虚の首筋、そして背骨の節々に、正確無比なタイミングで突き刺さった。

 本来なら、激痛で動けなくなるはずの一刺し。だが、虚は痛みを感じることなく、なおも枢の心臓を貫かんと手を伸ばした。


「……無駄ですよ。……痛みを感じないのは、強みではなく、あなたの肉体が『終わっている』ことに気づけないという弱点です」


 枢が鍼を深く押し込んだ瞬間、虚の全身を流れる紫色の液体が、逆流を始めた。

 パシィィィィン!!

 男の背負った魔導タンクが火花を上げ、回路が次々と焼き切れていく。


「……『大椎』を封じられ、命令系統が逆流した。……今のあなたの体は、内側から自分自身を攻撃している状態です。……さあ、偽りの覚醒から目覚め、安らかに眠りなさい」


 虚の動きがピタリと止まった。感情のない瞳に、一瞬だけ、人としての悲哀が宿ったように見えた。男は糸が切れた人形のように、ゆっくりとその場に膝をつき、最後には物言わぬ抜け殻へと戻っていった。


 枢は静かに鍼を抜き、男の亡骸を見つめた。

「……ヘイズ博士。……人の命を、何だと思っているのですか」


 枢の握りしめた拳が、怒りで微かに震えていた。これまでの「往診」は、どこか余裕を持ったものだった。しかし、目の前の悲劇を目の当たりにし、枢の心の中で何かが決定的に変わった。これはもはや、里を救うための戦いではない。歪んだ理で世界を蹂躙する、あの「魔導の怪物」を、医者として完膚なきまでに摘出するための、執念の往診が始まったのだ。


「……枢さん、大丈夫ですか……?」

 恐る恐る近づいてきたリナが、枢の険しい横顔を見て息を呑む。


「……ええ。……ただ、少しだけ、処方箋を書き換える必要が出てきました。……リナ、里の皆さんに伝えてください。……私はこれから、地脈の最深部にある『病の根源』へ、直接乗り込みます。……これ以上、誰かが犠牲になる前に」


 枢の背後に、魔族の里に降り注ぐ柔らかな陽光が差していた。しかし、その先に広がる地平線には、帝都から放たれる漆黒の魔力が、更なる巨大な影となって立ち昇っていた。


 第2部・解決編、佳境。

 聖鍼師による「魂の救済」は、ついに不可逆の決戦へと突入する。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ヘイズ博士が送り込んだ「虚」。

痛みを感じない改造人間という、医者であるくるるさんにとって最も相性の悪い敵との対決でした。しかし、どれほど肉体を弄ろうとも、命を動かす「気の巡り(信号)」は誤魔化せません。


今回登場した**『大椎だいつい』**は、首の付け根にある重要なツボです。

全身をシャキッとさせるスイッチのような場所ですが、そこを枢さんに「逆流」させられたことで、虚は機能停止に追い込まれました。


次回、第70話は本日**【18:00】**に更新予定です!

ついに地脈の最深部へと足を踏み入れる枢とリナ。

そこで待ち受けていたのは、かつてこの里を滅ぼしかけた「伝説の災厄」でした……。


夕食時の更新も、どうぞお見逃しなく!


「枢さんの怒りに心が熱くなった!」

「敵の構造を見抜いて倒す展開、最高!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします。

皆さんの応援が、枢さんの往診をさらに加速させます!

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