第65話:黒き賢者の深淵、往診の決意
お読みいただきありがとうございます。
魔族の守護神を鎮め、里に真の平穏をもたらした枢。
しかし、長老ゼノスの口から語られたのは、帝国の繁栄を支える「呪い」の正体でした。
糸を引くのは、帝都最高の人格者と謳われるヘイズ博士。
彼の真の目的を知った枢の翡翠眼が、かつてないほど鋭く光ります。
物語はここから、第2部の解決編へと加速します!
1,800文字の衝撃展開を、金曜日の夜にじっくりとお楽しみください。
静まり返った里の奥、浄化された守護結晶が放つ柔らかな光の下で、長老ゼノスは語り始めた。
その声は重く、帝国の輝かしい歴史の裏に隠された「血と膿」を抉り出すようだった。
「……ヘイズ。あの男は、ただの学者ではない。……彼は初代皇帝の時代から生き続けている、人を超えた『魔導の化身』なのだよ」
リナが息を呑む。
「……数百年前から? そんな、人間がそんなに長く生きられるはずが……」
「……あ奴は、自身の肉体を『正穴』の魔力で維持し続けている。……我ら魔族の里から吸い上げた清浄な気を、自身の不老不死のために使い、その代償として吐き出された汚物(汚染)を、再びこの地に捨てていたのだ」
枢は黙って聞いていた。
だが、その翡翠眼は、ゼノスの言葉から導き出される「帝都の真の姿」を、冷徹に描き出していた。
「……なるほど。……帝都の繁栄は、巨大な吸血行為によって成り立っているということですか。……ヘイズ博士という心臓が、世界中の血管から血を奪い、自分だけが肥え太っている」
枢は往診バッグを強く握りしめた。
「……それは、もはや政治でも、戦争でもない。……世界そのものが患っている、巨大な『腫瘍』です。……そしてその腫瘍は、この魔族の里を『初期症状』として蝕み始めている」
「……聖鍼師よ。お前の医術は神業だ。……だが、ヘイズはそれすらも計算に入れている。……あ奴の真の目的は、この地の地脈を完全に枯渇させ、そのエネルギーで帝都そのものを『神の領域』へ浮かせることだ。……そうなれば、この地は不毛の荒野と化し、我ら魔族は根絶やしにされるだろう」
ゼノスは震える手で、自らの喉元を指差した。
「……私は、あ奴にツボを弄られた。……逆らえば、里全体を汚染で爆発させるという脅しと共に。……私の喉にある**『廉泉』**を、あ奴の魔力で封じられたのだ」
枢の目が鋭く光る。
「……廉泉。……舌の根元にあり、気と水の巡りを調整する要所。……そこを呪いで縛り、言葉と魔力を封じていたのですね。……そして、その呪いの糸は、この里の地下深く……地脈の心臓部へと繋がっている」
枢は迷うことなく、ゼノスの喉元へ指を伸ばした。
「……長老。……往診を続けましょう。……その呪い、今ここで私が断ち切ります。……ですが、これはまだ『処置』の始まりに過ぎません。……ヘイズという病根を摘出するために、まずはこの里に仕掛けられた『毒の種』をすべて取り除く必要があります」
「……危険だ! ヘイズの呪いに触れれば、お前の指も……!」
カザンが止めようとするが、枢の動きは止まらない。
「……私は、患者を前にして『危険だから』と手を引く術を持ち合わせていません。……リナ、五番の金鍼を。……最も細く、最も鋭い、魂を貫く鍼です」
枢はゼノスの喉元、皮膚の下で脈動する黒い魔導回路を、指先一点の気で捉えた。
シュッ、と空気が裂ける音がした。
金鍼が、呪いの結節点である『廉泉』をミリ単位の狂いなく貫く。
「……流、解、開……! ……聖鍼流、秘儀・『龍泉の目醒め』!」
バキィィィィィィィン!!
目に見えるほどの衝撃波がゼノスの喉から放たれ、黒い霧が悲鳴を上げながら消滅していった。
ゼノスの瞳から濁りが消え、その声に力が宿る。
「……あ、……あぁ……。……言葉が、……魂が、自由になる……!」
枢は汗を拭い、静かに立ち上がった。
「……長老。……これであなたの『声』は戻った。……ここからは、あなたに協力してもらう必要があります。……ヘイズが地脈のどこに、あといくつの『毒の楔』を打ち込んだのか。……そのすべてを特定し、治療しなければならない」
「……あ、あぁ……。……聖鍼師よ。……お前は、本気でこの地を、世界を救うつもりなのか」
「……私は鍼師です。……不自然な詰まりがあれば、それを通す。……ただそれだけのことですよ」
枢は初代皇帝のマントを翻し、里の地下へと続く深い闇を見据えた。
「……さあ、リナ。……ここからが第2部の本番、解決編の始まりです。……まずは里の地脈を完全に修復し、ヘイズの計画を根底から狂わせてあげましょう」
枢の宣言に、里の戦士たちが、今度は恐怖ではなく歓喜と覚悟を持って槍を掲げる。
聖鍼師と魔族。かつて仇敵だった者たちが、共通の病巣に立ち向かうための「不浄ならざる盟約」が、今ここに結ばれた。
第2部・後半戦『魔族領・地脈修復編』。
枢の放つ一刺しが、世界の運命をさらなる激動へと導いていく。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ヘイズ博士のあまりに巨大な悪行、そして枢さんの新たな決意。
第2部もいよいよ後半戦に突入です!
90話前後の完結に向けて、ここからさらに物語の熱量を上げていきますので、どうぞお見逃しなく!
今回登場した**『廉泉』**は、言葉を司る重要なツボ。
呪いを解かれた長老が語る次なる真実とは……?
そして明日からの土日は、1日6回の超連続更新でお届けします!
08:00 / 10:00 / 12:00 / 15:00 / 18:00 / 21:00更新予定です。
「枢さんの次の活躍が待ちきれない!」
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