表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/265

第59話:崩落の白銀、再生への産声

お読みいただきありがとうございます!


初代皇帝を永い眠りへと導き、ヘイズの野望を打ち砕いたくるる

しかし、制御を失った中央白銀塔は、膨大な魔力を撒き散らしながら崩壊を始めます。


逃げ惑う人々、そして崩れ落ちる帝都の象徴。

瓦礫の山と化した街で、聖鍼師が見せる「次なる一手」とは。


内関、郄門……。混乱を鎮め、明日を繋ぐ銀鍼の輝き。

2,000文字オーバーで描く、激動の脱出と再生の物語。

お昼休みのひとときに、どうぞお楽しみください!

 帝都ガレリアの空を支配していた白銀の塔が、内側から爆ぜるような異音を立てて激しく傾いていた。

 初代皇帝という「生きた心臓」であり「魔導の楔」であった存在を失ったことで、巨大な魔導炉が臨界を突破。行き場を失った膨大なエネルギーが、建物の構造材である魔導金属を内側から食い破り、分解し始めているのだ。


「枢様、早く! ここも持ちません! 床が、床が消えていきます!」

 リナの悲鳴が、轟音の中に響く。

 足元の金属板が粒子となって霧散し、眼下には数百メートル下の地上まで突き抜ける絶望的な虚無が広がっていた。しかし、くるるは慌てず、傍らに転がっていた赤いマント――先ほど砂となって消えた皇帝の唯一の遺品を、吸い込まれるような速さで手繰り寄せた。


「……リナ、私の手を離してはいけません。……今から『風の経絡』に乗ります。……肺の気を一点に集め、全身を羽根のように軽く意識するのです!」


 枢はリナの腰を抱き寄せると、崩落する窓枠を蹴り、瓦礫の雨と共に宙へと躍り出た。

 地上数百メートル。普通ならば、激突を待つだけの死へのダイブ。吹き荒れる暴風がリナの意識を奪いにかかる。だが、枢は落下の最中、自身の指を左手首の横紋から指三本分ほど肘側へ寄った場所――**『内関ないかん』**へと、肉が沈むほど深く押し当てた。


「……内関は、三焦さんしょうの気を整え、心の動揺と平衡感覚を司る要穴。……五感を閉じ、体内の気流だけに集中しなさい」


 さらに、前腕の中央を走る**『郄門げきもん』**に翡翠の気を流し込む。

 郄門は、激しい動悸やパニックを鎮めるための緊急避難所。その刺激により、死の恐怖に支配されかけていたリナの心拍が、一瞬で深い瞑想状態のように落ち着いた。


 枢の翡翠眼ひすいがんが、落下する瓦礫の隙間、そして塔から噴き出す魔力の奔流の間に存在する「黄金の風の筋」を捉える。

 バサァッ――!!

 枢が広げた皇帝のマントが、猛烈な上昇気流を孕んで大きく膨らんだ。それはまるで、かつての英雄が、自分を檻から解き放ってくれた若き聖鍼師を、その大きな翼で最後に見守っているかのようだった。

 二人は落下のエネルギーを水平の推進力へと変換し、帝都の広場へと、鳥のような優雅さで着地した。


 背後で、天を突いていた白銀の塔が、重力に従ってゆっくりと、しかし確実に崩壊していく。

 帝都の市民たちは、自分たちの繁栄の象徴が塵へと還る光景を、魂を抜かれたような顔で見届けるしかなかった。だが、真の悲劇はここから始まった。


 塔の崩壊に伴い、未精製の高濃度魔力が、濃い紫色の霧となって街の低層部へと流れ出したのだ。

「……ゲホッ! な、なんだ、この霧は……。息が、息ができな……っ!」

 広場に集まっていた人々が、次々と胸を押さえて倒れ伏す。魔力汚染による急性の中毒。それは、帝国の科学が産み落とした、最悪の副産物だった。


「……終わったのか……。すべて、壊れてしまったのか……」

 絶望に染まる広場に、枢の声が、静かに、しかし鋼のような強さで響き渡った。


「……いいえ、終わらせはしません。……むしろ、ここからが真の往診です。……リナ! ぼさっとしていないで、往診バッグから『解毒の銀鍼』をすべて出しなさい!」


 枢は一番近くで倒れていた警備兵の胸ぐらを引き寄せ、迷わず喉元の急所に鍼を打った。

「……これは、汚染された気を強制的に排出させるための処置です。……苦しいでしょうが、耐えなさい」


 枢は、まるで戦場を舞う蝶のように、倒れ伏す群衆の中を駆け抜けた。

 

 魔力の中毒を中和するため、首の付け根にある大きな骨の突起――**『大椎だいつい』に鍼を打ち、全身の熱と邪気を逃がす。さらに、背中の肩甲骨の内側にある『肺兪はいゆ』**を交互に刺激し、縮こまった肺胞を強制的に拡張させる。


 枢の手が動くたび、翡翠色の光の筋が広場を縫うように走った。

「……肺兪は肺の気を司る名穴。……帝都の『毒』をすべて吐き出し、清浄な空気を取り込みなさい!」


 一人、また一人と、死の淵にいた人々が激しく咳き込みながら、酸素を求めて立ち上がっていく。

「……助かった……のか? あの紫の霧の中で、俺は確かに死を覚悟したのに……」

「……見ろ、あの鍼師様だ。……アイアンロックを救ったという、あの聖鍼師だ!」


 かつて枢を路地裏で罵倒した特権医師たちも、今や瓦礫の中で震えることしかできていない。その横で、枢は数千という命を、たった一人の技術で繋ぎ止めていた。


 数時間後。広場を埋め尽くしていた霧は、枢の放った翡翠の気によって浄化され、帝都には静寂が訪れた。

 瓦礫の山となった塔の跡地。そこに沈む夕日は、壊れた街を悲しく照らすのではなく、新しい時代の始まりを告げる黄金の光のように見えた。


「……ふぅ。……これほどの数の往診は、さすがに指先が痺れますね」

 枢は鍼を丁寧に拭い、皇帝の形見であるマントを肩に掛け直した。


「……ヘイズ博士。……あなたが街に撒いたこの『毒』、私はすべて『明日への薬』に変えてみせましたよ。……さあ、逃げた先で、自分のしでかしたことの結末こたえあわせを待つがいい」


 枢の翡翠色の瞳は、崩壊した街のその先、逃亡したヘイズが向かったであろう「魔族領」の方向を、冷徹に見据えていた。

 帝都ガレリア。国家という巨大な患者の治療は、まだ始まったばかりである。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


白銀塔の崩壊、そしてくるるさんの「広場での大往診」。英雄の遺品を纏い、数千人を救うその姿は、まさに国家を救う聖鍼師の象徴です。


今回登場した『内関ないかん』は、手首にあり、パニックや吐き気、不安を鎮める万能のツボ。

そして『肺兪はいゆ』は、背中にあり、呼吸器全般の不調や、心の疲れまで癒してくれる名穴です。

背中を誰かにさすってもらうと安心するのは、この肺兪が刺激されるからなんですよ。


塔が消え、新しい夜が明ける帝都。しかし、逃げ延びたヘイズが選んだ「禁忌」は、さらなる世界の危機を招こうとしています。


「落下中の自分へのツボ押し、最高にクールで格好いい!」

「マントを纏った枢さん、英雄の風格が出てきた!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをお願いします!


次回、第60話は本日**【18:00】**に更新予定。

帝都再建の第一歩。そして、ヘイズが接触した「魔族の影」とは!?

第2部・後半戦の幕開け、お見逃しなく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ