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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第六章:過労の覇権と再生の経絡】

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第554話「調律師の嘲笑と、清涼の鍼路(しんろ)」

都市全体がギガワークスの『覚醒術式』によって限界を超えて燃やし尽くされようとしている第二の都市ディルムンド。スピーカーから響く高周波の魔導波により、住民たちの『陰虚火旺いんきょかおう』はついに臨界点を迎えようとしています。最高幹部『覚醒の調律師』の冷酷な支配に対し、枢先生が放つ「清熱せいねつ」の劇的治療の幕開けを描写いたします。

 「素晴らしい! 見たまえ、この生産性のグラフを! 以前のハザリアの無能どもとは大違いだ。人間は熱を加え、限界まで追い詰めてこそ、真の価値を発揮する鉱石なのだよ!」


 ディルムンドの中央にそびえ立つ魔導時計塔の最上階。贅を尽くした監視室の窓から眼下の狂乱を見下ろし、男が耳障りな笑い声を上げた。

男の名はウルス。ギガワークス本営から派遣された最高幹部の一人であり、人々の脳に強制的な超覚醒をもたらす術式を管理する『覚醒の調律師』である。彼の前にある操作盤には、都市の住人たちから吸い上げられた生命エネルギーの数値が、不気味な赤色のインジケーターとなって激しく明滅していた。


 「ウルス様、ハザリアを解放したという例の往診チームが、先ほど正門を通過したとの報告が入っておりますが……」


 背後に控える部下の言葉に、ウルスは鼻で笑った。


 「フン、東洋医学だか何だか知らんが、あの不眠の毒を抜いた程度で調子に乗ってもらっては困るな。このディルムンドの術式は、彼ら自身が『自ら望んで活性化させている』のだよ。効率を上げれば褒賞がもらえる。もっと早く動けば、もっと多くの果実が手に入る。彼らは自分の意志で命の蝋燭を燃やしているのだ。外から少し鍼を突いたくらいで、この熱狂が冷めるものか!」


 ウルスが狂信的な手つきでレバーを押し込むと、時計塔の頂上からさらに強烈な紫色の電磁波が街全体へと放射された。


 その瞬間、広場を歩いていた住人たちの動きが、さらに一段と加速した。

「ははは! もっと作れる! もっと走れるぞ!」と、一人の鍛冶職人が真っ赤に火照った腕でハンマーを狂ったように振り下ろしている。だが、その足元はすでに生まれたての小鹿のようにガタガタと震えていた。体内の『陰(水分やエネルギーの貯蔵)』が底をつき、暴走した『陽(興奮状態)』の熱が、彼の脳を、そして筋肉を内側から焼き焦がしているのだ。


 「――ひどい。これは治療ではありません。ただの延命ですらない、残酷な搾取です」


 広場の喧騒の中、枢の静かな声が響いた。

押し寄せる熱風と、人々の狂気的な熱気の中でも、彼の白銀の瞳だけは、ディルムンドの大地に流れる「干からびた経絡」の姿を正確に捉えていた。都市の地下に流れる龍穴の水分はすべて術式によって吸い上げられ、蒸発し、街全体が巨大な「乾燥炉」のようになっている。


 「 clinical に見て、あいつらの心臓はいつ止まってもおかしくねえぜ。相棒、どうする? 時計塔の上のスピーカーを全部ぶっ壊してくりゃいいかい?」


 哭が短剣の刃を逆手に持ち替え、冷徹な視線を時計塔へと向ける。


 「いえ、哭。物理的にスピーカーを破壊しても、住人たちの体内で暴走している『虚火きょか』は止まりません。急激に術式を遮断すれば、高熱を出した患者に冷水を浴びせるようなもの。ショック状態で心肺が停止します」


 枢の言葉に、往診鞄を抱えたハクとリナが息を呑んだ。


 「じゃあ、先生、どうやってこの熱を冷ますんですか……? 街全体がこんなに熱いのに……」


 「東洋医学には『熱なるものはこれをかんす』という大原則があります。ですが、今の彼らに必要なのは冷たい氷ではなく、内側から熱を鎮めるための『豊かな水(陰液)』の補給です。――ハク、リナ。広場の中心にある湧水池の跡地へ向かいます」


 枢が指示した場所は、かつてディルムンドがオアシス都市として栄えていた頃の中心地だった。今はギガワークスによって水脈を遮断され、ひび割れた石造りの池の跡だけが残されている。


 「おいおい、何をする気だ? 立ち入り禁止区域だぞ、そこは!」


 枢たちの動きを察知した衛兵たちが、異様な速度で立ち塞がった。彼らの手には、魔導電流を纏った槍が握られている。その顔は限界を超えた充血で紫がかっており、まさに暴走状態だった。


 「そこを通らせてもらうぜ。 clinical に見て、あんたたちの相手をしてる時間は1秒もねえんだ」


 哭の身体が影となって跳ねた。

超高速で突き出される衛兵たちの槍の軌道を完璧に見切り、その懐へと滑り込む。哭は刃を使うことなく、短剣の柄頭で衛兵たちの首筋の経穴――高ぶった神経を一時的に麻痺させる『安眠あんみん』の部位を的確に強打していった。


 「ガハッ……!?」


 限界まで張り詰めていた衛兵たちは、その一撃によって強引に興奮の糸を絶たれ、泥のようにその場へ崩れ落ちて眠りに就いた。過剰な陽気が引いた彼らの肌からは、一気に大量の汗が噴き出していく。


 「ガストンさん、池の底の礎石を!」


 「任せろ!」


 ガストンが巨大な戦斧を振り上げ、ひび割れた湧水池の中心へと叩きつけた。


 ズドォォォン!!


 凄まじい破壊音とともに石畳が砕け散り、その奥底に隠されていた、ギガワークスが水脈を封印していた黒い金属製の「遮断弁」が姿を現した。弁の表面には、都市の覚醒術式と連動した真っ赤な魔法陣が刻まれ、近づくだけで肌がジリジリと焼けるような熱気を放っている。


 「これが、ディルムンドの『水源(陰の根源)』を締め上げている病因ですね」


 枢は迷うことなく、砕けた穴の中へと飛び降りた。

彼の指先には、かつてないほど太く、深い青色の光を放つ『巨鍼こしん』が握られている。それは人体における深い関節や、土地の強固な封印を打ち破るために特化された、清熱の聖鍼だった。


 「時計塔のウルスの術式が陽脈を支配しているのなら……私はこの地の底から、陰脈を呼び覚まします。――『足の少陰腎経』、水穴すいけつを開放せよ!」


 枢が巨鍼を魔法陣の中心へと力強く突き刺した瞬間、ディルムンドの地の底から、地響きと共に冷涼な気の地鳴りが響き渡り始めた。過剰なる覚醒の熱狂に対し、聖鍼師による「絶対的な静寂と潤い」の反撃が、ついに始まったのである。

 第554話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、新都市ディルムンドの支配者『覚醒の調律師』ウルスの冷酷な術式と、それに対抗するために都市の干からびた「水源(陰脈)」の開放に挑む枢先生たちの緊迫した戦闘と治療の場面を描写いたしました。強制的な興奮によって命を削られる住人たちを、ただ止めるのではなく、内側から潤いを与えることで救おうとする東洋医学の深い知恵を感じていただければ幸いです。


 さて、今回は作中のディルムンドの住人たちのように「過度なストレスやプレッシャー、あるいは夏の猛暑や室内の乾燥によって体内の水分(陰液)が激しく消耗し、手のひらや足の裏がジリジリと熱くなったり、イライラして胸が苦しくなったりした時」に、体内の余分な「虚熱」を強力に引き下げ、心臓の興奮を鎮めて清涼感をもたらしてくれる手の超重要穴をお届けします。


 今回ご紹介するのは、手のひらの中央にある、心神を安定させ熱を冷ます名穴『労宮ろうきゅう』です。

場所は、**手のひら側にあり、手を軽く握った時に、中指と薬指の先が当たるところの間(ちょうど手のひらの中心のくぼみ)**にあります。


東洋医学において、ここは「手の厥陰心包経けついんしんぽうけい」という、心臓の働きを保護する経絡の要所です。過労や精神的な興奮は、この『労宮』の周囲に強い熱を発生させ、動悸や不眠、手のほてりを引き起こします。ここを刺激することで、作中の枢先生が地下の水脈を呼び覚ましたように、高ぶった心火しんかを劇的に鎮め、脳と身体に心地よい清涼感と深いリラックスをもたらすことができます。


ケアする場合は、反対側の親指の腹をツボに当て、手の甲に向かってじわーっと心地よい痛みを感じる強さで5秒間押し込むのを左右交互に7回ほど繰り返してみてください。息を細く吐きながら押すことで、胸のつかえがスッと取れ、ディルムンドの過酷な熱風に立ち向かう枢先生たちのように、冷静で瑞々しい心の平穏を取り戻すことができますよ。


 次なる第555話は、明日**7月15日(水曜日)の【12:00】**に更新を予定しております。地下の水脈を開放せんとする枢先生の鍼に、時計塔のウルスが仕掛ける次なる罠とは!? どうぞお楽しみに!

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