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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第六章:過労の覇権と再生の経絡】

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第551話「経絡の完全融解と、暁の復帰」

中央広場で大地の経絡を駆使し、ギガワークスが仕掛けた四つの「残存術式(楔)」を遠隔から中和し始めた枢先生。しかし、消えゆく術式が放つ最後の悪あがきである「焦燥の邪気」が、枢先生の肉体へと集中して逆流します。北の渓谷での防人たちの死闘と交錯しながら、ハザリアの病根を完全に断ち切るための限界を超えた「排毒」の結末を描写いたします。

 四方から押し寄せる赤黒い邪気の奔流は、中央広場の中心に立つ枢を目がけて、地を這う無数の蛇のように殺到していた。


 ギガワークスが街を呪縛するために打ち込んでいた四つの楔。それが大地の清らかな気によって解体される寸前、システムが引き起こした最後の防衛反応――すなわち、過労と焦燥の毒素を一点に集約し、施術者である枢の経絡ごと爆破せんとする、狂気的な逆流カウンターだった。


 「枢先生!!」


 ハクの悲鳴のような叫びが響く。だが、枢はその場から一歩も動かなかった。両手を石畳に突き立てたまま、白銀の瞳を限界まで見開き、迫り来る赤黒い光の波を正面から見据えている。


 (人体が強いウイルスに侵された時、一時的に高熱が出るように……土地の病根が抜ける瞬間にも、これほど猛烈な『瞑眩(めんげん:好転反応)』の嵐が吹き荒れるというのですか)


 ドクン! と、枢自身の心臓が激しく脈打った。

四本の魔導銀鍼を通じて、彼の両腕から侵入してきた邪気は、冷酷な爪となって彼の五臓六腑へと突き進む。頭を締め付けるような激しい頭痛と、胸を焦がすような焦燥感が枢の意識を白濁させようとした。生身の人間であれば、一瞬で精神を破壊され、不眠の廃人となり果てるほどの質量である。


 「……くっ……! 私は、聖鍼師……。人々の命を癒す者が、病の勢いに呑まれるわけには……いかない……!」


 枢は歯を食いしばり、体内の『気』を爆発的に循環させた。

自身の身体を巨大な「ろ過器」に見立て、侵入してきた邪気を『足の少陰腎経しょういんじんけい』へと誘導し、大地の底へと受け流す。精神を極限まで研ぎ澄まし、体内の陰陽のバランスをミリ単位で制御するその姿は、まさに神の領域の臨床オペだった。彼の白い医療着の隙間から、青白いスパークと赤黒い霧が火花を散らして弾け飛ぶ。


 同じその瞬間、北の渓谷街道でも、戦いは最終局面を迎えていた。


 「警告。個体の戦闘効率が予測値を大幅に超過。ハザリア住民の【フォーマット】に重大な支障あり。これより、最大出力での排除を開始する」


 特務部隊『黒鉄の執行官』の隊長が、感情のない声で告げると同時に、生き残っていた数十体の執行官たちが円陣を組み、それぞれの魔導砲を中央へ連結させた。彼らの背後に、街の残存術式と連動した巨大な赤黒い魔法陣が浮かび上がる。


 「おいおい、お仲間が街の中で必死に仕掛けた悪あがきと、ここでリンクさせようって腹か!」


 哭が短剣を血(魔力燃料)で濡らしながら、冷たく笑う。


 「ガストンのおっさん、あいつら、街の術式からエネルギーを吸い上げて大砲を撃つつもりだぜ。 clinical に見て、あれを食らったらこの谷ごと消し飛ぶな」


 「フン、そうはさせるかよ! 街の枢先生が今、その根っこを引き抜こうと戦ってるんだ。ここで俺たちが弱気になって、大地の気を滞らせてたまるかってんだ!」


 ガストンが咆哮し、壊れかけた戦斧を両手で握り直した。彼の全身からは、かつてないほど濃密な、エメラルドグリーンの大地のオーラが噴き出していた。地脈が回復したハザリアの地は、今や防人たちにとって、無限の生命力を供給してくれる最高の治療空間となっていたのだ。


 「野郎ども! 盾を重ねろ! 先生の鍼が街を救うのが先か、俺たちがここで灰になるのが先か、大博打といこうじゃねえか!!」


 バルトの叫びに応え、防人たちが地響きを立てて大盾を結束させる。その瞬間、渓谷の奥から放たれた最大出力の魔導熱線と、ガストンの戦斧、そして防人たちの魂の防衛線が真っ向から激突した。


 「グォォォォォッ!!」


 地鳴りが轟き、渓谷全体が激しく揺れ動く。凄まじい熱量が防人たちを焼き尽くそうとするが、彼らの経絡を流れる大地の気は、決して途切れることはなかった。


 そして――。


 中央広場で、枢の白銀の瞳が閃光を放った。


 「――これで、終わりです。全ての歪みを……自然の理へ還れ!!」


 枢の渾身の気合とともに、彼の手のひらから大地の奥深くへと、最後の一滴の邪気が完全にしゃされた。


 パシィィィン!!


 四方の建物に打ち込まれていた黒い楔が、ガラスのように同時に粉砕された。残存術式が完全に消滅したのだ。


 その瞬間、北の渓谷で執行官たちが放っていた魔導熱線の供給源が唐突に途絶えた。魔法陣が霧散し、エネルギーの逆流を起こした特務部隊の魔導装甲が、次々と内部から爆発を起こしていく。


 「ガシャイン……システム……完全停止……」


 隊長の放った最後の機械音とともに、漆黒の特務部隊はすべてその場に崩れ落ち、物言わぬ鉄の残骸へと変わった。谷底に、本物の静寂と、街の方から流れてくる清らかな朝風が吹き抜けていく。


 「……勝った、のか?」


 バルトが盾を下ろし、呆然と呟く。


 「ああ。相棒が向こうで完璧に仕事を終わらせたみたいだな」


 哭が短剣を収め、心地よい疲労感と共に天を仰いだ。


 中央広場では、枢がゆっくりと立ち上がっていた。その身体は激しい排毒の負荷で微かに震えていたが、ハクとリナがすぐさま両脇を支える。


 「枢先生! 大丈夫ですか!?」


 「ええ……。少し、気が枯渇しましたが、問題ありません。見てください……」


 枢が指差した先、ハザリアの街並みは、完全にギガワークスの呪縛から解き放たれ、本来の美しき色彩を取り戻していた。住人たちが一人、また一人と建物の外へ出てきて、何年ぶりか分からぬほどの「深い眠りから覚めたような清々しい顔」で、互いの健やかな身体を確かめ合っている。


 ベッカーはその光景を見つめ、静かに涙を流していた。


 「これが……管理されない、本当の『健康』というものか……」


 ギガワークスがもたらした「過労の覇権」は、ハザリアの地において、聖鍼師の理と人々の自己免疫によって完全に打ち破られたのだ。しかし、新大陸の支配を目論む巨大組織との戦いは、これが始まりに過ぎない。ハザリアの真の夜明けを背に、往診チームの絆はさらに強固なものへと昇華していくのだった。

 第551話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、都市の病根である残存術式を完全に中和する際の激しい「瞑眩(好転反応)」の描写と、前線の防人たちの自己免疫(防衛力)が見事にリンクし、ギガワークスの特務部隊を完全に退けるカタルシス溢れる決着をお届けいたしました。どれほど強力な外敵(邪気)であっても、体内の芯を正し、免疫力を最大に高めれば必ず排毒できるという、東洋医学の本質を感じていただければ幸いです。


 さて、今回は作中の枢先生が「限界を超える邪気の逆流に耐え、自身の経絡の乱れと激しい頭痛・めまいを瞬時に抑え込んだ時」のように、現代人が過度なマルチタスクや精神的ストレスによって頭に血が上り、激しい頭痛やめまい、あるいは強いイライラに襲われた際に、高ぶった「肝の気(自律神経の暴走)」を劇的に鎮めて頭をクリアにしてくれる足の特効穴をお届けします。


 今回ご紹介するのは、足の甲にある、高血圧や頭痛の特効穴である『太衝たいしょう』です。

場所は、**足の甲側にあり、親指と人差し指の骨の付け根が交わる手前のくぼみ(指で押し上げると骨にぶつかって止まるところ)**にあります。


東洋医学において、ここは「肝」の経絡の原穴(最も重要なツボ)であり、精神的なストレスや目の酷使、焦燥感によって上へと突き上げた「気」を一気に足元へと引き下げ、体内の気の巡りを正常化する強力な機能を持っています。作中で枢先生が邪気を大地の底へと受け流したように、この『太衝』を刺激することで、頭に血が上った状態(肝陽上亢)を鎮め、驚くほど冷静な思考とリラックスした身体を取り戻すことができます。


ケアする場合は、親指の先をツボに当て、人差し指の骨のキワに向かって、少し痛みを強く感じる強さでじわーっと7秒間押し込むのを左右交互に5回ほど繰り返してみてください。押した後に頭のモヤモヤがスーッと晴れ、視界が明るくなり、ハザリアの危機を救った枢先生たちのように、穏やかでブレない芯の強さを取り戻すことができますよ。


 次なる第552話は、本日**7月13日(月曜日)の夜【21:00】**に更新を予定しております。勝利に沸くハザリアのその後と、ギガワークス本営の次なる動きとは!? どうぞお楽しみに!

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