第53話:帝都の門、黄金の医官証
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火曜日の4回更新、その締めくくりとなる第53話をお届けします。
連休明けの日常が始まりましたが、本作は皆様の熱い応援のおかげで、日増しにアクセス数を伸ばし、物語もかつてない盛り上がりを見せております!
街道で沈黙させた魔導戦車。その操縦士から語られたのは、帝国最高顧問ヘイズによる、あまりにも非道な「禁忌の計画」でした。
亡霊と化した皇帝、そして帝都に渦巻く巨大な闇。
枢は黄金の医官証を手に、魔導兵器が立ち並ぶ帝都の正門へと真正面から歩みを進めます。
陽白、風池……鉄壁の守りを誇る門番たちに、聖鍼師が突きつける「驚愕の診断」とは。
1,700文字超の特大ボリュームでお送りする、帝都潜入編のプロローグ。
火曜日の夜のひととき、どうぞ最後までお楽しみください!
深い霧が立ち込める街道に、鋼鉄が軋む悲鳴が響き渡っていた。
枢が放った一刺しによって、帝国の最新鋭魔導戦車『グラップネル』は、その巨大な脚を無様に折り曲げ、沈黙している。
「……さて。……先ほどの方は画面越しに威勢よく語って消えましたが。……直接の担当者であるあなたに、再診(尋問)を行いましょうか」
枢は往診バッグから、ひときわ細く、しかし神経を逆撫でするような銀色の輝きを持つ**『微細探神経鍼』**を指の間に挟んだ。
戦車のハッチから這い出してきた操縦士は、枢の翡翠眼に見据えられ、蛇に睨まれた蛙のように硬直していた。
「ひっ、い、言う! 言うから、その針だけはやめてくれ! 俺たちはただ、ヘイズ博士から『廃棄物(流民)の清掃』と『聖鍼師のデータ収集』を命じられただけなんだ!」
操縦士は震える声で、帝都の闇の一端を語り始めた。
ヘイズ博士が求めているのは、帝国の科学でも、王国の魔法でも到達できない「生体エネルギーの完全制御」。その実験材料として、枢の聖鍼術が狙われているという。
「……博士は今、帝都の中央塔で『究極の患者』を治療……いや、改造している。……かつて帝国の英雄と呼ばれ、今は亡霊と化した『初代皇帝の抜け殻』をな……」
「……死者を弄ぶとは。……不衛生の極みですね」
枢の翡翠の瞳に、静かだが苛烈な怒りが宿る。初代皇帝の遺体を魔導技術で動かそうというその冒涜は、医を志す者として到底許せるものではなかった。
操縦士をカシム将軍の部下たちに引き渡すと、枢は霧が晴れ始めた街道の先を見つめた。
そこには、天空を突くほど巨大な鉄の塔――帝都ガレリアの威容が、夕闇の中に浮かび上がっていた。
「枢様。……やっぱり、行くんですね」
弟子のリナが、不安そうに、しかし覚悟を決めた顔で隣に立つ。
「……ええ。……これほど巨大な『腫瘍』、放置すれば世界中の経絡が腐り落ちます。……リナ、ここからは今まで以上に過酷な往診になりますよ」
枢はバッグから、一枚の黄金色の紙――アイアンロックでカシム将軍から贈られた「特級軍事医官証」を取り出した。
これがあれば、帝都の厳しい検問も表向きは「招聘された医師」として通過できるはずだ。
帝都の巨大な正門。そこには、魔導センサーを装備した無数の憲兵と、自動掃射機能を備えた防衛兵器が立ち並んでいる。
枢とリナが近づくと、門番たちが殺気立った様子で魔導短銃を構えた。
「止まれ! 許可なき者の通行は禁じられている。……ほう、軍事医官証か。だが、最近は偽造も多いからな……」
門番のリーダー格の男が、疑り深い目で枢を舐めるように見た。
「……偽造かどうかを確認する前に、ご自身の『首の裏』を心配されてはいかがですか?」
枢の言葉に、門番が眉をひそめる。
「……何だと?」
「……あなたは右の**『陽白』が痙攣し、首の後ろの『風池』**が石のように硬くなっている。……その魔導ヘルメットの出力が強すぎて、脳の血管が限界まで圧迫されています。……あと三十分もすれば、あなたは激しい眩暈と共に、その場で昏倒するでしょう」
「……な、何故それを……。確かに、さっきから頭が割れるように……」
門番がたじろいだ瞬間、枢は電光石火の速さで手を伸ばした。
「失礼。……これは緊急処置です」
枢は指先に翡翠の気を込め、門番の耳の後ろにあるツボを鋭く指圧した。
「……あ、がっ……!? 痛……いや、熱い……?」
門番の首筋から「プシュッ」と不自然な蒸気が吹き出したかのように、滞っていた気が一気に流れ出した。
「……陽白は視界を司り、風池は風の邪気、つまり外部からの異常な魔力干渉を散らす要。……これで、視界の霞も消えたはずです」
門番が驚愕の表情で目を開くと、そこには先ほどまでの霞んでいた視界が、嘘のようにクリアに広がっていた。重く沈んでいた頭も、羽が生えたかのように軽い。
「……とお、通れ! 本物だ……。これほどの名医、偽造などできるはずがない! 特級医官殿だ、礼を失するな!!」
憲兵たちの敬礼の中、枢とリナは帝都の心臓部へと踏み入る。
そこは、蒸気機関の熱と、冷徹な電脳、そして絶望的な格差が支配する、鋼鉄の迷宮。
枢の銀鍼が、帝国の歪んだ歴史そのものに突き刺さる瞬間が、刻一刻と近づいていた。
「……さて、ヘイズ博士。……あなたが壊した『世界』を、私が根こそぎ往診してあげますよ」
枢の翡翠色の瞳が、夕闇に沈む帝都の街並みを、静かに、そして鋭く射抜いた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ついに帝都潜入編がスタートしました。
枢さんの前に立ちはだかったのは、厳しい検問。しかし、最新の魔導装備に身を固めた門番ですら、枢さんの目には「重症患者」にしか見えません(笑)。
今回登場した『陽白』は、眉毛の少し上にあり、眼精疲労や頭痛に絶大な効果があるツボ。そして『風池』は、首の後ろにあり、自律神経を整えたり、風邪の引き始めの「ゾクゾク」を解消してくれる非常に重要な場所です。
デスクワークやスマホで目が疲れている方は、ぜひ『陽白』を優しく押してみてくださいね。
さて、操縦士が語った「初代皇帝の蘇生」。ヘイズ博士の狂気は、もはや生者だけでは飽き足らないようです。
「門番を一瞬で味方につける枢さん、格好いい!」
「1,700文字以上のボリュームで、帝都の空気感が伝わってきた!」
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次回、第54話は明日(水曜)の**【08:00】**に更新予定。
黄金に輝く大通りの裏に隠された、帝都の「本当の姿」。
そこで枢が見る、さらなる医療格差の闇とは……?
明日の更新もお楽しみに!




