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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第520話「動き出す内風!生温かき突風と新たな歪み」

くるる先生の『命門の火』、そしてこく先生の『委中いちゅう』への穿刺という二人の天才医師の共闘によって、見事に完全消滅を遂げた「寒邪」の怪異。

しかし、極限の冷えが急激に融解した反動により、大自然の陰陽バランスは一気に揺らぎ始め、往診チームの周囲には生温かく不気味な「風」が吹き始めました。

今回から始まる新章は、五邪が一つ、万病の長とも呼ばれる『風邪ふうじゃ』との戦い。新たな clinical な危機の幕開けを、じっくりとお楽しみください。

 魔導船の周囲を満たしていた、あの視界を閉ざすほどの白き氷山と絶対零度の吹雪は、いまや完全に姿を消していた。


 海面は鏡のように滑らかに広がり、先ほどまで往診チームを恐怖に陥れていた寒冷のエネルギーは、ただの穏やかな海水へと還っている。

 だが、その静寂は決して「完全なる治癒」を意味してはいなかった。大自然という巨大な肉体において、極端な陰(冷え)から陽(熱)への急激な転化は、必ずその境界線に予測不能な「歪み」を生じさせる。


「……おっかしいな。寒さは完全に引いたはずなのに、なんだかさっきから、急に身体のあちこちが痒いというか、落ち着かない感じがするんだ」


 ガストンが舵輪を握ったまま、自分の太い首筋や腕を大きな手でポリポリと掻きむしった。

 彼の皮膚表面には、まるで小さな虫が這い回っているかのような、微細な赤みを帯びた発疹が突発的に浮かび上がっては、数分と経たずに別の場所へと移動している。


「ガストンさん、動きを止めて。それ、ただの肌荒れじゃないわ。皮膚の表面を流れる『衛気えき』の巡りが、外の空気に引っ張られて完全に みだ されている」


 リナが魔導銃をホルダーに収めながら、ガストンの異変を鋭く指摘した。

 彼女自身の長い髪も、どこからともなく吹き込む「生温かい風」によって、不規則に、そして不気味に波打っている。


「ハクさん、天球儀の様子はどうですか? 寒邪の数値は完全に消失しているはずですが……」


 シオンが操舵室の奥でハクの様子を窺うと、ハクは青ざめた顔で、まるで生き物のように不規則な脈動を繰り返す天球儀の針を必死に押さえていた。


「ダメだ、シオンさん! 数値が……数値が全く一定しないんだ! さっきまで東を示していたかと思えば、次の瞬間には真逆に跳ね上がる! まるで、この海域の空気そのものが『痙攣けいれん』を起こしているみたいだ!」


 ハクの言葉通り、操舵室の外の景色が、妙に細かく微振動し始めていた。

 風は、一方向から吹いてくるのではない。上から叩きつけたかと思えば、次の瞬間には床下から吹き上げるように渦を巻き、魔導船の船体を全方位から不規則に揺さぶっている。


 東洋医学において『風邪ふうじゃ』とは、文字通り「風」のように動きが激しく、変化が速く、そして他のあらゆる病邪(寒や湿など)を身体の奥深くへと引き連れてくる「万病の長」である。

さらに、その性質は『遊走性ゆうそうせい』と呼ばれ、症状が一点に留まらず、身体のあちこちへと目まぐるしく移動するのが特徴だった。


「……ふん、冷えが解けた瞬間に、今度は『ふう』が立ち昇ったか。キチキチ……、実に教科書通りの陰陽転化ではないか、枢」


 船内の医務室から、再びデッキへと姿を現した哭が、激しく渦巻く生温かい風の中で不敵に笑った。

彼の持つ黒鍼のケースが、周囲の空気の乱れに反応して、まるで警告を発するように微かにカタカタと震えている。


「ええ。極限の寒さが融けたことで、大気の中に溜まっていた『エネルギー』が一気に解放され、制御を失って暴走し始めているのです。人間で言えば、急激な高熱の後に起こる、突発的な『痙攣ひきつけ』や『めまい』と同じ状態ですね」


 枢が白銀の瞳を細め、船体を包み込もうとする不可視の風の渦を見つめる。

 彼の顔には、先ほどの命門の火の点火による疲労が色濃く残っていたが、その眼差しには、新たな病邪を決して見逃さないという clinical な強い意志が宿っていた。


「風邪は、人間の『皮毛(ひもう・皮膚の表面)』を緩め、そこから経絡の隙間へと容易に侵入する。そして、一度内側に入り込めば、それは『内風ないふう』となり、五臓のバランスを内側から木っ端微塵に破壊するぞ。この船が完全に狂い出す前に、私がその芽を摘んでやろう」


 哭がケースから、細く、そして尋常ではないほどの鋭利さを放つ、青みを帯びた特殊な「風針ふうしん」を指の間に挟み込んだ。

風のように素早く動き回る病邪を捉えるには、彼の持つ絶対的な速度と、冷徹なまでの標治(攻撃的治療)が必要不可欠であった。


「待ってください、哭先生。今回の風邪は、ただの体表の乱れではありません。この霧の奥に、風を操る『真の病根』が潜んでいます」


 枢が遮るように手を挙げたその瞬間、魔導船の行く手を阻むように、海面から巨大な「半透明の竜巻」が何本も同時に立ち昇り、往診チームの視界を完全に遮断した。

五邪が新たなる刺客、風邪との、さらなる過酷な臨床的激闘の幕が、いま静かに clinical に切って落とされたのである――。

第520話「動き出す内風!生温かき突風と新たな歪み」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


寒邪との激闘を終えた往診チームを待ち受けていた、新たなる五邪の脅威『風邪ふうじゃ』の出現と、その不気味な遊走性の描写をお届けいたしました。


 今回は、新章のテーマとなる「風邪」の病理と、その圧倒的な特徴について解説いたします。

 東洋医学において「風邪」は、すべての病気の原因の先頭に立つという意味で「百病のひゃくびょうのおさ」と呼ばれています。その最大の特徴は、風のように「常に動き回り、変化が極めて速い」という点です。ガストンの皮膚に現れた移動する発疹や、天球儀の数値の激しいブレは、まさにこの風邪の『遊走性ゆうそうせい』と『変幻百出へんげんひゃくしゅつ』の性質を clinical に表しています。さらに、風邪は人間の身体の最も高い部分(頭や顔)や、体表のバリア(衛気)の隙間を狙って侵入するため、一度入り込まれると、自律神経の急激な乱れや、めまい、痙攣といった「内風ないふう」の重篤な症状を引き起こす原因となります。哭先生の放つ鋭利な「風針」が、この掴みどころのない病邪をどのように捉えるのか、これからの展開にどうぞご期待ください。


 金曜日の夜、一週間のすべてのお仕事や家事を終え、ようやく心身ともにホッと一息つかれているリラックスタイムかと存じます。

週末を迎えて「なんだか急に頭がふわふわして、めまいがする」「身体のあちこちの筋肉がピクピクと勝手に痙攣して、落ち着かない」「突発的な頭痛が、場所を変えながらズキズキ痛む」という症状に悩まされている方は、まさに体内の陰陽のバランスが崩れ、頭部や体表に悪い「ふう」が吹き荒れている典型的なサインです。


そんな時は、お布団に入る前に、首の後ろの髪の生え際にある、2本の太い筋肉の外側のくぼみ(風池・ふうち)を、親指の腹を使って、頭の中心に向かってじわーっと心地よい強さで押し上げてみてください。

頭部に昇って暴れていた余分な「風の気」がスーッと足元へと引き下がり、脳の興奮が劇的に clinical に鎮まって、一週間の緊張から解放された深い深い眠りにつくことができますよ。

週末に向けて、まずは頭の風を鎮めて、ゆっくりとお休みくださいね。


 魔導船の前に立ち塞がる、巨大な風の結界。哭先生の超絶なる針捌きは、この形なき病邪を討ち果たすことができるのか――。


次なる第521話は、明日土曜日の【12:00】に更新予定です。お休みの日のひとときに、さらに加速する物語の続きをどうぞお楽しみに!

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