第51話:灰色の流民、歪んだ生存本能
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小海、孔最……絶望の淵にいる彼らに、枢の銀鍼が「人間としての光」を取り戻させます。
しかし、その救済を阻むように、背後から迫る巨大な鋼鉄の影。
1,700文字超でお送りする新章激闘編、ぜひお楽しみください!
紫色の霧の中から現れたのは、かつては人間であっただろう「成れの果て」だった。
彼らの皮膚は機械の錆のような灰色に変色し、露出した腕からは不気味な魔導回路が血管のように浮き出ている。帝国の魔導実験に失敗し、廃棄された「灰色の流民」と呼ばれる者たちだ。
「……あ、あぁ……。熱い……中が、焼ける……」
先頭の男が、巨大化した右腕を引きずりながら、枢に向かって手を伸ばす。それは攻撃というより、溺れる者が藁を掴もうとするような絶望的な仕草だった。
「枢さん、危ない! 憲兵隊の話では、彼らは正気を失って襲いかかってくるって……!」
リナが警告するが、枢は動じない。彼の翡翠眼は、男の肥大化した右腕の「気の流れ」が完全に破綻し、破裂寸前の風船のようになっていることを見抜いていた。
「……リナ、落ち着きなさい。……彼は襲っているのではない。……自分の体内で暴れる『異物』を止めてくれと、魂が叫んでいるだけです」
枢は一歩踏み出すと、男の巨大な右腕を、恐れることなく両手で掴んだ。
「ガ、アアアァァァッ!!」
男が苦痛に咆哮する。男の右腕から発せられる高濃度の魔力汚染が、枢の衣服を焼き、肌を刺す。だが、枢は自身の気を指先に集中させ、男の肘にある**『小海』**というツボを強烈に圧迫した。
「……小海は小腸経の合穴。……心の熱を鎮め、気の逆流を抑える場所。……暴れる魔力よ、持ち主の命を喰らうのを止めなさい」
枢の指から翡翠の気が男の腕へと流れ込む。
パンパンに腫れ上がり、赤黒く光っていた男の右腕が、目に見えて萎んでいく。男の瞳に宿っていた狂気の色が消え、涙が溢れ出した。
「……お、落ち着いたか。……だが、まだ終わりではない。……君たちの肺は、この紫の霧――魔導廃棄ガスのせいで、呼吸をするたびに内側から傷ついている」
枢は周囲を取り囲む他の「流民」たちを見渡した。彼らもまた、枢の神技を目の当たりにし、武器代わりの鉄パイプを落としてその場に膝をつく。
「……全員、座りなさい。……まとめて『緊急往診』をしてあげます。……リナ! 大量に使うから、三番の鍼をすべて出しなさい!」
「はいっ! 枢さん、こっちの人、背中がすごく熱いです!」
「……それは肺の気が枯渇しかけている証拠だ。……まずは、肘の近くにある**『孔最』**を突く。……ここは肺経の『隙穴』。急性の症状、特に呼吸の乱れと熱を一気に鎮めるスイッチだ」
枢は霧の中を踊るように動き、次々と異形の者たちの腕に鍼を打っていく。
孔最への一刺しは、彼らの肺に溜まっていた毒素を強制的に咳として排出させた。
「カハッ、ゴホッ……!!」
彼らが吐き出したのは、どす黒い粘液。それが体外に出た瞬間、彼らの灰色の肌に、わずかだが人間らしい赤みが戻った。
「……ふぅ。……とりあえず、これで数日は持ちます。……ですが、この霧の発生源を叩かなければ、あなたたちはまた同じ苦しみを味わうことになる」
枢が霧の奥を睨みつけると、そこには横転した貨車から逃げ出す、一人の白衣を着た男の姿があった。ヘイズ博士の部下である研究員だ。
「待て……! 貴様、何をした! 被検体どもの『安定化』など、我々の技術でも不可能だったはずだぞ!」
「……不可能なのは、あなたが彼らを『物』として扱っているからです。……鍼師は、彼らの『生きたい』というツボの声を聴いただけだ」
枢の言葉に、救われた流民たちが、力なく、しかし確かな感謝を込めて枢に頭を下げる。
だがその時、霧のさらに奥から、地を這うような巨大な駆動音が聞こえてきた。
現れたのは、六本の脚を持つ巨大な「魔導多脚戦車」。
その砲口は、枢と、彼が救ったばかりの流民たちに向けられていた。
「……やれやれ。……往診の邪魔をする患者が、また増えましたか」
枢は往診バッグから、これまでとは違う、黒く光る特殊な鍼を抜き放った。
鋼鉄の怪物に対し、聖鍼師の「解体術」が牙を剥く。
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枢さん、敵だと思った相手まで救っちゃうあたり、本当にブレない医者ですね。
今回登場した『孔最』は、実際にも咳が止まらない時や、急な喉の不調に効果的な「肺の守護神」とも言えるツボなんですよ。
さて、最後に現れた魔導戦車。
さすがの枢さんも、あの巨大な鉄の塊に鍼は通じるのか!?
「枢さんの優しさに泣けた……流民たちを助けてあげて!」
「戦車相手にどう戦うの!? 続きが気になりすぎる!」
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次回、第52話は本日**【18:00】**に更新予定。
対機甲・聖鍼術。鋼鉄の巨獣を、枢が「解体」する!
夕方の更新も、どうぞお見逃しなく!




