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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第508話「オアシスの崩壊!不本意なる共闘と陰陽の双鍼」

金曜日のお昼休み、いよいよ週末が見えてきた大切な休息の時間にお届けするのは、新章のボルテージが最高潮へと達する第508話です。


昨夜21時の更新では、同じ『肺熱熾盛はいねつしじょう』の重症患者を巡り、枢先生の「王道」と哭先生の「覇道」が激突。哭先生の強烈な瀉法しゃほうに対し、枢先生はシオンのエキスを纏わせた繊細な捻転補法ねんてんほほうで見事に細胞の潤いを蘇らせ、その臨床の精度の高さを示しました。しかしその直後、地鳴りとともに街の中央のオアシスが完全消滅。底から「真の病根」が姿を現そうとします。

今昼描かれるのは、街の存亡をかけた、相反する二人の医師による「不本意にして最強の共闘」。

乾燥の根源を断つため、二つの銀鍼が今、一つの戦場で交差します。お昼のひとときに、胸が熱くなる大迫力の治療劇をどうぞお楽しみください。

 地鳴りは収まるどころか、さらにその震動を激しくしていく。

 医療所の外へと飛び出した往診チームとこくの目に飛び込んできたのは、街の命綱であるはずの大泉が完全に干からび、すり鉢状の泥の巣穴へと変貌した悍ましい光景だった。

 底なしの泥の奥底から、無数の節足が擦れ合う「キチキチキチ……!」という不快な高周波の音が響き渡り、大気をさらにカラカラへと変色させていく。


「……あれは、古代魔虫『乾渇百足カンカツムカデ』!? 間違いないわ、あの魔獣がオアシスの底の水脈に巣食い、大地の水分(陰液)を異常な速度で貪り喰っていたのよ!」

 リナが魔導銃を構え、天を仰ぐような巨大な影を見据えて叫んだ。


 巣穴の底から姿を現したのは、全長数十メートルに及ぶ、赤黒い外殻を纏った巨大な百足だった。その全身の節々から、触れるものすべてを瞬時に木の葉のように乾燥させる、猛烈な『燥邪そうじゃの波動』が放射されている。街の周囲の木々が、また一本、一瞬で茶色く枯れ果てて崩れ落ちた。


「クソッ、あの野郎がこの街を干からびらせてた元凶か! ぶっ叩いてやる!」

 ガストンが戦斧を握り締め、陽気を爆発させて跳躍しようとした――その時。


「待て、大戦士。お前のその莫大な陽気は、今のこの乾燥しきった大気の中では、むしろ燥邪の火に油を注ぐ『燥熱そうねつ』へと変化する。無闇に突っ込めば、お前自身が内側から干からびて死ぬぞ」

 哭が低い声で制した。彼の右手には、すでに五本の黒銀の長鍼が、妖しい魔力を放ちながら構えられている。


「この街は、私の医療実験場だ。あの虫風情に、私の患者どもをこれ以上干からびさせるわけにはいかん。――おい、王道の偽善者」

 哭の深紅の瞳が、隣に立つくるるへと向けられた。

「私のやり方が反吐が出るほど嫌いなら、ここで私にその実力を見せてみろ。お前のその『潤いの医術』で大地の防衛線を支えろ。私が、あの虫の病巣(核)を内側から爆発させて引き摺り出す」


 枢は往診鞄から、先ほどよりも一回り太い、純銀の『長鍼』を取り出した。その白銀の瞳には、一切の躊躇も恐怖もない。


「同感です、哭先生。思想の決着は、この大地の病をなおした後に、いくらでもつけましょう。――シオンさん、ハクさん、ネネさん、私に続いてください!」


「はい、先生! 大地の水分を保持する、五行の『すい』の障壁を展開します! ――『玄武の潤水げんぶのじゅんすい』!」

シオンが魔導書を最大に開き、往診チームと哭の周囲に、瑞々しい水の結界を張り巡らせた。これによって、魔虫が放つ極限の乾燥波動が、一時的に遮断される。


「天球儀、駆動! 魔虫の経絡をスキャン……そこだ! 奴の第十三節の裏側、そこにすべての水分を吸引している『燥邪の要穴(核心)』があるよ!」

ハクが片眼鏡を光らせ、天球儀から放たれた金色のサーチライトが、巨大な百足の腹部を正確に射抜いた。


「行くわよ、哭! ――道を拓くわ!」

リナが引き金を引く。放たれた氷結弾が、魔虫の足元を凍りつかせ、その巨大な動きを一瞬だけ完全に止めた。


「ふん、最高の clinical なお膳立てだ……。行くぞ、枢!!」

哭の身体が、黒い疾風となって砂の巣穴へと突っ込んだ。

それと同時に、枢もまた白銀の光を纏い、哭と完全に並び立つ速度で地を駆ける。


「キチィィィィッ!!」

魔虫が異変を察知し、尾を激しく振り回して二人を叩き潰そうとする。しかし、哭の黒鍼が、目にも留まらぬ速さで空中の大気(経絡)を穿った。


「――『黒燕・点穴こくえん・てんけつ』!!」

哭の黒鍼が、魔虫の尾の神経節へと正確に突き刺さる。強烈な瀉法の手技により、魔虫の運動エネルギーが強制的に外部へ暴発させられ、その巨躯が大きくバランスを崩してのけぞった。


「今です、哭先生! ――陰陽双鍼、刺入!!」

枢の叫びと同時に、二人の天才が、魔虫の第十三節の核心へと同時に跳躍した。

ハクの示したピンポイントの経穴に対し、右からは枢の『純銀の補法の鍼』が、左からは哭の『黒銀の瀉法の鍼』が、寸分の狂いもなく同時に突き立てられた。


 ズ、ズズズ――ッ!!!


 医療の歴史上、決して交わるはずのなかった二つの絶技が、魔虫の体内で完璧に融合する。

枢の鍼は、魔虫が奪い去っていた大地の水分(陰液)を優しく引き戻して大地へと還す(補法・潤燥)。

哭の鍼は、魔虫の体内に溜まった燥邪の熱毒を、内側から細胞ごと一気に爆発させて霧散させる(瀉法・清熱)。


 ドッ、ガァァァァァン!!!


魔虫の巨躯が、内側から溢れ出した白銀の光と漆黒の魔力によって、激しく引き裂かれた。

中から噴き出したのは、これまで街から奪われていた、圧倒的な質量の「オアシスの水源」だった。水流は激しく湧き上がり、干からびていた砂のすり鉢を一瞬で満たし、再び美しいエメラルドグリーンの大泉へと変えていく。


「キチ、キチ……、ァ……」

乾燥の根源であった魔虫は、自らの燥邪を完全に中和され、瑞々しい水の中に溶けるようにして、静かに消滅していった。


ザザーーッ……、と、蘇ったオアシスの水面が、美しい波紋を描いて落ち着きを取り戻す。

周囲の枯れかけていた木々が、嘘のように一瞬で青々とした葉を茂らせ、街全体に、しっとりとした最高の「潤い」が戻ってきた。


「はぁ……、はぁ……」

泉の縁に同時に着地した、枢と哭。

二人はお互いに背を向けたまま、それぞれの銀鍼を静かに往診鞄、そして黒衣の懐へと収めた。


「……見事な手際でしたね、哭先生。あなたの瀉法の速度がなければ、私の補法が届く前に、魔虫の燥邪に焼き切られていたでしょう」

枢が静かに、しかし敬意を込めて告げた。


「ふん、お前のその生ぬるい潤いの魔力がなければ、私の黒鍼が届く前に、私が干からびていた。……お前の医術、単なる偽善ではないことだけは、認めてやる」

哭は振り返ることなく、だがその口元には、初めて敵としての不敵な笑みではなく、実力を認めざるを得ないライバルとしての「不敵な笑み」が浮かんでいた。


「だが、勘違いするな。これで終わりではない。この街の患者どもの予後をどちらが完璧に管理するか……勝負はこれからだ」


「ええ、望むところです」

白銀の瞳と深紅の瞳が、蘇った美しいオアシスの水面を挟んで、再び静かに火花を散らす。

しかし、その火花は先ほどのような険悪なものではなく、お互いの実力を誰よりも理解し合う、 clinical な宿敵同士の、果てしなき競争の始まりを告げるものだった――。

 第508話「オアシスの崩壊!不本意なる共闘と陰陽の双鍼」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

金曜日のお昼休み、一週間の締めくくりにふさわしい、枢先生と哭先生による圧巻の「陰陽共闘バトル」を大ボリュームでお届けいたしました。相反する二つの才能が clinical に噛み合うカタルシスを感じていただけましたでしょうか。


 今回は、二人が魔虫に対して用いた東洋医学の最高奥義『陰陽の調和(補瀉同施:ほしゃどうし)』の病理について解説いたします。


 東洋医学において、今回の魔虫のように「水分を激しく奪いながら熱を撒き散らす」という極めて複雑な病態(燥熱病邪)に対しては、単に冷ますだけでも、単に潤すだけでも対応できません。


そこで二人が行ったのが、潤いを足す『補法ほほう』と、邪気を追い出す『瀉法しゃほう』を、全く同時に同じ経穴へと施す「補瀉同施」という奇跡的なアプローチです。枢先生の純銀の鍼が大地の水分を呼び戻し、哭先生の黒銀の鍼が熱毒を強制排出する。この「陰」と「陽」、「補」と「瀉」の完璧なバランスが揃って初めて、頑固な燥邪の根源を根本から治療(消滅)することが可能となりました。お互いの思想は真逆であっても、人体(大自然)を治すという臨床の精度において二人が完全に同調している様子は最強の相棒ライバルとなることを予感させます。


 現代の皆様にとっても、今週一週間のデスクワークや頭脳労働によって体内のエネルギーが消費し尽くされ、まさに「陰(水分や休息)」も「陽(気力や活動力)」もバランスを崩しやすい時間帯です。


今週末は、お仕事を終えられましたら、ぜひ美味しい温かい食事を摂り、お風呂にゆっくりと浸かって、体内の陰陽のバランスを clinical に整えてあげてくださいね。


魔虫を倒し、ひとまずオアシスを救った二人。しかし、哭先生との「患者の管理勝負」は始まったばかりです。


次なる第509話は、本日金曜日の【21:00】に更新予定です。

今夜の一週間のご褒美となる夜のリラックスタイムに、二人のさらなる臨床対決の続きをどうぞお楽しみに!

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