第5話:魔王軍幹部、極上の施術に落ちる
本日の一挙投稿、ついにラストの第5話です!
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
21時という、なろうが最も賑わう時間にお届けするのは、枢と「魔族の刺客」の邂逅です。
暗殺か、それとも別の目的か。
枢の放つ一鍼が、魔族の運命さえも変えてしまう……かもしれません。
ぜひ最後までお楽しみください!
その夜、学園の寮にある枢の自室に、異常な「圧」が満ちた。
窓から音もなく侵入してきたのは、漆黒の外套を纏った、青白い肌の美男子。
魔王軍第四軍団長、『倦怠のイザルク』。
一国を一夜で滅ぼすと謳われる伝説の魔族が、いま、枢の目の前に立っていた。
「……貴殿が、王女の呪いを解いた『聖鍼師』か」
イザルクの瞳には、明確な殺意ではなく、切実なまでの「渇望」が宿っていた。
枢は動じず、手にした医学書をゆっくりと閉じる。
「夜分遅くに窓からとは。不法侵入ですよ、軍団長さん。……それとも、あまりに体が重すぎて、玄関まで回る余裕もなかったのですか?」
「……! 私の正体だけでなく、容体まで見抜くか」
イザルクは驚愕した。
彼は数百年もの間、全身を刺すような激痛と、石を引きずっているかのような倦怠感に苛まれていた。魔族特有の強大すぎる魔力が、肉体の限界を超えて変質し、彼を内側から蝕んでいたのだ。
「お前の『鍼』とやらを試させろ。もし私のこの苦痛を払えたなら、今期の王都侵攻は中止してやってもいい」
「取引はしません。……ですが、そこまで顔色が悪い患者を見逃すのは、鍼灸師の矜持が許さない」
枢は立ち上がり、静かに『絶糸』を生成した。
翡翠眼が捉える。イザルクの全身は、魔力の激流が衝突し、巨大な「しこり」となって血流を阻害していた。
「……服を脱ぎ、そこに俯せになってください。三寸の鍼を使います。かなり『響き』ますよ」
「ふん、魔族の王を自称した私に、痛みなど――」
枢の指先が閃いた。
イザルクの背中、『膏肓』。病が深く入り込み、医者も手が出せないと言われる伝説の経穴。そこへ、魔力の鍼が深々と吸い込まれていく。
「――っ!? ぐ、あああああああああああああああッ!!」
魔王軍幹部の絶叫が、結界を張った室内で爆発した。
痛みではない。数百年、氷のように固まっていた神経が、無理やり溶かされ、再起動する衝撃。
「……逃げないでください。まだ、首の**『天柱』**が残っています」
「ま、待て……! これ以上は……あ、あああああッ!?」
枢の手は止まらない。
目にも留まらぬ速さで、全身の「澱み」を次々と射抜いていく。
黒ずんだ魔力が、鍼を通じて体外へ霧散し、代わりに清浄な気がイザルクの全身を駆け巡った。
数分後。
そこには、床に突っ伏したまま、生まれたての小鹿のように震えるイザルクの姿があった。
「……どうです。まだ、倦怠感はありますか?」
「……っ。なんだ、これは……」
イザルクがゆっくりと立ち上がる。
その動きには、先ほどまでの重苦しさは微塵もない。
指先まで力が満ち、視界は驚くほどクリアになっていた。
「軽い。……軽いぞ! この数百年、眠ることすら叶わなかったこの私が……! これほどの快感、魔王様の恩寵ですら味わったことがない……!」
イザルクは感動のあまり、枢の前に跪いた。
「枢殿……。貴殿は、神か? 破壊することしか知らぬ我ら魔族に、これほどの『救い』を授けるとは。……決めた。私は今日限り、軍団長を辞す」
「え?」
「これからは貴殿の『患者』として、そしてこの身を守る『盾』として、ここに留まらせていただく!」
「……いや、帰ってください。本当に」
翌朝。学園の校門前には、枢を待つ王女ティアに加え、なぜか枢の「弟子」を自称し、護衛のように背後に立つ美男子(元魔王軍幹部)の姿があった。
「おはようございます、枢様! 今日の施術の予約をお願いします!」(王女)
「枢殿、私の経絡に再び乱れが……! すぐに診ていただきたい!」(元幹部)
「……静かに、暮らしたいだけなのに……」
枢の溜息とは裏腹に、彼の「神の鍼」を求める声は、世界全土へと響き渡っていくのであった。
第5話までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました!
現役の鍼灸師として、東洋医学の面白さを少しでもお伝えできていれば嬉しいです。
枢の旅はまだ始まったばかり。これからさらにクセの強い患者(?)たちが続々と登場します。
「続きが気になる!」「枢の活躍をもっと見たい!」
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明日も更新予定です。またお会いしましょう!




