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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第480話「地下水道の決戦!澱む負の遺産と湿邪を払う陰陵泉」

マルセイユの夜を襲った毒霧を退け、捕らえた残党の口から明かされた、地下水道に眠る旧ギルドの「負の遺産」。

それは、利権を失ったギルドが町全体を道連れにしようと仕掛けた、高濃度の毒素貯蔵タンクの暴走でした。

金曜日の爽やかなお昼休みに、往診チームは太陽の届かない暗い地下世界へと決死の潜入を試みます。

湿気とカビ、そして漏れ出す毒気によって、チームの肉体には急激な「重だるさ」と「関節の痛み」が襲いかかりますが、新メンバー・ネネの調合と、聖鍼師・枢先生の白銀の長鍼が、このマルセイユ編の最終決戦を鮮やかに締めくくります!


「地下の闇にどれほどの毒が澱んでいようとも、そこに生きる人々の命のみちを閉ざさせはしません。ハクさん、ネネさん、タンクの完全中和をお願いします。ガストン、シオンさん、リナさん、皆さんの重く沈んだ肉体、この一鍼で今すぐ極限まで軽くして差し上げましょう。マルセイユ地下決戦、往診を開始します!」


12時、金曜昼の更新。世界往診紀行編・港町マルセイユ編、堂々の完結回となる第480話!

今週もお疲れ様でした。週末を目前に控えたお昼休みのひとときに、地下水道の闇を切り裂く往診チームの最高のチームワークと、胸が熱くなる大団円をお届けします!

 マルセイユの美しい街並みの真下に広がる、広大なレンガ造りの地下水道。

 そこは、地上とは完全に切り離された、光の届かない闇の世界だった。足元には不気味な紫色の濁流がうねりを上げて流れ、壁面からはギルドが遺した負の遺産――巨大な毒素貯蔵タンクが、限界を迎えたように不気味な駆動音を立てて激しく脈打っている。


「うぅ……、空気が重い。ただの湿気じゃないわ……。体中の水分が泥のように重くなって、関節の節々がズキズキ痛む……っ」

 物見台のない狭い地下通路で、リナが愛用の魔導銃を構えながら、珍しく苦しげに顔をしかめた。彼女の細い指先は、地下に充満する強烈な「湿邪しつじゃ」によって、思うように引き金に掛からない。


「僕もです……。足に鉛を仕込まれたみたいに一歩が重くて、術式の展開速度が半分以下に落ちています……」

シオンが魔導書を胸に抱え、壁に背中を預けて激しく息を切らす。


「クソッ、このガストンの筋肉まで、まるで濡れた雑巾みたいにフニャけてやがる……! 先生、このままじゃあのタンクが爆発する前に、俺たちが動けなくなっちまうぞ!」

 ガストンが大盾を床に突き立て、必死に膝の震えを抑えながら叫んだ。


「無理もありません、皆さん。この地下水道は、旧ギルドの毒素と、海辺特有の濃厚な湿気が混ざり合い、最悪の『湿熱しつねつ』となって皆さんの肉体を内側から侵食しているのです。経絡が泥詰まりを起こし、気血の巡りが完全に停止しかけています」

 暗闇の中、聖鍼師・枢の周囲だけは、揺るぎない品格ある黄金の陽気が淡く輝いていた。彼の十指の間に、澱んだ空気を切り裂くように眩い白銀の長鍼が滑り込む。


「ハクさん、ネネさん。タンクの暴走を止めるための『中和剤』の準備を。その間に、皆さんの肉体を、一瞬で羽のように軽くしてみせましょう」


「フん、待たせるな枢。ネネ、大樹海の奥底に眠る『乾燥かわきの苔』をすり鉢へ投入しろ。私の特製アルコール液で一気に気化させ、この地下のジメジメを根底から乾燥させてやる!」


「がってん承知! どんな湿気も、ウチらの薬草でカラッとさせてみせるよ!」

 ハクとネネが暗闇の中で目にも留まらぬ連携を見せ、すり鉢からパチパチと弾けるような、瑞々しくも乾燥した清涼な香気(乾燥の気)が周囲の空間へと拡散され始めた。


「では皆さん、その場を動かずに」


 枢の長鍼が、まるで闇夜を駆ける流星のごとき速度で、リナ、シオン、ガストンの膝の内側へと次々に穿ち込まれた。

すねの骨の内側を足首から撫で上げていき、膝の関節の手前で指が止まる、大きな骨の陥凹部。


「足の太陰脾経の合水穴――陰陵泉いんりょうせんを深く穿ちます」


 ズン、と体内に眠る水分代謝のスイッチが力強く押し込まれるような、強烈な響きが3人の脳裏を突き抜けた。


「陰陵泉は、肉体に溜まったあらゆる『余剰な水分』や『泥のような湿気』を、下半身の水路を開くことで急速に尿や汗へと変え、体外へと強力にアースさせる排湿・排毒の最高峰の名穴です! 湿邪によって重く沈んだ五臓六腑を清め、あなたの肉体の軽やかさをその場で完全に取り戻します!」


「――っ! す、すごい……! 足の重みが、一瞬で消えたわ……! まるで雲の上を歩いているみたいに軽い!」

 リナの瞳に、極限のスナイパーとしての鋭利な光が完全に戻った。


「関節の痛みが、嘘みたいに引いていきます……! これなら、どんな巨大な術式でも維持できます!」

シオンの魔導書から、地下水道の闇を真昼のように照らす、眩い純白の魔法陣が展開された。


「おおおおおっ! 筋肉が、最高のキレを取り戻したぜ! ――ネネちゃん、ハクの兄ちゃん、あのタンクまでの道は、このガストンがこじ開けてやる!」

 ガストンが復活の咆哮とともに大盾を構えて突撃し、タンクを守っていたギルドの自動防衛人形ゴーレムたちを、圧倒的な怪力で次々と粉砕していく。


「ターゲットをロック。――そこよ!」

 リナが放った3発の魔導弾が、ゴーレムたちの動力核を正確に撃ち抜き、タンクのバルブが完全に露出した。


「今だ、ネネ! 負の遺産を、大自然の力で還流させるぞ!」


「いっけえええーーーっ! ウチらの特製『大樹海の乾燥中和弾』、特大サイズで叩き込むよーーっっ!!」

 ハクが空中へと跳躍してバルブを強引に開放し、ネネがすり鉢から放った黄金の中和薬粉末が、タンクの内部へと一気に吸い込まれていった。


 シュウウウウウウッッッ!!!


 タンクから漏れ出していた紫色の毒気が、一瞬にして真っ白な、まるで朝霧のような清らかな水蒸気へと姿を変え、地下水道全体を満たしていく。濁っていた足元の水面は、透き通った綺麗な清流へと戻り、さらさらと心地よい音を立てて海へと流れていった。


「ふぅ……。実に見事な大往診でしたね、皆さん。これでマルセイユの町は、地下からも、地上からも、完全に健やかさを取り戻しました」

 枢は白銀の長鍼を鮮やかにアルコール綿で消毒し、往診鞄へと収めた。


「へへっ、どんなジメジメした闇の中でも、先生の『陰陵泉』とウチらの薬草があれば、いつでもお日様の下みたいにカラッとできるね!」

 ネネがすり鉢を担ぎ直し、人懐っこい笑顔で枢に親指を立てる。


「当然だ。私たちの往診鞄に、治せない滞りなど存在しない」

 ハクが片眼鏡の奥の瞳を和らげ、満足そうに不敵な笑みを浮かべた。


――数時間後。

 中央ドックの甲板の上には、すっかり体調を取り戻し、最高の笑顔を浮かべた船長や船乗りたちが集まっていた。


「枢先生、そして往診チームの皆さん! あんたがたは、このマルセイユの命の恩人だ! この御恩は、一生忘れねえ!」

 船長が豪快に笑いながら、魔導船に山のような新鮮な海の幸と、航海に必要な物資を積み込んでいく。


「ふふ、これだけの食材があれば、次の航海も賑やかになりそうね」とリナが微笑み、シオンが「ガストンさん、食べ過ぎないでくださいね」と苦笑している。


 地平線の向こうには、また新しい、どこまでも広がる青い海と空が待っている。

 ギルドの支配を脱し、自らの足で歩み始めた人々の笑顔を見送りながら、魔導船はゆっくりと港を離れ、次なる未知の往診先へとその舳先を向けるのだった。

 第480話「地下水道の決戦!澱む負の遺産と湿邪を払う陰陵泉」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


 マルセイユ編の堂々たる大団円として、地下水道の濃厚な毒気と湿気(湿邪)に苦しむ仲間たちを、ガストンさんの突撃、リナさんの精密射撃、シオンさんの光源魔法、そしてハクさんとネネちゃんの乾燥中和薬から、枢先生の「陰陵泉いんりょうせん」による劇的な水分代謝活性化の一刺しによって救い出す、最高に熱い完結回、お楽しみいただけましたでしょうか!

 環境の最も過酷な「闇と湿気」を逆手に取り、肉体が持つ本来の排泄能力を極限まで高めて勝利へと繋げる枢先生のプロの構成美には、書いていて本当に胸が熱くなりました。


 今回は、肉体に溜まった致命的な重だるさや、関節の痛み(湿邪)を根本から吹き飛ばすために枢先生が用いた、膝の内側にある非常に高名な名穴、陰陵泉いんりょうせんの効能について解説させていただきます。


 東洋医学において「陰陵泉」は、足の太陰脾経たいいんひけい合水穴ごうすいけつであり、体内の水分代謝を司る「」の経絡の中でも、最も『水分を動かす力』に長けた最高の水分調整スイッチです。

 ここは、ジメジメした気候や湿気によって体内に泥のように溜まってしまった「湿邪」を、下半身の巡りを爆発的に高めることで体外へと急速に排泄させ、全身の重だるさ、関節の腫れや痛み、食欲不振、下痢などを劇的に更生させる効果を持っています。

 現代における梅雨時期の体調不良の解消、下半身の強烈なむくみや冷えの更生、さらには尿トラブルの緩和などにも臨床で最優先される、プロの鍼灸師にとってもこれ以上ないほど信頼の厚い素晴らしい名穴です。この的確な一刺しで、仲間たちの肉体を羽のように軽くしてみせる枢先生の臨床の冴えには、今回も深く感動させられましたね。


 見事にマルセイユの完全なる平和を守り抜き、海の男たちの熱い絆を胸に、次なる大国へと魔導船を進める往診チーム。


次なる新章・第481話は、本日【21:00】に更新予定です。

一週間を頑張ったご褒美のひとときに、往診チームが次なる大陸で出会う、新たなる命のドラマと不思議な患者を、ぜひお楽しみに!

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