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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第476話「蜃気楼の追撃戦!灼熱の砂漠と清暑の曲池」

バルカの町を救った往診チームに、傷ついた私兵から解き明かされた次なる病巣。

それは、西の砂漠の果てに蜃気楼のごとく現れるという「幻影のオアシス」と、そこに眠る古代の禁忌医療遺産でした。

ギルドの残党の首領は、その遺産を使って再び世界を利権で支配しようと画策しています。

魔導船を西へと走らせる枢先生たちですが、行く手を阻むのは砂漠特有の猛烈な熱風と、視界を奪う「砂嵐の幻影」。

脱水と熱気に蝕まれる極限状態の中、チームの絆と、あのリナの「正確無比なプロの眼」が、新たな活路を切り拓きます。


「自然がもたらす過酷な熱も、歪んだ野心が見せる幻影も、すべては経絡を乱す『邪気』に過ぎません。リナさん、あの蜃気楼の奥に潜む、本物の気の流れを見極めてください。ハクさん、ネネさん、皆さんの肉体を砂漠の熱(暑邪)から守ります。幻影の砂漠、往診を開始します!」


12時、水曜昼の更新。世界往診紀行編・砂漠の幻影編前編、第476話!

週の中日、お昼休みのひとときに、灼熱の砂漠を舞台にした息をもつかせぬ追撃戦と、プロフェッショナルたちの熱い共闘をお楽しみください!

 魔導船の甲板を、じりじりと焼き付けるような太陽の光と、肌を刺す熱風が襲う。

 交易都市バルカを後にした往診チームは、西の果て「幻影のオアシス」を目指して、見渡す限りの赤茶けた砂海を進んでいた。しかし、進行方向の視界は、ゆらゆらと立ち上る強烈な蜃気楼によって歪み、どれが本物の景色なのか全く判別がつかない。


「クソッ、どっちを向いても砂と陽炎ばかりだ! これじゃあ羅針盤も狂っちまう。魔導船の出力も、この暑さで限界に近いぞ!」

 ガストンが汗だくになりながら、操舵輪を握り締めて叫ぶ。彼の屈強な肉体も、砂漠の執拗な熱気(暑邪)によって水分を奪われ、徐々に消耗しつつあった。


「ガストンさん、無理をしないでください。……うぅ、空間の座標まで熱で歪んでいるみたいです。頭がぼーっとして、術式がうまく組み上がりません……」

シオンが魔導書を抱えたまま、甲板に膝をつきそうになる。熱中症によるめまいと頭痛が、若き魔導師を襲っていた。


「しっかりしなさい、シオン! ――枢先生、みんなの限界が近いわ。それに……私のスコープにも、さっきから奇妙な影が映るの。オアシスが3つも4つも同時に見える……これはただの自然現象じゃないわね」

 リナが魔導銃のスコープから目を離さず、警戒の声を鋭く響かせる。


「ええ、ギルドの残党が、古代遺産の魔力を部分的に発動させて、追手を阻む『幻影の結界』を展開しているのでしょう。さらに、この過酷な暑さが皆さんの『気』を外へ漏らし、体内の清らかな水分(津液)を枯渇させています」

 枢が静かに立ち上がり、往診鞄から、体内の熱を強力に冷ますための白銀の銀鍼を抜き放った。


「ハクさん、ネネさん。まずは皆さんの体内にこもった『暑熱』を払い、視界をクリアにするための即効治療を行います」


「ふん、この程度の暑さ、私の『氷晶潤喉液ひょうしょうじゅんこうえき』で一突きにしてくれる。ネネ、大樹海の『清涼ミント草』の汁をこの水筒に搾り入れろ!」


「任せて、ハクの兄ちゃん! よし、これで特製のひんやり特効薬の完成だよ! みんな、これを少しずつ口に含んで!」

 ハクとネネが抜群の連携で、熱中症を防ぐための潤いの薬液を全員に配っていく。


「では、ガストン、シオンさん、そしてリナさん。その腕をこちらへ」


 枢の銀鍼が、陽炎を切り裂くような正確さで、3人の肘の関節へと次々に滑り込んだ。

肘を深く曲げた時にできる、外側の横紋の端――肉体の熱を統括する、最も強力な清熱の要穴。


「手の陽明大腸経の合土穴――曲池きょくちを穿ちます」


 ツン、と突き抜けるような心地よい刺激が、3人の腕から全身へと駆け巡る。


「曲池は、体内にこもった強烈な『風熱』や『暑熱』を、皮膚の毛穴を開いて一気に体外へと発散させる、清熱・解毒の最重要拠点です。大腸経の経絡を通じて、上気した頭部の熱を下げ、血流を安定させることで、めまいを払い、プロとしての『確かな視界』をその場で取り戻します」


「……! す、すごいわ……。頭の奥のモヤが、一瞬で冷たい風に吹き飛ばされたみたい……!」

 リナの瞳に、いつもの、いや、これまで以上に冴え渡るスナイパーとしての鋭利な光が戻った。


「おおおっ! 腕に力が戻ってきたぜ! 船の出力が落ちてんなら、俺の筋肉で強引に風を起こして進めてやる!」

 ガストンが復活した咆哮とともに、操舵輪を力強く回し直す。シオンも「顔の火照りが消えました……これなら、結界の術式を逆探知できます!」と、魔導書に力強い魔力を注ぎ込み始めた。


「枢先生、見えたわ。……右斜め前方、あの歪んだ陽炎のさらに1キロ奥。他はすべて偽物――あそこだけが、本物の『気の流れ』が渦巻いている場所よ」

 リナが魔導銃の銃口を一点に定め、言い切った。


「さすがはリナさん。皆さんのプロの眼と力が揃えば、砂漠の幻影など恐るるに足りません。ハクさん、ネネさん、あの座標へ向けて、魔導船の突撃の合図を!」


「よし、ウチの『烈火爆散草』を後ろ向きに大爆破させて、船のスピードを限界まで上げるよ! ――ハクの兄ちゃん、点火のタイミングを合わせて!」


「クク、派手な大爆発の推進力か、悪くない。いくぞ、ネネ――点火!!」


 ドゴォォォォン!!!


 魔導船の後方で、エメラルドグリーンの大爆炎が炸裂し、船体は猛烈な速度で砂の海を滑走し始めた。

 リナが指し示した歪んだ陽炎の壁へと、往診チームを乗せた船が真っ直ぐに突っ込んでいく。


 バリバリバリッ! と、空間がガラスのように割れる音が響き、次の瞬間、過酷な砂嵐の景色が一変した。

 目の前に現れたのは、周囲を巨大な結界に守られた、信じられないほど美しく、そして不気味に静まり返った緑と水の都――「幻影のオアシス」。


 しかし、その美しい水の底からは、世界の命のバランスを再び崩壊させかねない、古代禁忌遺産のドス黒い魔力が、静かに泡を上げて湧き出していた。


「ついに見つけましたね。……さあ、世界中の患者たちの未来のために、この最後の病巣も、完璧に治療して差し上げましょう」


 砂漠の結界を撃ち破った往診チームの前に、古代の遺産を起動させようとするギルドの首領の影が、ついにその姿を現そうとしていた。

 第476話「蜃気楼の追撃戦!灼熱の砂漠と清暑の曲池」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


 過酷な砂漠の熱と幻影の結界に対し、ガストンさんの操舵、シオンさんの術式逆探知、ハクさんとネネちゃんの爆発推進、そしてリナさんの正確無比な「眼」を取り戻させるための、枢先生の「曲池きょくち」の一刺しという、全員のプロフェッショナルな技能が完璧に噛み合った追撃戦、お楽しみいただけましたでしょうか!

 どれほど過酷な大自然の邪気や魔法の幻影が道を塞ごうとも、チームの絆と的確な一鍼があれば必ず本質(本物の座標)を見抜くことができるという、往診チームの揺るぎない強さが、新章の熱いスピード感の中で鮮やかに描き出されましたね。


 今回は、砂漠の猛烈な暑さ(暑邪)によって頭や体にこもった致命的な熱を払い、視界をクリアにするために枢先生が用いた、肘の非常に有名な名穴、曲池きょくちの効能について解説させていただきます。


 東洋医学において「曲池」は、手の陽明大腸経ようめいだいちょうけい合土穴ごうどけつであり、体内の「熱」を動かして体外へと発散させるための『清熱せいねつ』の最高峰とされる要穴です。


 ここは、高熱や皮膚の炎症、頭部への気の突き上げ(上気)を劇的に鎮める効果を持っており、現代における熱中症の応急処置、高血圧によるめまいの緩和、ひどい肌荒れやアトピーの消炎、さらには目の充血を解消して視力をクリアにするための特効穴としても、臨床で非常に頻繁に使用されています。


 この素晴らしい名穴を使って、リナさんたちのスナイパーとしての視界と魔導師としての集中力を一瞬で引き戻してみせる枢先生の、状況に応じた臨機応変な治療の選択には、今回も深く感動させられましたね。


 見事に幻影の結界を突破し、禁忌のオアシスへと足を踏み入れた往診チーム。しかし、そこで彼らを待ち受けていたのは、古代の医療遺産を取り込んだギルド首領の、人間を辞めたかのような恐るべき姿でした。


次なる大決戦、第477話は本日【21:00】に更新予定です。

一日の終わりを迎える夜のひとときに、オアシスの最奥で繰り広げられる、世界医療の未来を懸けた究極の決戦を、ぜひお楽しみに!

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