第466話「中央天空浮遊総本部、世界を支配せし闇の巨悪と聖鍼の誓い」
闇の医療ギルド最高総帥が放った禍々しい通信映像により、世界を揺るがす「世界隔離計画」の全貌が明かされた極寒の氷河医療城。
天空、深海、溶岩、そして氷河という四大元素すべてのパンデミックを乗り越えた枢先生たち往診チームの前に、ついに全人類の命の選択権を独占する巨悪の本拠地がその姿を現します。
「腫瘍がどれほど巨大であろうとも、それを穿つべき『要穴』は必ず存在します。世界を支配せし闇の巨悪がその本拠地であるならば、我々の往診先は、そこ以外にはありません。ハクさん、一人の薬師のプライドと、一人の鍼灸師の技を完全に一つに合わせ、全人類の未来を懸けた最後の往診へと向かいましょう。皆さん、準備はよろしいですか? 地球の経絡を流れる気の奔流に乗り、一気に天へと駆け上がります!」
12時、金曜昼の更新。最終決戦大長編「ギルド本部総力決戦編」、ここに堂々の開幕!
美しく蘇った氷河の精製核から放たれる地球の気を借りて、往診チームが雲海の彼方に君臨する中央天空浮遊総本部へと、命の未来を懸けた「聖鍼の誓い」を胸に飛び立ちます。
氷河医療城の最深部に、かつての静謐な白銀の輝きが戻っていた。
世界の未知のウイルスを永久に封じ込める冷却精製核は、ハクの目覚めた命の特効薬と、枢の放った太淵・合谷の気血の巡りによって完全に浄化され、今はただ、清らかな水を湛えた水晶のように美しく拍動している。
「ふぅ……。一時はどうなることかと思ったが、なんとかなったな」
大盾を床に預け、ガストンが大きく息を吐き出す。リナは愛用の魔導銃の残弾を確認しながらも、その視線は未だ、脳内に直接響いた闇の医療ギルド最高総帥の冷徹な声を反芻するように、凍りついたままだった。
「天空、深海、溶岩、そしてこの氷河……。私たちが命懸けで止めてきたあの未曾有のパンデミックが、すべて奴らの『世界隔離計画』の筋書き通りだったなんてね……」
リナの言葉に、シオンが静かに頷く。
「人類の命の選択権を独占し、すべての国を医療利権で支配する。……彼らにとって、病やウイルスは駆逐すべき敵ではなく、世界を飼いならすための家畜の鞭に過ぎなかったというわけですか」
その言葉は、純粋に医学を志し、病に苦しむ人々を救うために旅を続けてきた一行の心に、あまりにも重く、どす黒い影を落とした。
だが、その絶望の静寂を切り裂いたのは、往診鞄を肩にかけ直した枢の、いつもと変わらぬ穏やかで、しかし地平線の先まで見通すような鋭い声だった。
「すべての病を裏で操り、命に値段をつける。なるほど、これ以上ないほどの大悪党です。……ですが、だからこそ我々が行く理由があるというものですよ」
枢は白銀の瞳をわずかに細め、遥か上空――かつて旅の始まりに仰ぎ見た、世界の中心に浮かぶ「中央天空浮遊総本部」があるであろう天空の彼方を見つめた。
「枢……、お前、本気で奴らの本拠地に乗り込むつもりか? 相手は世界中の医療を牛耳る巨大複合体だぞ。兵力も、資金も、そして医学の知識も、我々とは桁が違う」
ハクがまだ熱を持った自身の両腕を見つめながら、問いかける。その声に怯えはなかった。ただ、これから挑む敵のあまりの巨大さに、プロの薬師として冷静に戦力を分析しているのだ。
「ええ、本気ですとも。ハクさん、東洋の医術にはこのような教えがあります。――『病を診て人を診ずんば、それは医にあらず』と。彼らは世界という巨大な患者を、自身の利益のためにわざと病ませ、歪な方法で生かそうとしている。これは世界全体の『気の滞り』、すなわち最大の悪性腫瘍です」
枢は懐から、一本の細く、しかし何よりも強靭な光を放つ銀鍼を取り出した。
「腫瘍がどれほど巨大であろうとも、それを穿つべき『要穴』は必ず存在します。世界を支配せし闇の巨悪がその本拠地であるならば、我々の往診先は、そこ以外にはありません」
「ふっ……。ハクさん、言ったろ? この先生は、どんな絶望的な患者を前にしても、絶対に往診を断らない男だってね」
シオンが不敵に笑み、ガストンが「へへっ、そいつは頼もしいや」と力強く胸を叩く。
ハクはしばらく枢の横顔を見つめていたが、やがて呆れたように、しかしこれ以上ないほど信頼に満ちた笑みを浮かべて、自身の往診鞄を強く握りしめた。
「最高だな。薬の調合パターンなら、あの通信映像の一瞬で奴らの使っているナノウイルスの基礎理論は解析した。天空浮遊総本部に潜むいかなる未知の毒だろうと、お前の銀鍼が道を拓いてくれるなら、私はその場で神の薬でも作ってみせるさ」
「頼みにしていますよ、相棒」
枢の言葉に、ハクが力強く頷く。
二人の間で交わされたのは、言葉以上の重みを持つ、医療の未来を懸けた「聖鍼の誓い」だった。
「よし、方針は決まったね。でも枢、あそこは雲の上の要塞だよ? どうやってあんな高高度まで行くつもり?」
リナの現実的な問いに、枢は悪戯っぽく微笑んだ。
「おや、リナさん。お忘れですか? この氷河城の冷却精製核が本来の機能を取り戻したということは、この城が持つ『大気循環の術式』もまた、完全に制御下に戻ったということです。これを逆流させれば、天空へと昇る強烈な上昇気流――いわば、地球の経絡を流れる『気の奔流』を作り出すことができます」
「なるほど、その気流に私たちの魔導船を乗せるわけか!」
シオンが即座に理解し、目を輝かせる。
「その通りです。これより、我々は地球の気を借りて、一気に天へと駆け上がります。……皆さん、準備はよろしいですか? 泣いても笑っても、これが最後の往診です」
「おうともさ!」
「いつでもいけるわ!」
「世界の歪みを、正しに行きましょう」
「ハッ、特等席で大悪党の面拝んでやるよ!」
仲間の声が一つに重なる。
氷河城の床が激しく鳴動し、精製核から解き放たれた純白 of 光のエネルギーが、城の頂部から天空へと向かって、巨大な光の柱となって噴き上がった。
その光の奔流の中へと、枢たちの駆る魔導船が静かに、しかし力強く進路を取る。
目指すは、雲海の彼方に君臨する、人類の命を支配せし闇の中央天空浮遊総本部。
全人類の未来と、医のプライドを懸けた最終決戦の火蓋が、今、切って落とされた。
第466話「中央天空浮遊総本部、世界を支配せし闇の巨悪と聖鍼の誓い」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
闇の医療ギルド最高総帥による「世界隔離計画」という底なしの巨悪が明かされる中、絶望に沈むことなく、それを「世界全体の気の滞り、最大の悪性腫瘍」と断じて往診を宣言する枢先生の圧倒的な覚悟、そしてハクさんとの間で交わされた「聖鍼の誓い」という新たな章への最高のプロローグ描写、お楽しみいただけましたでしょうか!
相手が世界中の医療利権を牛耳る巨大複合体であろうとも、一人の「鍼灸師」としての職人のプライドを微塵も揺らがせず、病に苦しむ世界そのものを救うために「相棒」であるハクさんと共に立ち上がる枢先生の姿は、まさに限界突破した二人のプロフェッショナルの絆が次なる次元へと昇華した瞬間でしたね。
今回は、物語のラストで枢先生が提案した、魔導船を天空へと一気に押し上げるための「地球の経絡を流れる気の奔流(大気循環の逆流)」という、東洋医学におけるマクロな気の循環思想について解説させていただきます。
東洋医学において、「気」の本質は大自然の循環そのものであり、人間の体内を巡る経絡の流れは、そのまま地球の河川や大気の流れ(風水や気流)と完全に同期・表裏関係にあると考えされています(これを天人合一思想と呼びます)。
前話にて「太淵」と「合谷」を開放し、ハクさんの体内の一局所的な気の滞りを劇的に貫通・融解させた枢先生の技は、そのまま今回の「氷河城の冷却精製核の機能を逆流させ、大気循環の滞りを爆発的な上昇気流へと変える」という、要塞規模での巨大な経絡調律へとダイレクトに繋がっているのです。
自身の派手な名声や魔導の称号に一切甘んじることなく、ただ「病を診て人を診ずんば、それは医にあらず」という職人の美学を貫き、大自然 of 気の力を借りて雲の上の要塞へと果敢に飛び立っていく往診チームの熱い団結力には、お昼休みのひとときに読んでいて本当に胸が熱くなりましたね。
ハクさんとの不動の相棒関係を証明し、いよいよ全人類の運命を人質に取る闇の本拠地――中央天空浮遊総本部へと突入していく一行ですが、そんな彼らの前に待ち受けるのは、ギルドが誇る無敵の防衛システムという、これまた週末を前にしたお昼に相応しい息をもつかせぬ衝撃の新展開の幕開けとなりました。
次なる決戦の舞台は、雲海の彼方に浮かぶ天空の要塞。最終決戦へと向かう往診チームが、絶対防衛結界の猛威に対し、どのような「命の最終治療劇」を魅せるのでしょうか。
次回の第467話は、本日【21:00】に更新予定です。
一日の終わりを迎える夜のひとときに、ついに天の防衛線を突破せんとする「聖鍼師・枢」の新たなる伝説の激闘を、ぜひお楽しみに!




