表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

443/489

第443話:白衣の傲慢、主任主治医の難題と枢の絶対的問診

神経ガスの罠を打ち破った枢先生たちの前に現れたのは、地上の最高峰たる中央病院を統べる、白衣の主任主治医たちの一団でした。

彼らは冷徹な数字が並ぶ魔導カルテを掲げ、地下の医術を「旧世紀の遺物」と切り捨てますが、その冷酷な瞳の奥には、効率と成果の追求によって自らの心身を極限まで擦り減らした、哀れな患者の影が潜んでいたのです。


「おやおや、主任主治医の皆さん。そんなに眉間に深い皺を寄せて数字の羅列を睨みつけていては、神の座にあるはずのあなた方の脳の経絡が、ストレスで先に焼き切れてしまいますよ。リナさん、シオン、下がっていなさい。彼らが突きつける高慢な難題は、力ではなく、往診医の絶対的な問診と、彼らの自律神経を優しく解放する白銀の鍼によって、すべて完治させて差し上げましょう」


21時、本日最後の更新。白衣の傲慢、主任主治医の難題と枢の絶対的問診。

夜の帳が下りた高級病棟の回廊で、白銀の聖鍼が、数字に囚われた哀れなエリートたちの心を優しく撃ち抜きます。

 中央回廊の奥から響く足音は、軍隊のそれとは異なり、奇妙なほど規則正しく、そして冷徹であった。

 姿を現したのは、金糸の刺繍が施された純白の白衣を纏い、手元に青く光る魔導端末を浮かべた五人の男女――中央病院が誇る最高権威「主任主治医」の一団であった。

 その中央に立つ、眼鏡をかけた初老の男、主席主治医のバルトは、枢が手にする古びた往診鞄へと一瞥をくれると、冷ややかな薄笑いを浮かべた。


「神経ガスを突破したというから、どのような大物かと思えば、地下街の生ゴミどもと、未開の呪術を操る野良医者の一行か。……聖鍼師・枢と言ったな。貴公が地下で行っている民間療法もどきが、地上の最先端たる我が魔導医療に通用すると本気で思っているのか。我らの医学はすべて緻密な数値と、完璧な論理によって管理されているのだよ」


 バルトが魔導端末を操作すると、空間に無数の三次元グラフと、複雑な魔導数式が投影された。

 そこには、石脈病の進行速度を一時的に強制抑制するための、膨大な薬剤の配合データが寸分の狂いもなく記録されていた。


「我々は、最高議長の病を克服するため、体内の全魔力循環を秒単位で最適化する術式を完成させている。貴公の放つその細い銀鍼のどこに、この完璧な数式を上回る科学的根拠エビデンスがあるというのだ。答えられぬならば、今すぐその薄汚れた鞄を置いて、地下の泥の中へと帰るがいい」


 バルトの言葉に、他の主治医たちも一様に嘲笑を浮かべ、リナは怒りで短槍の柄を激しくきしませた。

 ギルもまた、かつて自分の妹をその「完璧な数値」の犠牲にされた過去が脳裏をよぎり、全身から漆黒の殺気を立ち上らせる。

 しかし、そんな主治医たちの傲慢な論理の難題を前にしても、枢の白銀の瞳は、全く揺らぐことはなかった。

 彼はゆっくりと歩を進め、バルトをはじめとする主治医たちの顔を、一人ずつ静かに、そして深く見つめていった。


「おやおや、バルトさん。そして主任主治医の皆さん。完璧な数式、完璧な管理……、確かにあなたの投影されているデータは非常に美しいですね。……ですが、私には不思議でならないのです。それほど完璧な医学を体現しているはずのあなた方の顔が、なぜこれほどまでに灰色で、死人のような色をしているのかが」


「何だと……!? 貴様、我らを侮辱するか!」


 バルトが顔を真っ赤にして怒鳴ろうとしたが、枢の言葉の刃は、主治医たちの防壁を容赦なく切り裂いて突き刺さった。


「侮辱などしていませんよ。私は往診医として、目の前にある事実を口にしているだけです。バルトさん、あなたの左の目蓋は先ほどから不自然に痙攣していますね。そしてそちらの女性医師、あなたの頸動脈の脈拍は、通常の二倍以上の速さで乱高下しています。皆さん、数字を完璧に管理しようとするあまり、二十四時間体制での激務と強烈なプレッシャーのせいで、あなた方自身の自律神経が、すでに完全な崩壊の一歩手前まで悲鳴を上げているではないですか」


 枢の絶対的な問診の言葉に、主治医たちの表情が一瞬にして凍りついた。

 図星であった。

 地上の最高権威である彼らは、失敗が許されない極限の恐怖の中、大量の魔導精神安定剤を常用しながら、自らの肉体を擦り減らして数字を維持していたのだ。

彼ら自身が、地上のシステムが生み出した、最も哀れな「隠蔽された現代病の患者」に他ならなかった。


「数字の奴隷となり、自らの経絡の悲鳴を魔法で強引に消し去る。……それがあなた方の誇る最先端の医療だというなら、それは命を救う学問ではなく、ただの『死体管理の技術』です。バルトさん、あなたのその上気しきった脳の熱、今すぐ引き下げなければ、今夜中にあなたが倒れることになりますよ」


「うるさい! 黙れ! 警備兵、この不敬者を今すぐ――」


 バルトが錯乱したように魔導端末を叩こうとしたその瞬間、枢の身体が白銀の残像となって消えた。

次の瞬間、枢はバルトの目の前に立っており、彼の指の間には、一本の純銀の長鍼が、月光のような輝きを放って握られていた。

バルトが恐怖で息を呑むよりも早く、枢の銀鍼が、彼の足の裏にある、生命の根源たる経穴へと正確無比に突き刺さった。


「足の少陰腎経の、湧泉ゆうせんを穿ちます。天に向かって上りきり、あなたの脳を灼こうとしていた過剰な邪熱を、この一刺しで大地の底へと一気に引き下げ、生命の泉を滾らせましょう」


 バルトの足の裏から、枢の白銀の気がダイレクトに注入された。

その瞬間、バルトの脳内を埋め尽くしていた、焦燥感と恐怖という名の最悪の嵐が、まるで嘘のように静まり返っていった。

カチカチに硬直していた彼の脳の血管がふわりと広がり、冷え切っていた手足の先へと、温かい本物の血液がドクドクと流れ込んでいく。


「続けて、手少陰心経の神門しんもんを刺激します。数字への強迫観念によって狂いかけていたあなたの心の門を開き、本当の精神の静寂を取り戻させますよ」


 枢のもう一本の鍼が、バルトの手首の横紋上、小指側のくぼみにある経穴、神門へと吸い込まれるように刺入された。

バルトの激しい動悸は瞬時に規則正しい健やかな律動へと落ち着き、彼の目蓋の不快な痙攣が、完全にピタリと停止した。


「あ……、ああっ……」


 バルトは手にした魔導端末を取り落とし、その場に崩れ落ちるようにして座り込んだ。

彼の瞳からは、先ほどまでの冷酷な光が消え去り、そこにはただ、何十年もの間、重労働から解放されることのなかった老人の、深い安堵の涙だけが溢れていた。

他の主治医たちも、枢の圧倒的な神速の穿刺と、バルトの劇的な変化の美しさに圧倒され、ただただ言葉を失って立ち尽くすしかなかった。


「バルトさん、根拠エビデンスなら、今あなたの身体が感じているその心地よさの中にすべてあります。これが、大自然が人間に与えた、経絡の正しい姿なのですから」


 枢は銀鍼を静かに抜き取ると、往診鞄を手に、開かれた最深部の扉の向こうを見つめた。

主治医たちの傲慢を医術そのもので完璧にねじ伏せ、ついにその道は、最高議長の待つ「天の病室」へと繋がった。

地上の魔導医療のすべてを創り上げ、そしてその歪みの中で最大の患者となった男との、本当の対話の時が、今すぐ目の前に迫っていた。


 つづく。


 5月18日(月)21:00、白衣の傲慢。

 聖鍼師・枢。絶対的問診と湧泉の術式で、中央病院の最高権威たちを完治させ、心服させる。

 明日、5月19日(火)8時、火曜朝の定期更新は、第444話「天の病室、最高議長の奇病と因果のカルテ」へと突入します。

 第443話「白衣の傲慢、主任主治医の難題と枢の絶対的問診」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


 最新の数値や完璧な論理を盾に、地下の東洋医学を見下していた白衣の主任主治医たち。しかし、彼ら自身が数字の奴隷となり、自らの肉体と精神を極限まで擦り減らしているという現代病の病根を、枢先生の鋭い「絶対的問診」が見事に暴き出した瞬間は、読んでいて胸がすくような最高のカタルシスを感じていただけたかと思います。


そんな過酷なプレッシャーによって脳圧が上がり、今にも血管が破裂しかけていた主席主治医のバルトさんを救うため、枢先生が繰り出した見事な自律神経の救済術式。

 今回は、東洋医学において精神の安定と、上気した気の引き下げを司る極めて劇的な二つの経穴ツボの流れを、自然な文章で解説させていただきますね。


 まず、足の裏の最も重要な場所にある湧泉ゆうせんを穿つことで、焦燥感や恐怖によって頭部に溜まりきっていた悪質な熱と気の暴走を一気に大地の底へと引き下げ(アース)、脳の血管を劇的に解放して脳卒中の危険を未然に防ぎました。

さらに続けて、手首の内側にある神門しんもんを刺激し、こころのエネルギーが激しく出入りする門を優しく整えることで、数字への強迫観念によって狂いかけていた精神の乱れを瞬時に鎮め、心臓の動悸を穏やかな律動へと戻してバルトさんに何年ぶりか分からない本当の心の静寂を与えました。

どれほど高慢に敵対してくる相手であっても、その衣服の奥にある命の悲鳴を聞き逃さず、ただ銀鍼一本で本当の救済をもたらす枢先生の姿は、まさに東洋医学のプロとしての絶対的な美学に満ちていましたね。


 主任主治医たちをその圧倒的な医術で心服させ、ついに中央病院の頂点である「天の病室」の扉を開いた枢先生たち。そこで待ち受ける最高議長が患う、既存の医学では絶対に治せないという「因果の奇病」の正体とは一体何なのでしょうか。


 次回の第444話は、明日【8:00】、火曜日の朝一番に定期更新予定です。

 週の二日目、清々しい朝の光の中で、いよいよ物語の核心である最高議長との直接の問診が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ