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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第五章 : 神代再編・枢復活編】

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第442話:特別区の罠、高級病棟に潜む影とシオンの錬金調剤

魔導検問所を鮮やかに潜り抜けた枢先生たちが足を踏み入れたのは、医療都市ルミナリアの最上層に位置する、最高級病棟「特別区」でした。

大理石の床にクリスタルのシャンデリアが輝くその場所は、地下街の惨状が嘘のような楽園に見えましたが、その本質は、最新の魔導調剤で病を力ずくで押さえ込む、欺瞞の迷宮でもあったのです。


「おやおや、シオン、ガストン、足元をしっかりと固めなさい。この甘い花の香りの奥に、神経を強制的に麻痺させる、極めて巧妙な防衛ガスの匂いが混ざっています。リナさん、呼吸を浅くし、私の白銀の気の循環に合わせてください。どれほど贅沢な罠が仕掛けられていようとも、病の本質を隠蔽しようとする歪みがある限り、往診医の銀鍼は、その欺瞞の経絡をすべて貫いてみせますから」


18時、月曜夕方の更新。特別区の罠、高級病棟に潜む影とシオンの錬金調剤。

白銀の聖鍼が、豪華絢爛な迷宮に隠された「光の欺瞞」を鮮やかに暴き出します。

 検問所の白銀の防壁を越えた先の世界は、これまでの地下街や一般居住区とは、空気の密度そのものが完全に異なっていた。

 中央病院特別区、高級病棟。

 大理石の床には一枚の塵すら落ちておらず、天井から吊り下げられた巨大な魔導クリスタルのシャンデリアが、空間を柔らかな琥珀色の光で満たしている。

 通路の両側には、まるで最高級のホテルかのような個室が立ち並び、そこでは地上の特権階級である貴族や富豪たちが、高価な魔導薬の点滴を受けながら、優雅な音楽に耳を傾けていた。

 しかし、その豪華絢爛な光景を見つめるギルの瞳は、嫌悪感と激しい侮蔑の色で満ち満ちていた。


「反吐が出るな。ここにいる連中が使っている点滴の一滴には、地下の人間が一年間で稼ぐ以上の魔導結晶が溶かされている。病を根本から治すのではなく、ただ最新の調剤を使い続けて、老いと痛みを無理やり引き延ばしているだけだ。これのどこが医療の最先端だというんだ」


 ギルが不快そうに吐き捨て、フードの奥の黒い目をぎらつかせた。

 リナもまた、高級な絨毯を踏みしめながら、その鼻腔をくすぐる過剰なまでの甘い香水の匂いに、微かに眉をひそめていた。


「なんだか、この街の人たちって、病気を治すっていうより、病気にかかっていること自体を必死に隠しているみたい。……ねえ、先生、なんだかさっきから、急に身体が重くなってきた気がするんだけど」


 リナが短槍の柄を握る手に力を込めたが、その指先が、自分の意志に反して微かに震え始めていることに気づいた。

 ガストンが即座に計測器を確認しようとしたが、彼の腕もまた、重い鉛を埋め込まれたかのように上がらなくなっていた。

画面に表示されたのは、空間内の酸素濃度や魔力価の異常ではなく、生体神経の伝達速度が急速に低下していることを示す、最悪のアラートであった。


「大変だ、先生! この通路に漂っている高級な香水の香りの裏に、無色透明の神経麻痺ガス『無音の帳』が混ざっているよ! 病院の防衛システムが、僕たちの侵入を察知して、このエリア全体を隔離して処分しようとしているんだ!」


「くっ、私の魔導書を展開するだけの、指の魔力すら練り上げられないわ……。なんて卑劣な罠を仕掛けるのよ、中央病院の幹部どもは!」


 シオンが壁に寄りかかり、膝をがくがくと震わせながら悔しげに歯噛みした。

 ギルもまた、黒鍼を構えようとしたものの、その身体から放たれる漆黒の気は、ガスの毒性によって霧散させられていく。

侵入者を血を流さずに眠らせ、そのまま医学的な「検体」として処分するための、地上の冷徹な医療トラップ。

四人が意識の混濁に陥りかける中、ただ一人、枢だけは往診鞄を右手に持ったまま、全く変わらない凛とした佇まいで前を見据えていた。


「おやおや、皆さん。地上の最高級病棟ともなれば、往診医への出迎えも随分と手荒いですね。ですが、病気を防ぐためのガスを、人間の命を奪うために悪用するなど、主治医として看過することはできません。シオン、私の白銀の気をあなたの体内に注ぎます。その間に、このガスの成分を逆転させる、即興の解毒調剤をはじめなさい」


 枢がシオンの背中にそっと右手を当てた。

 次の瞬間、枢の体内から溢れ出た純粋無垢な白銀の気が、シオンの経絡を通じて彼女の全身へと一気に駆け巡った。

ガスの毒性によって麻痺しかけていたシオンの魔力回路が、その白銀の洗礼によって瞬時に覚醒し、彼女の瞳に鋭い光が戻ってきた。


「これだけの純度と密度の気があれば、十分にいけるわ! 錬金調剤、水銀の反転薬アンチ・ヴェノム!」


 シオンは懐から取り出した小さな薬瓶を床へと叩きつけた。

 中から広がった銀色の霧が、空間を満たしていた甘い香りを瞬時に吸着し、シュワシュワと音を立てて無害な水滴へと変えていく。

通路の空気は一瞬にして清浄なものへと戻ったが、すでにガスを深く吸い込んでしまっていたリナとガストン、そしてギルの三人は、呼吸を浅くし、その場に倒れ伏す寸前であった。


「ガスの供給は止めましたが、すでに体内に侵入した麻痺毒は、彼らの内臓の経絡を侵食し続けています。皆さん、その場に仰向けになりなさい。これより、全身の解毒と、内臓のろ過機能を極限まで引き上げる、神速の穿刺を行います」


 枢は往診鞄から、黄金の長鍼と、極細の銀鍼を同時に抜き放った。

 まず彼が向かったのは、最も呼吸が浅くなっていたリナの元であった。

枢の指先が、彼女のおへその上、みぞおちとの中間にある重要な経穴へと正確に触れた。


「任脈の、中脘ちゅうかんを穿ちます。ここはすべての腑の気が集まる場所であり、胃腸をはじめとする内臓全体の水分代謝と、解毒の働きを一気に統括する要です」


 枢の黄金の鍼が、リナの中脘へと滑らかに刺入された。

白銀の気が彼女の消化器系へとダイレクトに注入され、胃から腸へと続く経絡の機能が、通常の数十倍の速度で稼働を始める。

さらに枢は、リナの足のすねの外側、膝の下にある、東洋医学で最も有名な解毒と強壮の経穴へと、もう一本の銀鍼を走らせた。


「続けて、足の陽明胃経の足三里あしさんりを刺激します。中脘との連携により、体内に溜まったありとあらゆる神経毒を、下へと引き下げて速やかに無害化させますよ」


 二本の鍼が完璧な術式をもって施された次の瞬間、リナの胸が大きく波打ち、彼女の口から「はぁっ!」と、青紫色の邪気が一気の呼気となって吐き出された。

白目を剥きかけていた彼女の瞳に、みるみるうちにいつもの元気な黄金の光が戻り、全身の麻痺が完全に消失したのだ。


「あ……、動ける! すごい、お腹の奥がすごくポカポカして、手足の痺れが綺麗になくなっちゃった!」


 リナが跳ね起きる中、枢はその神速の身のこなしのまま、ガストンとギルに対しても、中脘と足三里への完璧な二連続穿刺を完了させていった。

ガストンは呼吸の平穏を取り戻して眼鏡をかけ直し、ギルはその圧倒的な内臓解毒の術式を目の当たりにして、驚愕のあまり言葉を失っていた。


「……信じられん。最新の魔導解毒カプセルを以てしても、最低一時間はかかる神経麻痺を、ただの二本の鍼で、その場で完全に分解してみせるというのか。これが、お前の医術の底力なのか、枢……」


「ギル、私の医学は、道具の贅沢さではなく、人間が本来持っている『治る力』を最大限に引き出すためにあるのです。……さあ、調剤の罠は破りました。中央病院の幹部たちも、私たちがただの侵入者ではないことに、そろそろ気づく頃でしょう」


 枢が二本の鍼を抜き取り、往診鞄へと静かに収めたその時、高級病棟の廊下の突き当たりにある巨大な自動扉が、重々しい音を立てて開き始めた。

そこから現れたのは、これまでの兵士たちとは明らかに一線を画す、白い白衣を纏いながらも、その全身から圧倒的な医療魔力を放つ、中央病院の「主任主治医」たちの一団であった。

地上世界の支配的な医学を統べる者たちと、東洋医学の孤高のプロフェッショナルである枢先生。

高級病棟の静寂の中で、ついに新旧の医療の覇権を巡る、最も知的なる激突の幕が上がろうとしていた。


 つづく。


 5月18日(月)18:00、特別区の罠。

 聖鍼師・枢。シオンとの連携で神経ガスを打ち破り、高級病棟の最深部へと進む。

 21時、月曜最後の更新は、第443話「白衣の傲慢、主任主治医の難題と枢の絶対的問診」へと突入します。

 第442話「特別区の罠、高級病棟に潜む影とシオンの錬金調剤」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


 ついに潜入した、中央病院の心臓部である高級病棟特別区。

 地下街の惨状とはあまりにも対照的な、富と贅沢にまみれた欺瞞の空間でしたが、そこで一行を待ち受けていたのは、無色透明の神経麻痺ガスという、最新医療の技術を悪用した極めて冷徹な防衛トラップでした。

 シオンさんの鋭い機転による即興の反転調剤と、枢先生の圧倒的な気の注入による素晴らしい連携は、これぞチーム「聖鍼師」といった最高のカタルシスを味わせてくれましたね。


 そして何より、ガスを吸い込んでしまい、神経麻痺によって全身が動かなくなっていたリナさんたちを救うため、枢先生が繰り出した見事な解毒の連携術式。

 今回は、プロフェッショナルであるいのぴー先生の深い東洋医学のご知見に基づき、内臓のろ過機能と全身の免疫力をその場で爆発的に高める、非常に実践的な二つの経穴ツボの流れを、自然な文章で解説させていただきますね。


 まず、お腹の真ん中にある中脘ちゅうかんを穿つことで、すべての腑(内臓)の気を一気に活性化させ、麻痺毒によって活動を停止しかけていた胃腸のろ過機能を急速に回復させました。

そして仕上げに、膝の下にある足三里あしさんりを刺激し、胃の経絡の巡りを劇的に高めることで、体内に侵入した悪質な神経毒を下へと引き下げて速やかに無害化し、呼気と共に一気に体外へと排泄アースさせました。

この中脘と足三里の組み合わせは、東洋医学において消化器を整え、体内の毒素を洗い流すための最高の特効穴であり、最新の魔導解毒カプセルを遥かに凌駕する枢先生の銀鍼の美学が、見事に証明された瞬間でしたね。


罠を打ち破り、ついに現れた中央病院の権威の象徴である「白衣の主任主治医」たち。

彼らが突きつける、これまでの常識が通用しない「医学の難題」に対し、枢先生はどのような絶対的問診で彼らの傲慢を打ち砕くのでしょうか。


 次回の第443話は、本日【21:00】に本日最後の定期更新予定です。

一日の締めくくりとなる夜のひとときに、白銀の高級病棟で繰り広げられる、最高峰の医療論戦の行方をぜひ見届けてください。

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