第431話:一斉砲撃の嵐、白銀艦隊の猛威とシオンの大錬金術
異端審問官ゼノスの魔導兵器を沈めたのも束の間、上空に浮遊する聖府軍の白銀艦隊が一斉にその砲門を開きました。
狙いは、アムネシアの砂浜に立つ枢先生たち。
個人の技を遥かに凌駕する、国を滅ぼすための圧倒的な物量が、光の豪雨となって容赦なく降り注ぎます。
「おやおや、今度は空全体が熱病に浮かされたように赤くなっていますね。シオン、あなたの知識と私の銀鍼、どちらが先にこの世界の傲慢を治療できるか、少しばかり競い合ってみませんか。リナさん、ガストンを連れて私の背後へ。ここから先は、大地そのものが悲鳴を上げる、大規模な防疫作業の時間になりますから」
15時、土曜の特別更新。一斉砲撃の嵐、白銀艦隊の猛威とシオンの大錬金術。
絶体絶命の光の嵐の中、魔導の天才シオンの秘策が炸裂します。
アムネシアの白い砂浜に、地獄の業火が降り注ごうとしていた。
上空に展開する白銀艦隊の主砲が一斉に明滅し、高濃度に圧縮された魔導エネルギーが、数十条もの光の柱となって天空から突き刺さる。
大気は一瞬にして沸騰し、衝撃波が砂浜を巨大なクレーターへと変えていく。
轟音と爆煙が視界を完全に遮る中、枢は一歩も引かず、往診鞄を庇うようにして白銀の気を展開していたが、その障壁も艦隊の圧倒的な物量の前には、障子紙のような脆さでひび割れを始めていた。
「先生! 防壁が持たないよ! 熱量が、これまでの戦闘データと桁が違いすぎる。島全体の生体エネルギーが、この砲撃の衝撃で再び急激に悪化しているんだ。このままじゃ、昨日せっかく綺麗になったアムネシアが、また死の島に戻っちゃう!」
ガストンが砂まみれになりながら、エラー音を鳴らし続ける計測器の画面を必死に覗き込んで叫んだ。
リナもまた、黄金の気を限界まで放出して枢の障壁を補強していたが、度重なる衝撃に膝が小刻みに震えている。
「くっ、なんて卑怯な連中なの。地上の味方ごと、私たちを消し去るつもりなんだわ。ゼノスを倒したからって、手加減なしでこれだなんて、これが世界の秩序だっていうの」
リナが悔しげに歯を食いしばる中、爆煙の奥からシオンが静かに前へと歩み出た。
彼女の長い髪が、周囲を渦巻く熱風によって激しく舞い上がっている。
その手にある魔導書は、かつてないほど濃密な藍色の光を放ち、頁が爆音を立てて高速でめくられていた。
「言ったでしょう、リナ。聖府軍にとって、個人の命なんて数式の一つの数字に過ぎないのよ。エラーを消すためなら、計算式ごと破り捨てるのが彼らのやり方。……でも、私の前でそんな雑な等価交換を見せつけないでほしいわ。錬金術の祖たちの研究が眠るこのアムネシアで、私の美学を踏みにじるなんて、万死に値するわよ」
シオンは魔導書を宙に浮かせると、両手を大地へと突き立てた。
彼女の細い指先から、眩い藍色の魔導回路が砂浜全体へと一瞬にして走り出す。
それは、ただの防御魔法ではなかった。
「枢、あなたの銀鍼で、この島の地脈の経絡はすべて正常化されたわよね。だったら、この大地は今、世界で最も純粋なエネルギーを宿しているはず。……今からこれらすべての砂を、艦隊の砲撃を反射する巨大な鏡へと反転物質化するわ。ガストン、反射の最適角度を計算しなさい!」
「えっ、砂浜全体を錬成するの!? そんな広域の物質変換、シオンの命が持たないよ!」
「四の五の言わずに計算しなさい! 私は天才よ。この程度の等価交換、自分の知識だけでお釣りが来るわ!」
シオンの怒号に、ガストンは涙を拭って計測器のキーを叩いた。
「上空の敵艦の配置データ、送信するよ! 反射角は北西に四十五度、エネルギーの波長を逆位相に同調させて!」
「上等よ! 大錬金術、鏡面反転の箱庭!」
シオンが叫んだ瞬間、アムネシアの白い砂浜が、一瞬にしてガラスのような、鏡のような、妖しく輝く超硬度の結晶体へと変貌を遂げた。
天空から降り注ぐ第二波の一斉砲撃。
国を滅ぼすほどの光の雨が、シオンが創り出した鏡の砂浜に直撃した。
ズガァァァァァンッ!
しかし、爆発は起きなかった。
降り注いだ全ての魔導レーザーは、鏡面によって寸分の狂いもなく上空へと跳ね返り、自らを撃ち出した白銀艦隊の戦艦へとそのまま直撃したのだ。
予期せぬ身内からの大火力を至近距離で浴びた三隻の巡洋艦が、大爆発を起こして火達磨になりながら、霧の向こうへと沈んでいく。
「やった、直撃だ! 敵艦隊の陣形が崩れていくよ!」
ガストンが歓声を上げたが、シオンはその場に力なく崩れ落ちた。
広大な砂浜の分子構造を瞬時に書き換えるという神業は、彼女の魔力をほとんど底突かせ、その唇からは一筋の血が流れていた。
「おや、おや、シオン。見事な執刀術です。……これほど大規模な物質の治療を、たった一人で成し遂げるなんて、やはりあなたは最高の助手ですね。……ですが、ここからは私の時間です。これ以上の無理は、主治医として看過できません」
枢がシオンの肩を優しく支え、その背中に左手を当てた。
彼の手のひらから注ぎ込まれる白銀の気は、瞬時にシオンの枯渇した経絡を満たし、その顔色に赤みが戻っていく。
枢は立ち上がり、一本の長い銀鍼を静かに抜いた。
「リナさん、シオンをガストンに。敵の旗艦は、まだ健在です。彼らの歪んだ正義の根源を断ち切らなければ、この砲撃の嵐は止みません。私が直接、上空の診察へと向かいます」
枢の背後から、白銀の気が翼のように広がり、彼は重力を無視して天空の艦隊へと向かって跳躍した。
聖鍼師の本当の戦いは、今、雲の上へと舞台を移す。
つづく。
5月16日(土)15:00、一斉砲撃の嵐。
聖鍼師・枢。シオンの絆を胸に、天空の戦場へ翔ける。
18時、夕暮れの特別更新は、第432話「決戦の蒼空、旗艦アルテミスへの潜入と枢の最終通告」へと突入します。
第431話「一斉砲撃の嵐、白銀艦隊の猛威とシオンの大錬金術」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
聖府軍の圧倒的な物量作戦に対し、今回は魔導の天才・シオンさんの大錬金術が炸裂しました。
島全体の砂浜を巨大な鏡へと変え、敵の砲撃をそのまま敵に返すという、彼女の知性と誇りが詰まった戦術は、まさに絶体絶命の窮地を切り裂く最高の奇跡でした。
ガストンくんの正確なナビゲート、そして傷ついたシオンさんを優しく癒やす枢先生の連携に、チームとしての揺るぎない絆を感じていただけたかと思います。
しかし、敵の総大将が乗る旗艦は未だ健在です。
仲間たちの想いを背負い、枢先生は白銀の気の翼を広げて、ついに敵の本陣である上空の艦隊へと単身突入します。
地上の戦いから空中戦へ。
法の中心で、枢先生がどのような言葉を放ち、どのような鍼を打つのか、物語は最高潮の盛り上がりを見せています。
次回の第432話は、本日【18:00】に特別更新予定です。
夕暮れの空を舞台に繰り広げられる、旗艦内部での決戦。
世界の法を司る者たちに対し、枢先生が突きつける最終通告の真意とは。
皆様の熱い声援が、天空へと翔ける枢先生の推進力となります。
18時、雲海に浮かぶ白銀の旗艦にて、再び皆様とお会いできることを楽しみにしております。




