第43話:聖鍼師の休息、そして新たな往診へ
お読みいただきありがとうございます!
ついに王都編、堂々の完結です!
パンデミックを鎮め、地下の闇を払った枢が選んだのは、さらなる病根を断つための新たな旅でした。
王女との別れ、そして意外な弟子(?)の登場。
1,700文字超、聖鍼師の物語はここからさらに加速します。
枢が王女に残した「最後の処方箋」とは……?
地下霊廟の崩壊から一夜。王都に訪れたのは、これまでの重苦しい瘴気が嘘のような、雲一つない快晴だった。
街の至る所で、人々が「体の軽さ」を口にしながら、活気ある朝を迎えている。パンデミックの根源が断たれたことで、都市そのものの血流――物流と活気が戻り始めたのだ。
王宮のバルコニーでは、枢が朝の空気の中で、自分の往診バッグを丁寧に手入れしていた。
「……ふむ。銀鍼の消耗が激しいですね。帝国の特殊な霊鉱石でも手に入れば、もう少し鋭い一刺しが可能になるのですが」
「……枢様。本当に、行ってしまわれるのですか?」
背後から声をかけたのは、セレスティアラ王女だった。彼女の肩には、昨日の呪詛の傷跡は微塵も残っていない。枢の処置が完璧だった証拠だ。
「王女様。この国の『癌』は摘出しました。ですが、放置すれば再発する。……隣国の帝国が、この国に病を植え付けようとしている以上、私はその病根を直接診に行かなければなりません」
「わたくしも、お供いたします! 枢様の力に、少しでもなりたいのです」
王女の必死の訴えに、枢はふっと口角を上げた。彼は王女に近づくと、彼女の細い手を取り、親指と人差し指の付け根にある**『合谷』**を優しく押した。
「……ひゃっ。なんだか、頭がすっきりして……」
「合谷は『万能のツボ』ですが、同時に決意を固めるための気をも整えます。……王女様、あなたの役割は、私が掃除したこの国を、二度と汚させないよう守ることだ」
枢は王女の瞳をじっと見つめ、静かに、だが力強く語りかける。
「あなたが健やかであれば、この国も健やかでいられる。……それが、私という鍼師があなたに下した『処方箋』ですよ」
王女の頬が赤く染まる。彼女は枢の手を握り返し、深く、深く頷いた。
「……分かりました。わたくし、この国を世界で一番『清潔な』国にしてみせます。……ですから、枢様。いつか必ず、検診に戻ってきてくださいね」
王宮を辞した枢は、一人で王都の城門へと向かっていた。
だが、そこには意外な先客がいた。宮廷魔導師長のアルヴィスだ。彼は杖を突きながらも、以前のような濁った気配は一切なく、背筋を伸ばして立っていた。
「……聖鍼師殿。お主の放った鍼は、私の魔力だけでなく、老いさらばえた心まで貫いてくれたようだ」
「アルヴィス様。……顔色が良くなりましたね。……足の**『足三里』**にお灸を続けているようで、何よりです」
「ハッハッハ! お主に言われた通りにな。……さて、帝国へ行くのだろう? 奴らは魔法と科学を融合させた、歪な軍事国家だ。……特にお主が追う『最高軍事顧問』は、人の理を外れた人体実験を繰り返しているという噂がある」
アルヴィスは懐から、一通の紹介状を取り出した。
「これは、帝国内に潜む私の協力者への手紙だ。……聖鍼師殿。お主の技は、この世界を変える。……だが、無理はするなよ。患者を救う者が、一番の重病人になっては話にならんからな」
「……肝に銘じておきましょう」
枢は紹介状を受け取り、一礼すると、迷いのない足取りで街道へと踏み出した。
数時間後。王都を遠くに臨む峠道。
枢は不意に足を止め、周囲の茂みに向かって声をかけた。
「……隠れても無駄ですよ。殺気ではなく、『血行の良すぎる気』が漏れています」
ガサリ、と音を立てて現れたのは、かつて枢がパンデミックから救った少女、リナだった。彼女は大きな荷物を背負い、鼻の頭を赤くしながら立っていた。
「……枢さん! 私、やっぱり枢さんの弟子になりたい! 鍼で人を助けるって、魔法よりもすごいって思ったから!」
枢は呆れたように溜息をついたが、その翡翠眼は優しく細められていた。
「……弟子の道は険しいですよ。……まずは、私の荷物を持って歩きながら、全身のツボ三百六十一箇所をすべて暗記してもらいます」
「はいっ!!」
聖鍼師と、その弟子候補。
奇妙な二人組の旅が、今、始まった。
目指すは、鋼鉄と煙に包まれた軍事帝国。
そこには、魔法でも、科学でも治せない「時代の病」が待ち受けている。
「……さて。往診バッグの予備の鍼は足りますか。……次の患者は、少し手強そうですね」
枢の翡翠色の瞳が、地平線の向こうに揺らめく不穏な影を、鋭く捉えていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
枢さん、ついに旅立ちましたね。
合谷を押して王女を元気づけるシーン、個人的にもお気に入りです。
実際、合谷は「痛みの万能薬」であるとともに、脳の血流を良くして気持ちを前向きにする効果もあるんですよ。
これにて王宮編は一段落ですが、日曜ブーストにお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました!
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「枢さんの別れ際がイケメンすぎて辛い!」
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明日からは、新章「鋼鉄の帝国編」がスタート!
枢の銀鍼が、近代兵器と魔法が混ざり合う闇をどう治療するのか。
引き続き、聖鍼師の往診にお付き合いください!




