第42話:守護の残響、そして澱みの終焉
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導師の死に際の呪い。それを防いだのは、他ならぬ王女でした。
傷ついた彼女を救うため、枢の銀鍼がかつてない速さで躍動します。
肩髃、曲池、そして魂を貫く黄金の鍼。
1,700文字超でお送りする地下霊廟編、堂々の完結!
聖鍼師が見せる「本当の救済」を、その目に焼き付けてください。
巨大な腐敗の権化が翡翠色の光に焼かれ、崩壊していく。その眩い浄化の光に紛れ、導師の執念が形を成した。
それは、実体を持たない魔力の刺。物理的な防御も、気の結界も透過し、魂そのものを腐敗させる禁忌の呪詛――「死の往診」への返礼だった。
「枢様!!」
セレスティアラ王女の叫びが霊廟に響く。
怪物を仕留めた直後の枢は、全神経を指先に集中させていた反動で、背後からの刺に反応が遅れていた。だが、その刹那。枢の背中に衝撃が走るより早く、王女がその小さな体を枢の背中へと投げ出していた。
「なっ……王女様!?」
振り返った枢の目に飛び込んできたのは、王女の肩を掠め、黒い霧となって霧散していく呪いの残滓だった。王女は苦痛に顔を歪め、その場に膝をつく。
「……よかった……。枢様に、当たらなくて……」
「馬鹿なことを……! 呪詛が肩の経絡に食い込んでいます!」
枢は瞬時に王女を抱き寄せ、その右肩の付け根、**『肩髃』**というツボを鋭く見据えた。
そこは、腕の動きと気の流れを司る重要な中継点。導師の呪いはそこを起点に、王女の心臓へと向かって黒い血管のような筋を伸ばし始めていた。
「導師……! 往診の邪魔をするだけでなく、無関係な患者を増やすとは。……万死に値しますよ」
枢の翡翠眼が、冷酷なまでに静かな光を放つ。
彼はバッグから三本の銀鍼を同時に抜き、王女の肩、肘、そして手首へと立て続けに刺入した。
「王女様、痛みますが我慢を。……肘の外側、曲げた時にできるシワの端にある**『曲池』。ここは全身の熱と毒を抜く名穴です。そして手首の『外関』**。先ほど防御に使いましたが、内側から毒を押し出す際にも機能します」
枢が二本の鍼に同時に気を流し込む。
「……ぬ、抜けます。黒い気が……外へ……!」
王女の肌から不気味な黒い煙が排出され、代わりに血色が戻っていく。枢の迅速かつ正確な処置が、一国の至宝を闇の侵食から救い出した。
だが、まだ「病根」が残っている。
崩れゆく霊廟の奥、半透明の霧のようになった導師の魂が、なおもおぞましい呪詛を吐き散らそうとしていた。
「……オのれ……聖鍼師……。貴様さえ、貴様さえいなければ、私は神に……!」
「神、ですか。……自分の心の汚れ(不衛生)も掃除できない者が、神を語るなど片腹痛い」
枢は王女を優しく横たわらせると、ゆっくりと立ち上がった。
その手に握られたのは、往診バッグの底に隠されていた、柄に龍の装飾が施された太い金鍼――『龍魂鍼』。
「導師。……あなたは長年、人を弄ぶことで自分の『生』を実感しようとしてきた。……その結果、あなたの経絡は完全に逆流し、もはや自分という形を保つことすら苦痛なはずだ」
枢は一歩、また一歩と、消えゆく導師の魂へ近づく。
「……最後の問診です。……あなたは、自分の魂がこれほどまでに『臭う』ことに、気づいていましたか?」
「ギ、アアアァァァッ!!」
導師が最後の魔力を爆発させようとした瞬間、枢の金鍼が空を裂いた。
狙ったのは、実体のない魂の正中線。胸の中央にある**『膻中』**の、さらに霊的な深部。
「聖鍼術、最終奥義――『極楽往生』!」
黄金の光が導師の胸を貫いた。
それは破壊ではなく、あまりにも純粋な「解放」。
逆流していた気が、本来あるべき宇宙の流れへと強制的に整えられていく。導師の表情から憎悪が消え、代わりに信じられないほど穏やかな、赤子のような無垢な顔へと変わっていく。
「……ああ……。涼しい……。私は……ずっと……この風を……」
導師の魂は、黄金の粒子となって霊廟の天井へと吸い込まれ、完全に消滅した。
静寂が訪れる。
地下霊廟を埋め尽くしていた瘴気は消え、残ったのは崩れた石材と、どこからか流れ込んできた清らかな水の音だけだった。
「……枢様。終わったのですか?」
王女が、支えられながら立ち上がる。
「ええ。……王都の『癌』は、今度こそすべて摘出しました」
枢は往診バッグを担ぎ直し、出口を見上げた。
しかし、彼の翡翠眼は、崩れた玉座の裏に、導師が最期まで守ろうとしていた「奇妙な紋章」が刻まれているのを見逃さなかった。
それは教団のものではなく、隣国――帝国の最高軍事顧問が使う印。
「……ふむ。どうやらこの往診、まだ『報酬』を受け取るには早すぎるようですね。……病の根源は、王国の外にまで転移していましたか」
枢の不敵な笑みが、暗闇の中で輝いた。
聖鍼師の旅路は、王都を救っただけでは終わらない。
さらなる大きな「病」を治すため、枢の銀鍼が新たな大陸へと向けられる
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
地下霊廟編、完結です!
枢さん、ついに魂の浄化までやってのけました。
治療に使った『曲池』は、実際の鍼灸でもアトピーや風邪の熱、肌荒れなどによく使われる「万能の解毒穴」なんですよ。
そして、最後に現れた不穏な紋章。
物語は王宮を飛び出し、さらなる強敵が待つ「帝国」へと舞台を移します。
「枢さんの『極楽往生』、鳥肌が立ちました!」
「王女様、本当にかっこよかった……! 幸せになってほしい!」
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本日ラスト、第43話は**【21:00】**に更新。
王都の夜明け、そして枢が下す「ある決断」とは。
日曜ブーストの締めくくり、どうぞ最後までお付き合いください!




