第40話:地下水路の悪夢、絶たれた五感
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地下水路編、ついに最深部の闇がその姿を現します。
これまで余裕を見せていた枢を襲う、教団の禁忌「五感封じ」。
視覚も、聴覚も、そして鍼灸師の命である『指先の感覚』さえも奪われたとき、聖鍼師はどう立ち向かうのか。
1,700文字超の特大ボリュームで描く、絶体絶命のピンチと起死回生の神技。
息つく暇もない怒涛の展開をお楽しみください!
王都の地下を網の目のように走る巨大水路。そこは、地上の黄金色の輝きが嘘のように、死と腐敗が支配する暗黒の迷宮だった。
壁面からはドロりとした黒い液体が染み出し、空気は肺を直接焼くような猛毒の瘴気に満ちている。枢の翡翠眼をもってしても、四方から押し寄せる邪気の渦が、視界を紫色のノイズで埋め尽くしていた。
「……これほどとは。不衛生という言葉では生ぬるい。街の経絡そのものが、毒で塗り潰されていると言っても過言ではありませんね」
枢は往診バッグのストラップを握り直し、足首まで浸かる汚泥をかき分けて進む。背後に従うセレスティアラ王女も、魔力の結界を最大に広げているが、その顔色は今にも倒れそうなほど青白い。
その時だった。
――ピチャリ。
水の跳ねる音さえしなかった。
汚泥の中から、蛇のようにうごめく無数の「黒い触手」が音もなく這い出し、枢の四肢を一瞬で絡めとったのだ。
「グ……ッ!? 気が、吸い取られる……!」
それは単なる拘束ではなかった。触手には無数の棘があり、それが枢の経絡に直接食い込み、生命エネルギーを強引に吸い上げ始めたのだ。
「ククク……無駄だ、聖鍼師よ。貴様が浄化した『毒』は、すべてこの地下に溜まっていたのだ。ここは、我ら教団が数百年かけて育て上げた、地上で最も巨大な『死のツボ』。ここに踏み込んだ者は、二度と五感を取り戻せぬまま、汚泥の一部となる」
闇の奥から響く、導師の冷酷な嘲笑。
直後、枢を襲ったのは、これまでに経験したことのない恐怖だった。
まず、視界が急激に狭まった。翡翠眼の輝きが煤け、目の前が真っ暗な闇に閉ざされる。次に音が消え、さらに指先の感覚までもが、氷を押し当てられたように急速に麻痺していった。
(……五感が……消える? 視覚も、聴覚も……そして、鍼師にとっての命である『触覚』さえも……)
枢の脳内に、初めて「死」の二文字がよぎった。鍼灸師にとって、患者の脈を読み、ツボの位置をミリ単位で探り当てる五感は、唯一無二の武器だ。それが封じられるということは、武器を持たぬ兵士として戦場に放り出されたも同然。
「あ、ぁ……枢様……! どこにいらっしゃるの……!?」
近くにいるはずの王女の声すら、水の中に沈んだように遠く、不明瞭になる。
導師の放つ『五感封じの呪い』。それは経絡を逆流させ、脳へと届く全ての神経信号を「死滅」させる禁忌の術式だった。
(……落ち着け。外部からの情報が絶たれたのなら……内部に流れる『魂の声』を聴け……)
枢は、絶望的な暗闇の中で、あえて抵抗を止めた。四肢を縛り付ける触手の痛み、内側から削り取られる魔力の喪失感。それらすべてを「診断の材料」として受け入れたのだ。
翡翠眼は閉じられたが、枢の脳内には、自分の体内の経絡図が鮮明に浮かび上がっていた。
(……見えた。私の足首にある**『太谿』から、邪気が心臓へ向かっている。……さらに、頭頂部の『百会』**が呪いの蓋で閉じられている。……ならば、その流れを逆利用して、内側から『爆破』する!)
枢はわずかに動く右手の指先に、自身の残された全神経を集中させた。鍼を抜く余裕はない。彼はあえて、自分の腰――生命力の根源が宿る**『命門』**を、鍼を通さずに強烈な「指圧」で突いた。
「……ハッ!!」
その瞬間、枢の体内から、濁流のような生命エネルギーが爆発的に溢れ出した。内側から外側へと押し寄せる気の波動が、経絡に食い込んでいた触手をズタズタに引き裂き、水路全体を一瞬だけ翡翠色の神々しい光が満たした。
「な……!? なぜ動ける! 五感を封じ、魔力の根源まで腐らせたはずだぞ!」
導師の驚愕の声が、今度ははっきりと枢の耳に届いた。視界が戻り、指先に確かな熱が蘇る。
「……導師。あなたの『呪い』も、気の流れである以上、私にとってはただの診察対象に過ぎません。……不衛生な不純物を取り除けば、気は自ずと元に戻る」
枢は往診バッグから、これまでで最も長く、そして最も鋭い銀鍼を一本抜き放った。
「……さて。随分と派手な『目隠し』をされましたが、お返しをしましょうか。ここからは、私の時間です」
枢は不敵な笑みを浮かべ、闇の奥に潜む導師の影を見据えた。
しかし、勝利を確信したはずのその時――。
ゴゴゴゴ……と、地下水路全体の壁が、導師の魔法とは明らかに質の違う「巨大な震動」によって揺れ始めた。
枢の背後。水路の闇のさらに奥から、巨大な「何か」が、凄まじい邪気を放ちながら迫りつつあった。
「……まさか。導師。……あなたは、自分の管理できない『癌細胞』まで、この地下に飼っているのですか?」
枢の翡翠眼が捉えたのは、数千年の死骸が合体して生まれた、王都そのものの「腐敗の権化」だった。
絶体絶命の危機を脱した直後、更なる絶望が聖鍼師の前に立ち塞がる――。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
枢さん、初めてのガチ苦戦でしたね……。
ですが、自分の腰にある『命門』を指圧で爆発させて呪縛を解くシーンは、書いていて私も手に汗握りました。
ちなみに『命門』は、実際にお灸などで温めると冷え性や腰痛に非常に効果がある、文字通り「生命の門」となる重要なツボです。
さて、呪縛を解いたのも束の間、闇の奥からさらに巨大な『癌細胞』が這い出してきました。
地下水路の主、その圧倒的な力に対し、枢の銀鍼はどう立ち向かうのか!?
「枢さん、五感を奪われても不敵すぎて痺れる!」
「このハラハラ感、たまらない! 次回も全裸待機します!」
と思っていただけましたら、ぜひ**【ブックマーク】**や評価で応援をいただけると、執筆のテンションが爆上がりします!
次回、第41話は本日**【15:00】**に更新予定。
巨大な腐敗の権化を相手に、聖鍼師の「真の力」が爆発します。
午後の更新も、どうぞお見逃しなく!




