第34話:月下の密談と、忍び寄る「毒の牙」
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宴を抜け出し、王女と二人きりのバルコニー。
良い雰囲気の中、夜の闇から放たれたのは「毒の牙」でした。
だが、聖鍼師の眼は欺けない。
自分の身体を「試験管」にして毒を分析する枢の、常軌を逸した「診察」が始まります。
1,600文字超、王宮に潜む闇の片鱗をご覧ください!
賑やかな宴の喧騒を離れ、枢はバルコニーから夜の王都を見下ろしていた。
浄化されたばかりの空気は澄み渡り、翡翠眼を使わずとも、遠くの街明かりがかつてないほど美しく輝いているのがわかる。
「……ここでしたのね、枢様」
背後から、衣擦れの音と共にセレスティアラ王女が現れた。豪華なドレスを脱ぎ捨て、動きやすい薄手のカフタンに身を包んだ彼女は、王女というよりも一人の可憐な少女に見えた。
「王女様。主役が席を外しては、また侯爵たちが騒ぎ出すのでは?」
「構いませんわ。わたくしが今、一番お話ししたい方は、あんな窮屈な場所に居りませんもの」
彼女は枢の隣に並び、手すりに細い腕を預けた。月光に照らされた彼女の横顔はどこか儚げで、枢は反射的に彼女の手首の『脈』を診ようとして――その手を、彼女に優しく握り返された。
「……枢様。あなたは、わたくしを『患者』としてではなく、一人の『セレスティアラ』として見てくださるのかしら?」
真っ直ぐな瞳。その熱量に、現代日本で仕事一筋だった枢の魂が、一瞬だけたじろぐ。
「……私は、あなたの身体の声を聴く者です。その声が、今は少しだけ、高鳴っているのが聞こえます」
枢がはぐらかすように答えると、王女は不満そうに頬を膨らませた。だが、その時。
――ピリッ。
枢の翡翠眼が、夜の闇に紛れた「微細な殺気」を捉えた。
「王女様、動かないで」
「えっ……?」
枢は瞬時に王女の腰を引き寄せ、自分の背後に隠した。それと同時、暗闇から音もなく放たれた三本の『毒鍼』が、枢の指先の間に吸い込まれるように挟み取られた。
それは、魔導具による自動追尾ではなく、純粋な身体能力と練り上げられた『気』によって放たれた、暗殺者の業。
「……夜風にしては、少々鋭すぎますね」
枢の瞳から温度が消える。バルコニーの屋根の上から、黒い装束を纏った男が音もなく着地した。先ほどのバルモン侯爵が連れていた治癒師ではない。より実戦に特化した、『教団』の暗殺者だ。
「……聖鍼師。貴様の目は節穴か? 陛下の呪いを解いたことで、我らの『真の主』を本気で怒らせたのだ」
「真の主、ですか。……興味深いですが、まずはあなたの『手の震え』を直すのが先決のようですね」
枢は奪い取った毒鍼を、あろうことか自分の左手のツボ、**『神門』**に軽く押し当てた。
「なっ、自害するか!?」
「いえ……あなたの毒の成分を、『検体』として私の神経で分析させてもらっているだけです」
神門は心経に属し、精神を鎮めるツボだが、枢はそこから敢えて毒を取り込み、翡翠眼の解析能力を最大化させた。
「……なるほど。トリカブト系の植物毒に、魔力の循環を阻害する『石化病』の因子を混ぜていますね。……古い。実に古典的な、そして悪趣味な毒だ」
枢は一歩踏み出す。暗殺者が怯えて距離を取ろうとしたが、枢の動きの方が一歩早かった。
「逃げても無駄です。あなたの左肩、**『肩井』**に、すでに私の気が届いています」
枢が空気を突くような動作を見せると、暗殺者の身体が石像のように硬直した。肩井は首の付け根にあるツボで、全身の気の巡りを司るが、枢の鋭い気が「杭」となってその流れを物理的に封じ込めたのだ。
「……ぐ、あああ!? 体が、動かん……!」
「肩井は重い荷物を持つときに凝る場所ですが、そこに私の気を打ち込めば、脳からの伝達信号を完全に遮断できます。……さあ、精密検査の続きをしましょうか。あなたの『真の主』とやらの名前、吐き出してもらいますよ」
枢は、奪った毒鍼を暗殺者の喉元、**『廉泉』**という発声のツボへと向けた。
「ここに鍼を打てば、嘘をつこうとした瞬間に喉が閉まり、窒息することになります。……さあ、正直にお話しください」
月下のバルコニーで、救国の聖鍼師は、慈悲深い笑みを浮かべながら、死神よりも冷酷な「問診」を開始した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
枢さん、王女様とのイイ感じのシーンを邪魔されて、ちょっとお怒りモードです(笑)。
『神門』に毒を当てるなんて、医者としては失格かもしれませんが、聖鍼師としては最速の分析方法。
「枢さん、王女様を庇う姿がイケメンすぎる!」
「自白のツボ『廉泉』……そんな使い方があるなんて怖すぎる!」
本日は1日6回更新ブースト中! 次回、第35話は**【15:00】に更新です!
暗殺者が口にした「真の主」の正体とは……!?
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