第33話:黄金の宴と、毒杯の真実
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王都を救った後の祝宴。
華やかな舞台で枢を待っていたのは、他国の不遜な貴族でした。
「魔法が使えなくて何が医者だ」
そんな罵倒を、枢が東洋医学の「一刺し」で黙らせます。
手三里、天枢……身体の不調を言い当てる「聖鍼師」の診察をお楽しみください!
王宮の大広間は、数日前の絶望が嘘のように、黄金の灯火と華やかな音楽に包まれていた。
パンデミックの終息と国王の快気祝い。その主役として迎えられた枢は、セレスティアラ王女によって用意された、深い藍色の礼装に身を包んでいた。元の『枢』の細身な体に、仕立ての良い服がよく映える。
「枢様、そんなに隅にいらっしゃらなくても……。皆様、あなたとお話ししたがっていますわ」
王女が困ったように微笑み、枢の袖を引く。だが、枢の手にはワイングラスではなく、先ほど給仕からこっそり手に入れた「薬草のリスト」が握られていた。
「王女様、私はただの鍼灸師です。着飾って愛想を振りまくより、この国の植生を調べている方が性に合っている」
枢がそう言って溜息をついた時、背後から傲慢な足音が近づいてきた。
「……君が、噂の『聖鍼師』か。随分と若いが、本当に魔法も使わずに陛下を救ったというのかね?」
現れたのは、派手な金刺繍の服を着た中年の男――隣国の有力貴族であり、優れた治癒魔導師を多く抱えるバルモン侯爵だった。彼の瞳には、枢への敬意ではなく、自国の医術を脅かす者への強い警戒と不快感が宿っている。
「魔法は使っていません。身体の『流れ』を整えただけです」
「ふん、胡散臭い。東方のまじないのようなもので、たまたま運が良かっただけではないのか? 実際、陛下はまだお疲れのご様子。本当に完治したのかどうか……」
侯爵は、隣に控えていた自抱えの治癒師に目配せをした。その治癒師が、枢の反応を試すように、グラスを差し出しながら微弱な「混乱」の魔力を混ぜようとした――。
だが、その瞬間、枢の翡翠眼が鋭く光った。
「侯爵。……お喋りの前に、少しご自分の身体を心配された方がいい」
「何だと?」
枢はグラスを受け取ることなく、侯爵の右腕、肘の外側にあるツボ、**『手三里』**を鋭い指先で弾くように突いた。
「な、何を……!? ぐわっ、腕が……!」
侯爵が叫び声を上げる。右腕が激しく痺れ、持っていた扇子を床に落とした。
「……失礼。あまりに顔色が土気色で、胃腸の気が滞っているのが見えたのでね。そこは胃経の重要なツボです。……侯爵、最近、夜中にみぞおちが焼け付くように痛み、食欲が落ちていませんか?」
「な……なぜそれを……」
「翡翠眼で見れば、あなたの経絡が悲鳴を上げているのがわかります。……暴飲暴食、そして他人に呪いを仕掛けるような陰湿なストレス。……そのせいで、お臍の両脇にある**『天枢』**というツボ周辺に、どす黒い気が溜まっていますよ」
枢はさらに、侯爵の腹部を指差した。天枢は「天の要」とも呼ばれ、内臓の調子を整える要のツボだが、今の侯爵はそこが完全に閉塞している。
「放っておけば、一ヶ月もしないうちに胃に穴が開くでしょう。……人を疑う前に、まずは自分の不摂生を治療することをお勧めします」
周囲の貴族たちが、驚きと嘲笑の入り混じった視線を侯爵に向ける。侯爵は顔を真っ赤にし、痺れる腕を押さえながら逃げるようにその場を去っていった。
「お見事ですわ、枢様」
王女がくすくすと笑い、枢の側に寄り添う。
「……ですが、あの侯爵は執念深い方です。……それに、あの治癒師が放とうとした魔力、どこか地下祭壇で感じた『蛇』の気配に似ていませんでしたか?」
枢は翡翠眼の光を鎮め、祭壇の奥に潜んでいた黒幕の残滓を思い返した。
「……ええ。パンデミックは終わりましたが、この国に巣食う『病』の本質は、まだ取り除けていないようです。……宴の食事に毒が入っていないか、翡翠眼で一本ずつ鍼を通す必要があるかもしれませんね」
「まあ、枢様ったら。……でも、あなたがいれば、どんな毒も怖くありませんわ」
華やかな宴の裏で、枢は確信していた。
ガレオスや地下の教団は、ただの「末端の細胞」に過ぎない。この国を根底から腐らせようとしている、真の『癌腫』が、このきらびやかな夜会のどこかに潜んでいる。
枢は往診バッグの中に忍ばせた龍雷鍼の感触を確かめ、静かにワインを口にした。
聖鍼師の「往診」は、まだ始まったばかりなのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
枢さん、パーティー会場でも診断を欠かしません(笑)。
『手三里』はパソコン作業で疲れた時にも効くツボですが、強く突くとびっくりするほど痺れるんですよね。
「枢さんにツボを突かれて悶絶する侯爵、ザマァすぎる!」
「宴の裏でまた不穏な気配が……続きが気になる!」
本日はブースト日! 次回、第34話は**【12:00】に更新です!
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