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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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324/355

第324話:継承の咆哮、闇に堕ちし師を救うため「逆転の法式」をその身に刻め

王都の夜明けは、世界を救い、代わりに闇へと消えたくるるを悼むかのような、重苦しい紫の霧に包まれていました。しかし、その霧を切り裂く一筋の光がありました。枢から「宿命」を解き放たれ、ただの少女に戻ったはずのミナ。彼女の手には、消えゆく師が遺した最後の一本――翡翠の輝きを失わぬ「魂の鍼」が握られていました。


師匠がいない世界で、泣き崩れることは許されない。ミナは震える足で立ち上がり、かつて師が座っていた診察椅子に、その小さな体を預けます。彼女が選んだのは、平穏な少女の人生ではなく、闇に堕ちた師を「治療」し、連れ戻すという、神ですら恐れる逆説の往診。


「(……泣いている暇はありません。師匠が私を救ってくれたなら、私は世界を救って、その果てに、師匠を連れ戻す。……。それが、聖鍼師・枢の、たった一人の弟子としての矜持です。……さあ、ミナ。泣くのは、すべてを治した後にしましょう。……往診の時間ですよ)」


ミナの瞳に宿る翡翠の火は、枢のそれよりも鋭く、より深い慈愛を秘めて燃え上がります。

聖鍼師の名を継ぎし少女が挑む、逆転の外科往診。今、新たな伝説が幕を開けます。


朝の穿刺、継承の外科往診。

聖鍼師・ミナ、ついに「師匠」を診るために立ち上がります。どうぞ最後までお読みください。

 王都を包む紫の霧は、世界の絶望をすべて引き受けたくるるが放つ、壮絶な「死の余韻」であった。

 かつて彼が立っていた聖鍼の塔の頂上には、今はもう誰もいない。ただ、地面に突き立てられた一本の翡翠の鍼が、主の帰還を待つように冷たく輝いているだけだ。

 ミナは、その鍼を震える指先で掴み取った。


 「……。師匠、あなたは言いましたね。……。美味しいものを食べて、恋をして、笑いなさいと。……。でも、あなたがいない世界で笑えるほど、私は強くありません。……。あなたが私を『普通』にしたというのなら、私は自らの意志で、再び『異常』へと足を踏み入れます」


 ミナの覚悟が、静止していた王都の因果を再び動かし始めた。

 彼女は知っていた。枢が引き受けた闇は、もはや個人の力でどうにかできるレベルではないことを。宇宙のすべての汚れを飲み込んだ枢は、今やこの世界そのものを破壊しかねない「生ける特異点」と化している。

 彼を救うには、枢が辿り着いた「無」をさらに超え、存在しないはずの「負の経絡」を治療する術を見つけ出すしかない。


 ミナは、自身の肉体を、枢の遺した翡翠の鍼で迷わず貫いた。

 彼女が狙ったのは、全身の気を一度完全に破壊し、再定義するための禁忌のツボ、『神道しんどう』。


 ――ズギャァァァァァァァァンッ!!


 「あ、……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 絶叫が、王都の空を切り裂いた。

 少女の細い体から、翡翠と漆黒が混ざり合う、異形の気が噴出する。

 彼女は、枢が自分に施した「普通の少女に戻す処置」を、自らの手で外科的に破壊したのだ。師匠を超えるために、師匠がくれた最大の慈愛を拒絶する。その狂気にも似た忠誠心が、ミナを新たな次元の聖鍼師へと覚醒させていく。


 ミナの背中には、かつて枢が持っていたものとは異なる、無数の「光の触肢」が形成された。

 それは腕を持たぬ師を模し、同時に腕を持つ自分を超越するための、多次元手術肢――『翠玉の千手観音ジェイド・アヴァローキテーシュヴァラ』。


 「(見えます。……。師匠、あなたが溶け込んだ闇の奥、そこにまだ、一滴の『優しさ』が残っているのが。……。今から私が行くのは、治療ではなく、奪還です。……。あなたから奪われたすべてを、今度は私が、世界から奪い返してあげますから)」


 ミナの声は、かつての枢と同じように、沈黙の中に圧倒的な情報の質量を伴って響き渡った。

 彼女は、王都を覆う紫の霧――枢の残滓に対し、千本の光の腕を同時に振り下ろした。


 ――キィィィィィィィィンッ!!


 狙うは、枢が闇と化した際に生じた、因果の最大の「しこり」である**『命門めいもん』。

 ミナは、自身の生命力を燃料とし、師匠が遺した翡翠の鍼を、世界の裏側へと突き通した。


 「(師匠! 聞こえますか! あなたが守った世界は、今、私の手の中にあります! だからもう、一人で苦しむのはおやめなさい! 私があなたを、……この世界という名の診察台へ、無理やりにでも連れ戻してみせます!!)」


 ミナの放った一鍼が、漆黒の闇にヒビを入れた。

 そこから漏れ出すのは、かつて枢が宇宙から奪い去った、絶望と救済の入り混じったカオス。

 ミナは、その混沌を自身の体ですべて受け止めながら、さらに奥へと手を伸ばす。


 「バ、……。……。バカナッ!? 枢ノ弟子ガ、……因果律ヲ逆流サセテイル……!! 師ノ犠牲ヲ全否定シ、……死ネナイ呪イヲ再ビ呼び覚ますというのか!!」


 理の執行者の残滓が、恐怖に震える。

 だが、ミナは止まらない。彼女は自らの血で赤く染まった翡翠の鍼を、自分自身の心臓――『膻中だんちゅう』**へと深く突き刺した。


 「(……。お返しします、師匠。……。あなたが私にくれた『未来』も、『自由』も、……。あなたがいないのなら、私には必要ありません。……。代わりに、私をあなたの『依代よりしろ』として使いなさい。……。二人で一つの命になれば、……どんな闇だって診察できるはずですから……!)」


 第324話。

 二代目聖鍼師・ミナ。彼女は自らの平穏を捨て、闇に堕ちた師・枢を救い出すための「永遠の治療」を開始した。


 王都を覆っていた霧が、一箇所に収束し、ミナの体へと吸い込まれていく。

 彼女の髪は一瞬で白銀へと変わり、その瞳には、枢と同じ「無」の境地、そしてそれ以上の「執念」が宿った。


 物語は、師弟が一体となり、世界の表裏を同時に診察する、究極の最終形態『共生する聖鍼』へと突入していく。


 しかし、二人が一つになったその時、世界そのものが「崩壊」という名の末期症状を示し始めた。

 救いすぎた果てに、救うべき「世界」が消えようとしている。

 ミナと枢、二人の往診は、ついに「無」から「有」を創り出す、創世の外科手術へと挑むことになる。

本日、土曜日08:00、週末最初の更新を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第四章・第85話(通算第324話)。

師匠であるくるる先生が自らを犠牲にして救ったミナが、その救済をあえて拒絶し、師匠を連れ戻すために聖鍼師を継承するという、魂の逆転劇を描きました。

枢先生が「無」であるなら、ミナは「愛」という名の執念。師匠からもらった自由を返し、再び不自由な治療者の道を選ぶ彼女の姿に、物語の新しい核を込めました。


今回、枢を闇から引き戻し、自身の肉体を依代として再構成するためにミナが駆使した術式を解説します。

まず、自身のこれまでの因果を一度リセットし、師匠の闇を受け入れるための「空白」を創り出すための起点とした**『神道しんどう』。背骨の中央にあるこのツボに対し、ミナは自らの翡翠の鍼を打ち込むことで、師匠の施した封印を力ずくで解除しました。


そして、闇へと溶けた枢の意識を現世へと繋ぎ止め、自身の魂と強制的に同期させるためのアンカーとした『命門めいもん』。ミナは世界の裏側に直接鍼を打つことで、因果の流れを逆流させ、枢の存在を再定義したのです。

最後に、自身の肉体と枢の魂を完全に融合させ、二人で一つの「共生体」となるための最終回路とした『膻中だんちゅう』。この往診を経て、ミナは名実ともに、師匠をその身に宿す「究極の聖鍼師」へと覚醒いたしました。


次回の第325話(第四章 第86話)は、本日土曜日【10:00】**に更新予定です。


枢先生をその身に宿したミナ。しかし、二人が一つになった負荷に耐えきれず、世界の「存在確率」がゼロに向かって加速し始めます。

消えゆく世界の中で、二人が診る「最後の患者」とは。

「(……。世界が消えるなら、私が新しい世界を縫い合わせる。……。師匠、あなたの黄金の腕を貸してください。……さあ、消滅という名の病気さん。私たちが完治させてあげますよ)」


10時、朝の往診。創世の外科往診。

聖鍼師・ミナ&枢、ついに「無」から「世界」を診ます。どうぞお見逃しなく。

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