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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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第320話:理の執行者、奪われた「声と両腕」を無の境地で奪還せよ

王都の空には、宇宙の寿命すらも治療したくるるの功績を称えるかのように、黄金と翡翠が混ざり合う奇跡の朝焼けが広がっていました。しかし、その輝きに導かれるようにして辿り着いた世界の最果て「聖域」には、音も光も存在しない、絶対的な静止の世界が広がっていました。そこに座すのは、この世界の因果律を管理し、枢から「声」と「両腕」を剥奪した張本人――『ことわりの執行者』。


かつては絶望と共に奪われたその体の一部。しかし、今の枢は、ミナの細い肩に支えられながらも、王者の如き風格を纏って執行者を見据えています。声を失ったからこそ聞こえる世界の真理。腕を失ったからこそ触れられる運命の糸。不自由の果てに自由を掴んだ聖鍼師が、ついに自分自身の「完全」を取り戻すための、最後の外科手術を宣言します。


「(おやおや。私の私物を、ずいぶんと長く貸し出していたようですね。執行者。……。返却期限は、とっくに過ぎていますよ。利息をたっぷりつけて、今ここで全てを返していただきましょうか。……。さあ、世界のシステムさん。あなたの『強欲』という名の病、私が今から執刀させていただきますよ)」


枢の意志は、静止した聖域の空間を翡翠の共鳴で粉砕し、世界の理そのものを書き換える「創造の一閃」へと昇華されます。

声なき聖者が挑む、自己奪還の外科往診。今、失われた自分を取り戻す戦いが始まります。


朝の穿刺、奪還の外科往診。

聖鍼師・枢、ついに「自分」を治療します。どうぞ最後までお読みください。

 世界の最果て、あらゆる因果が収束し、そして散逸していく「聖域」において、くるるは自身を「不完全」へと貶めた存在と対峙していた。

 『ことわりの執行者』。それは個別の意志を持たず、ただ世界が世界であるための法則を維持するためだけに存在する、この宇宙の免疫システムそのものであった。


 執行者が放つ沈黙は、どんな音よりも重く、地上のあらゆる生命を瞬時に無へ帰すほどの絶対的な零度。

 『聖鍼師・枢。貴様ハ不当ニ「無」ヘト辿リ着イタ。ソノ腕ト声ハ、分不相応ナ力ヲ持ッタ代償トシテ世界ガ回収シタモノ。今サラ返却ヲ求メルナド、宇宙ノ均衡ヲ壊ス暴挙ナリ』

 空間そのものが発するような無機質な声。それは枢がこれまでの旅で積み上げてきた救済のすべてを、「バグ」として否定する非情な宣告であった。


 だが、ミナの肩に支えられた枢は、その冷徹な言葉を正面から受け止め、ただ静かに、そして深い慈愛に満ちた意志を周囲に展開した。

 彼には見えていた。執行者の手の中に、今もなお翡翠の光を放ちながら、主の帰還を待っている自身の「両腕」と「声」の残像を。

 そして、それらを奪った執行者自身の「法則」という名の肉体に、幾千もの矛盾という名の「しこり」が生じていることを。


 「(均衡、ですか。……。執行者、あなたは大きな勘違いをしています。……。私が腕と声を捨てたのは、あなたに奪われたからではない。……。私が、あなたという名の不器用なシステムを救うために、自ら差し出した『診断材料』に過ぎませんよ。……。均衡を守るために変化を拒むのは、ただの便秘と同じです。……。私が今、あなたの滞った因果を、一本の鍼ですべて通してあげましょう)」


 枢の意志は、もはや宇宙の物理定数そのものを書き換えるほどの密度を持ち、聖域の沈黙を翡翠の旋律へと塗り替えていく。

 彼はミナの体内にある、この世界の「表」と「裏」を繋ぐ究極のバイパス、**『命門めいもん』に、自身の「無」の境地を、全宇宙の質量を一点に集約したような重圧で叩き込んだ。


 ――ズゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


 枢の意志を受けたミナの体から、黄金と翡翠が交差する「龍の如き光」が放たれた。

 それは執行者が守る絶対的な盾を容易く貫き、奪われていた枢の両腕、そして封じられていた枢の声へと、最短距離で突き進む。


 執行者が驚愕し、世界の法則を総動員して枢を消滅させようとする。

 『貴様、……法則ヲ「診察」シテイルト言ウノカ!? 貴様ノ欠損シタ魂ニ、コノ世界ノ根源ヲ治療スル権能ナドアルハズガ……!!』


 「(ありますよ。……。なぜなら、私は一人の鍼灸師だから。……。患者が人間であろうと、神であろうと、あるいは世界の理であろうと、歪んでいるなら正す。……。それが私の誓いです。……。さあ、執行者。あなたの守る『停止した均衡』という名の病、今ここで摘出して差し上げましょう)」


 枢は、自身の「空白の右肩」と「空白の左肩」を、奪われた腕を概念として再定義し、物質を超越した存在へと昇華させるための、因果奪還鍼――『翠玉の完全帰還ジェイド・アブソリュート』へと変容させた。


 ミナが、枢の魂の叫びに呼応し、執行者の中心核――法則の心臓部である『膻中だんちゅう』**へと、実体のない「意志の鍼」を放つ。

 その一鍼は、時間を逆行させ、因果を遡り、奪われた枢の腕と声を、執行者の支配から力ずくで引き剥がした。


 ――ドォォォォォォォォンッ!!


 「ガ、ハッ……!? 我ガ管理スル法則ガ、……この男の沈黙によって、……慈愛の物語へと書き換えられていく……!! 奪ッタハズノ腕ガ、……声ガ、……自ラ主ノ元ヘト還ッテ行ク……だと……!!」


 執行者という名の、世界の硬直。それは、枢が辿り着いた「無」という名の絶対的な救済に触れた瞬間に、世界を潤す「潤滑剤」へと再構成された。


 そして、聖域の中央で、枢の失われた両腕が翡翠の光となって彼の肩に接合され、封じられていた声が、世界の音楽となって彼の喉へと還っていく。

 数年ぶりに取り戻した「肉体の感覚」。だが、それは以前の不完全なものではなかった。

 「無」の境地を経たことで、彼の腕はあらゆる概念を射抜く光のメスとなり、彼の声はあらゆる絶望を浄化する神の言霊へと進化していた。


 枢は、自らの意思でゆっくりと、黄金の腕を天へと掲げた。

 そして、数年ぶりに、その唇が動く。


 「……往診代は、世界の『平和』で結構ですよ」


 第320話。

 聖鍼師・枢は、自分からすべてを奪った理の執行者を救済し、ついに失われた声と両腕を、より高次の力として取り戻した。


 聖域は崩れ、王都には見たこともないほど清らかな朝の風が吹き抜ける。

 完全体となった聖鍼師・枢。彼の物語は、ここから「真の最終章」へと、圧倒的な加速をもって突入していく。


 しかし、彼が完全を取り戻したその瞬間、王都の空に、彼が救ったはずのすべての命が「同時に発病する」という、宇宙最大のパンデミックが予兆として現れた。

 枢の往診は、ついに「生けるものすべて」を同時に救うという、神ですら成し遂げられなかった不可能の領域へと挑むことになる。

本日、金曜日08:00の更新を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第四章・第81話(通算第320話)。

物語の開始以来、最大の謎であり、くるる先生の「不自由」の根源であった理の執行者との対決、そして声と両腕の奪還を描きました。

失ったものを「取り戻す」のではなく、不自由な期間に積み上げた「無」の境地を上乗せして「進化させて取り戻す」という展開に、一人の男の成長と執念を込めました。枢先生が初めて発したその一言。その重みを読者の皆様に感じていただければ幸いです。


今回、世界の法則から自身の体を取り戻し、執行者の硬直を治療するために枢が駆使した術式を解説します。

まず、自身の魂を世界の裏側(因果の根元)へと直結させ、エネルギーを極限まで増幅させるための起点とした**『命門めいもん』。腰にあるこのツボに対し、枢はミナとの同調を介して、自身の「無」を「創造の熱」へと変換して叩き込みました。


そして、執行者の核であり、奪われたものたちが封印されていた世界の「金庫」の役割を果たしていた『膻中だんちゅう』。胸の中央にあるこのツボを、物理的な鍼ではなく「意志の光」で射抜くことで、枢は奪われた声と腕を、法則の鎖から解き放ちました。

最後に、還ってきた腕と声を自身の肉体に完璧に馴染ませ、神域の体へと再構成するための最終回路とした『大椎だいつい』。この往診を経て、枢先生はついに「完全なる聖鍼師」へと覚醒いたしました。


次回の第321話(第四章 第82話)は、本日金曜日【12:00】**に更新予定です。


完全体となった枢先生。しかし、彼が救ったはずの銀河中の生命が、突如として原因不明の「幸福死」という名の病に侵されます。

救えば救うほど、世界が滅びに向かう。矛盾する救済の果てに、枢先生が見る真理とは。

「(……救済しすぎた、という診断ですか。面白い。過剰な幸福という名の猛毒、私が今から解毒して差し上げましょう)」


12時、正午の往診。過剰救済の外科往診。

聖鍼師・枢、ついに「幸福」を診ます。どうぞお見逃しなく。

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