第30話:王宮の沈黙、王を蝕む「黒き蛇」
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瀕死の国王。王宮魔導師たちが立ち尽くす中、枢が提示したのは、足の裏から「雷」を撃ち込むという衝撃の治療法。
百会、労宮、湧泉、膻中……東洋医学の叡智を総動員し、呪いという名の『病根』を焼き切ります。
1,500文字オーバーの濃厚回、お楽しみください!
王宮の最深部、国王の寝所。
そこは、かつての威厳を失い、死の臭いと粘着質な魔力の澱が漂う絶望の間と化していた。
「枢殿、よくぞ、よくぞ来てくれた……!」
近衛騎士団長が、藁をも掴む思いで枢を招き入れる。その背後には、顔を青白くさせた王宮魔導師たちが立ち尽くしていた。彼らは国で最高峰の治癒魔法の使い手だが、今はただ、匙を投げて震えている。
「陛下は……パンデミックの霧が晴れた直後に崩れ落ちたのだ。治癒魔法も、聖水も、解毒薬も一切受け付けぬ。それどころか、魔法を使えば使うほど、陛下の衰弱が早まっているのだ……!」
枢は無言で陛下の枕元に立った。
ベッドに横たわるのは、王国を統べる賢王。だがその表情は苦悶に歪み、肌は土気色を通り越して、不気味な黒ずみを帯びている。
枢が翡翠眼を静かに起動すると、視界が「命の地図」へと切り替わった。
(……やはりな。これは単なる病ではない。魔力の流動そのものを『結び目』のように固定し、生命力を逆流させる呪い……。それも、王宮内部の者でなければ仕掛けられないほど、緻密で悪辣な術式だ)
枢の視界には、王の心臓から四方に伸びる、透明な「魔力の糸」が見えていた。その糸の先は、王宮の影、地面の底――先ほどガレオスが言っていた『黒き蛇の教団』が潜む地下祭壇へと繋がっている。
「枢様……お父様は、お父様は助かりますの……?」
セレスティアラ王女が、枢の衣の裾をぎゅっと握りしめる。その指先は氷のように冷たく、震えていた。
「王女様。一つ、質問です。……この国の王とは、何ですか?」
「え……? それは、国を支える大樹であり、民の誇り……」
「違います。医学的に見れば、王とはこの国という巨大な生命体の『心臓』です。……心臓が止まれば、国は死ぬ。……ならば、動かすまでです」
枢が往診バッグから取り出したのは、これまで一度も見せたことのない、燃えるような紅色の鍼――**「龍雷鍼」**だった。その鍼が空気に触れた瞬間、寝室中にパチパチと小さな火花が散り、魔導師たちが「なんだその不吉な鍼は!」と悲鳴を上げた。
「待て! 陛下にそんな得体の知れないものを刺すなど、反逆行為だぞ!」
「どきなさい。……お前たちの無能な魔法こそが、陛下の命を削っていることに気づかないのか」
枢の冷徹な一喝に、魔導師たちが言葉を呑む。
「呪いを解くのではありません。……呪いごと、陛下の生命力で『焼き切る』。……いわば、心肺への強制的な電気ショックです」
枢はまず、王の頭頂部、百の経絡が交わる至高の急所**『百会』に、気を静めるための極細鍼を一本打った。これにより、王の精神を「仮死」に近い状態まで沈め、これから起こる激痛から脳を保護する。
続いて、王の両手の中央、心包経に属する『労宮』**。ここは心の熱を抜き、気を循環させる要のツボだ。ここに中鍼を打つことで、全身の血液が強制的に心臓へと呼び戻される。
「さて、ここからが本番です」
枢は王の掛け布団を跳ね除け、その足裏を露わにした。
狙うは、生命エネルギーの源泉とされる、足裏の最も深い窪み――『湧泉』。
東洋医学において「生命の泉が湧き出る場所」とされるそこは、同時に呪術的な逆流が最も起こりやすい場所でもある。
「王女様、陛下の肩を抑えて。……舌を噛まないように。……行きます」
枢が精神を極限まで集中させ、龍雷鍼を湧泉へと深く突き立てた。
刹那。
――ガガァァァァァンッ!!!
寝室全体を揺るがすような衝撃音と共に、枢の鍼から真っ白な雷光が迸った。
王の身体が大きく跳ね、同時に、心臓から伸びていた「黒い糸」が、逆流した生命の炎によって一気に焼き切られていく。
「グ、ガァァァァッ……!!」
意識を失っていた王の口から、どす黒い霧が吐き出された。それは、王を蝕んでいた呪いの残滓だ。
「……一分で、脈を正常に戻します」
枢は止まらない。龍雷鍼に続いて、間髪入れずに銀鍼を胸元の正中線、心臓の真上に位置する**『膻中』**へと打ち込む。ここは「気の海」と呼ばれ、呼吸と拍動を支配する急所。
そこへ枢が指先から微弱な電気魔力を流し込むと、止まりかけていた王の胸が、大きく、深く上下し始めた。
「……はぁ、はぁ……。……空気が……美味い……」
賢王が、ゆっくりと目を開けた。土気色だった肌にはみるみるうちに健康的な赤みが差し、死の淵から引きずり戻された男の確かな生命力が、寝室を満たしていく。
「お父様……! お父様!!」
王女が泣き崩れながら王に縋り付く。近衛騎士団長は膝をつき、魔導師たちはその光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
枢は静かに龍雷鍼を抜き、布で拭ってバッグへと収めた。その手つきには一切の迷いがない。
「……湧泉から入れた気が百会へ抜け、膻中が鼓動を始めた。これで陛下は大丈夫です。あとは数日、ゆっくりと休ませれば元の体力が戻るでしょう」
枢の視線は、すでに「次」を向いている。
彼が龍雷鍼で呪いの糸を焼き切った際、その衝撃は逆流し、術者である『教団』の者たちにも届いているはずだ。
(……今、逆流した雷撃で奴らの居場所(座標)を逆探知した。……逃がしはしない。……私の往診を邪魔した代償は、高くつきますよ。……お前たちの心臓も、少し『刺激』して差し上げます)
英雄の休息は、まだ先になりそうだった。
枢の翡翠眼には、王宮の地下深くで、激痛に悶えながら自身の心臓を押さえる「蛇」の姿がはっきりと映っていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
聖鍼師の本領発揮! 今回は物語に欠かせない「ツボ」の解説も多めにお届けしました。
足の裏の『湧泉』は、現実でも冷えや疲労に効く万能のツボですが、枢さんの手にかかれば「AED」に早変わりします(笑)。
「ツボの解説があると、枢さんの凄さがより伝わる!」
「逆探知した枢さん、怒らせちゃいけないタイプだ……」
とワクワクしていただけましたら、ぜひ**【ブックマーク】**で応援をよろしくお願いします!
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次回、第31話は本日**【21:00】**に更新予定。
狙撃ならぬ、鍼による「逆探知往診」。地下に潜む教団を、枢が追い詰めます!




