第3話:王女の願いと、黄金の「経絡」
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第3話は、ついにこの国の至宝、王女セレスティアラ様の登場です。
魔法でも治らない病を、枢が「東洋医学的なアプローチ」でどう解明するのか。
ちなみに今回の治療シーン、鍼灸の世界ではお馴染みの「あの現象」を異世界風にアレンジしてみました。
賢者ガウェインが、一介の生徒である枢に頭を下げた。
その衝撃的なニュースは、翌朝には王都の隅々まで、文字通り「魔法のような速さ」で拡散していた。
学園の廊下を歩くだけで、周囲が波が引くように道を空ける。
「おい、あの没落貴族が……」「賢者様を呪ったって本当か?」「いや、腰を折ったらしいぞ」
勝手な噂が飛び交う中、枢は溜息をついた。
「……静かに暮らしたいだけなのですがね」
そんな彼を待ち構えていたのは、豪奢な馬車と、白銀の鎧に身を包んだ騎士たちだった。
「クルル・レンシュタット殿とお見受けする。――国王陛下がお呼びだ」
連行されたのは、王城の奥深く。
そこには、重苦しい「死」の気配が漂っていた。
豪華な寝台に横たわっているのは、この国の至宝と謳われる第一王女、セレスティアラ。
「クルルよ。ガウェインから聞いた。お主、魔法を使わずにガウェインの宿痾を払ったそうだな」
玉座から降りてきた国王の目は、縋るように赤く充血していた。
「ティアを救ってくれ。あらゆる聖属性魔法も、高価な秘薬も効かぬのだ」
枢は無言で王女の側に歩み寄る。
宮廷魔導師たちが「下級貴族が触れるな!」「ガウェイン様は騙されたのだ!」と喚くが、枢は一切視線を向けない。
翡翠色の瞳が、王女の体を透かし見る。
(……これは。やはり、この世界の『治療』は根本的に間違っているな)
「国王陛下。彼女の病は、呪いでも魔力不足でもありません。……むしろ逆。『魔力の過剰蓄積による経絡の閉塞』。いわば、魔力の便秘です」
「べ、便秘だと……!? 王女に向かって何という無礼を!」
「お黙りなさい。彼女は今、体内の魔力が出口を失い、行き場をなくしたエネルギーが内臓を焼き続けている。……聖属性魔法で魔力を追加し続けたのは、溢れそうなコップにさらに水を注ぐようなもの。悪化させていたのは貴方たちですよ」
枢の冷徹な指摘に、魔導師たちが絶句する。
枢は、王女の細い手首を取り、脈を診る。
(速い。だが、芯が細い。**『少沢』から『天窓』**にかけて、魔力の流れが完全に凝り固まっているな)
枢は懐から、一際長く、眩いばかりに輝く銀の魔力鍼――『絶糸』を取り出した。
「陛下。今からこの鍼を、彼女の喉元と、胸の正中に打ちます。一歩間違えれば死にますが、私以外に彼女を救える者はこの世にいません。……信じますか?」
「……やってくれ。責任は私が持つ!」
国王の決断と共に、枢の手が閃いた。
王女の鎖骨の間、『天突』。そして胸の中央、『檀中』。
急所中の急所に、深々と銀の鍼が刺入される。
「――『一鍼定命・開穴』」
刹那。
王女の体から、目も開けられないほどの黄金の光が溢れ出した。
「……っ、あ、あぁ……ッ!!」
王女の口から、黒ずんだ魔力の霧が吐き出される。
それと同時に、青白かった彼女の肌に、みるみるうちに赤みが差し、荒れていた肌が真珠のような輝きを取り戻していく。
「……あ、う……。体が、すごく……軽い……?」
数ヶ月間、昏睡状態だった王女が、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
その瞳に、自分を覗き込む枢の姿が映る。
「……おはようございます。少し、熱かったでしょう? 魔力が詰まると、女性は肌が荒れやすい。後で美容に効くツボも教えて差し上げましょう」
枢がわずかに微笑むと、王女セレスティアラは顔を真っ赤にして、そのまま布団を被って震え出した。
それは恐怖ではなく、生まれて初めて経験した「強烈な恋」の鼓動だった。
「おお……ティアが、ティアが笑った! 奇跡だ、これこそが神の奇跡だ!!」
国王が泣き崩れる中、枢は冷静に鍼を収める。
(やれやれ。これで報酬に、静かな生活を要求できるでしょうか……)
だが、枢の思惑とは裏腹に、王女を救った「聖鍼師」の噂は、隣国のスパイや魔王軍の耳にまで届こうとしていた。
枢の放った一撃……ならぬ「一鍼」。
王女様の「魔力の便秘」は無事に解消されたようですが、どうやら彼女の心の方にも何かが突き刺さってしまったようです。
さて、王女を救ったことで、枢の平穏な生活はいよいよ崩れ始めます(笑)。
「王女様、可愛い!」
「魔力の便秘、斬新すぎる!」
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次回、王女様による「斜め上の恩返し」が始まります。お楽しみに!




