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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第一章:王都の毒を穿つ聖鍼】

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第29話:暴かれた毒の系譜と、英雄の休息

お読みいただきありがとうございます!


宿敵ガレオスとの対峙。そこで語られたのは、この国の心臓部を蝕むさらなる巨悪の存在でした。

「病根」はまだ、死に絶えてはいなかった。

街を救った英雄が、次は玉座の闇へと挑みます。

ついに1,500文字オーバーの濃厚回。お楽しみください!



 浄化された王都の空は、これまで見たこともないほどに澄み渡っていた。

 地下街の魔導炉から放たれたくるるの浄化の波動は、街を窒息させていた毒々しい紫色の煤煙を、まるで一陣の強風が塵を払うかのように完全に一掃してしまった。代わって街の隅々まで行き渡ったのは、春の芽吹きを思わせるような、瑞々しく清浄な生命の息吹だった。


「枢様、見てください! 街が……街が息を吹き返していますわ!」

 セレスティアラ王女が、歓喜の声を上げながら枢の腕に飛びついた。泥と煤にまみれ、最高級のシルクで仕立てられたドレスの裾もボロボロになりながら、彼女の翡翠色の瞳には大粒の涙が浮かんでいる。その笑顔は、どんな高価な魔法具の輝きよりも眩しく、枢の胸の奥を静かに、だが確かに打った。


 枢は、わずかに目を細めて高く抜けた空を見上げた。

 ふと、自分の右手に視線を落とす。ガレオスと対峙した瞬間に、まるで自分のものではないかのように激しく震えていた指先は、今はもう、嘘のように静止していた。身体の深層、細胞の一つ一つに刻まれていた異世界の「連城枢」という少年の恐怖、劣等感、そして絶望。それは、現代日本の知識と、医家としての揺るぎない覚悟を持って病根を貫いた瞬間に、霧と共に完全に浄化されたのだ。

 

 今、この身体は名実ともに、くるるという魂の完全なる器となった。そんな確かな手応えが、彼の掌に宿っていた。


「……当然の結果です。滞っていた気が流れれば、生命というものは勝手に自浄を始める。……ですが王女様、あまり激しく動かないでください。あなたの魔力も、私の補助でかなり消耗しているはずですから」

 枢はいつものようにぶっきらぼうな口調で言いながらも、崩れそうになる王女の細い肩を、壊れ物を扱うように優しく支えた。


 その視線の先。

 機能を停止し、ただの鉄塊へと戻りつつある魔導炉の前で、一人の男が膝をつき、力なく項垂れていた。

 ガレオス。かつて「連城枢」の人生を無慈悲に狂わせた天才魔導医師は、今や見る影もなく、己が信じた「医術」という名の独善が根底から否定された絶望に、ただただ打ちひしがれている。


「……信じられん。私の……私の理論は完璧だったはずだ。弱き者を淘汰し、魔導の力で肉体に強制的な進化を促す。それこそが、古く停滞したこの国を救う唯一の『外科手術』であったはずなのだ……!」


「ガレオス、お前の間違いはそこにある」

 枢が静かに歩み寄り、ガレオスの目の前で立ち止まった。その影が、絶望に震える男を冷たく覆う。


「お前は、この街という巨大な生命(患者)を、自分の思い通りに動かせる『人形』だと勘違いしていた。だが、本当の医術とは、患者を管理することではない。患者が本来持っている『治る力』……すなわち自然治癒力を信じ、その邪魔を取り除いてやることだ。……お前が否定した弱き民の一人一人が、今、自分の力で呼吸を始めている。……この風の声こそが、お前への答えだ」


 ガレオスはハッと目を見開き、遠く地上から聞こえてくる市民たちの歓喜の声に耳を澄ませた。

 地下まで届くのは、絶望の咳き込む音ではない。代わって聞こえてくるのは、互いの無事を確かめ合う叫び、再会を喜ぶ泣き笑いの声、そして何よりも、明日へ向かおうとする力強い大地の脈動だった。

「……フッ……ハハハ……。完敗だよ、枢。……いや、今の君が本当は『何者』なのかは知らないが……君の言う通り、私は診断そのものを間違えていたようだ」


 ガレオスは自嘲気味に笑い、震える指先で、王都の象徴である王宮の中央塔を指し示した。その指先には、もはやかつての傲慢な魔力は宿っていない。

「……だが、喜ぶのは早いぞ。……このパンデミックは、私一人で仕掛けたものではない」


「……何だと?」

 枢の翡翠眼が、ガレオスの言葉の裏にある不穏な「気の揺らぎ」を敏感に捉えた。


「……『黒き蛇の教団』。彼らは私に、この巨大な魔導炉を暴走させるための『禁忌の魔石』を与えた。彼らにとって、この街の騒動は単なる陽動に過ぎない……。真の狙いは、その王女の父親……国王陛下の生命力を直接喰らい、この国の根幹そのものを腐らせることにある」


 その言葉がガレオスの唇から溢れ終わるのを待っていたかのように、王都の静寂を切り裂く轟音が響き渡った。

 王宮の最深部、国王の寝所がある白亜の中央塔から、ドス黒い、不吉な粘着質を感じさせる煙が、蛇のようにのたうち回りながら立ち上がったのだ。


「枢様、あちらは……お父様の……陛下の寝室ですわ!」

 セレスティアラの顔から、一気に血の気が引いた。パンデミックが収束し、王都全体が安堵と歓喜に包まれたこの一瞬。それこそが、真の黒幕が狙い済ましていた「最大の隙」だったのである。


「……なるほど。病根は死滅したのではなく、より深い場所に転移していたというわけですか」

 枢は深く、重い溜息をつき、再び使い古された往診バッグを肩にかけ直した。

 休む暇など、一秒たりともない。身体の節々は悲鳴を上げ、魔力も底を突きかけている。だが、枢の瞳には諦めも、ましてや恐怖など微塵もなかった。あるのは、目の前で苦しむ命がある限り、そのすべてを救い上げるという、一人の鍼灸師としての揺るぎない、狂気にも似た執念だけだった。


「……休診時間は終わりのようです。王女様、案内を。……今度は、この国という『巨大な命』の心臓を叩き起こしに行きますよ。……一寸六分の銀鍼が、届かない闇などありません」


 枢と王女は、浄化されたばかりの街を、風を切って駆け抜ける。

 背後で、ガレオスは力なく呟いた。その声には、敗北感と共に、どこか救われたような響きが混じっていた。

「……行け、枢。お前なら……あの救いようのない『呪い』すら……鍼一本で通すというのか……」


 王宮へと続く長い階段を、一歩ずつ踏みしめながら駆け上がる枢。その脳裏には、すでに次なる「処方箋」の文字が、黄金の輝きを伴って描かれ始めていた。

 数千年の歴史を持つ東洋の英知、現代医学の緻密な論理、そしてこの世界の魔導。

 三つのことわりが重なり合う時、聖鍼師の鍼は、玉座に潜む最古の闇を照らし出し、真実を貫く。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


ガレオスの敗北、そして枢が「連城枢」という身体を本当の意味で受け入れるシーン。転生モノとしてのカタルシスを感じていただけていれば幸いです。


「枢さん、休む暇なし! でもそこがいい!」

「王女様、ボロボロになっても枢さんを信じてるのが尊い……」


もし少しでも「熱いな!」と感じていただけましたら、ぜひ**【ブックマーク】**で応援していただけると、深夜の執筆の励みになります!


次回、第30話は本日**【18:00】**に更新予定。

王宮暗殺阻止編、開幕。聖鍼師vs教団の呪い。

枢の「一刺し」が、国家の命運を繋ぎ止めます!

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