第28話:王都の深呼吸、浄化の一刺し
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暴走する巨大魔導炉。それは街を蝕む「病根」そのものでした。
襲いかかるガレオスの魔術を背に、枢が放つ一尺の大鍼。
王都数万人の「呼吸」を取り戻す、聖鍼師の最大の一撃をお届けします!
「一秒で、全員の『詰まり』を解消します」
枢の宣言は、静かだが地下街の湿った空気を震わせるほどの覇気に満ちていた。
ガレオスが操る数体の魔導傀儡が、獣のような咆哮を上げて一斉に飛びかかる。かつてこの街の住人だった彼らの肉体は、紫色の結晶に侵食され、今や意思を持たない殺戮兵器と化していた。
「枢様……!」
「王女様、そのまま!」
セレスティアラが展開した黄金の結界。その一瞬の防壁を足場にするように、枢の体が弾けた。
それは武術ではない。身体の構造を知り尽くした医家だけが可能とする、最短・最速の移動。
すれ違いざま、枢の指先が閃く。
手にした銀鍼が、傀儡たちの頸椎にある『大椎』、そして魔力の中枢である『命門』を正確に射抜いた。
「ガハッ……!?」
「グ、アァッ……!」
襲いかかっていた傀儡たちが、空中で静止したかのように勢いを失い、次々と地面に転がった。枢は彼らを殺していない。暴走していた魔力回路に、鍼で「強制的なバイパス」を作り、オーバーヒートした神経を鎮めたのだ。
「馬鹿な……。その速度、その精度。かつての君には、そんな芸当は……!」
「言ったはずです、ガレオス。お前が見ていたのは過去だ。……そして、今の私の眼には、お前の『傑作』の急所が丸見えですよ」
枢の翡翠眼が、地下街の奥底で唸りを上げる巨大な魔導炉を捉えた。
それは王都全域に毒を撒き散らす「心臓」であり、ガレオスの狂気の源泉。
「お前の理論では、この炉が街に『進化』を促しているのだったな。……だが、私の診断は違う。これは街の経絡を塞ぎ、腐敗を溜め込む『癌細胞』だ。……今ここで、摘出する」
枢は往診バッグの底から、一本の重厚な「大鍼」を取り出した。一尺を超えるその鍼は、魔力を通すことで眩いばかりの純白の輝きを放つ。
「させん! 炉に触れさせはしない!」
ガレオスが焦燥と共に巨大な魔力弾を放つ。だが、枢は避けない。
「枢様、ここはわたくしがーー!」
セレスティアラが杖を突き出し、全魔力を込めてガレオスの魔法を相殺した。
「……行ってください、枢様! あなたの信じる『治療』を!」
「……感謝します、王女様」
枢が跳んだ。
巨大な魔導炉の、排気圧が最も高まる一点。翡翠眼が捉えた「気の結び目」に向けて、黄金の大鍼が吸い込まれていく。
「……王都全域の肺気、整えさせてもらいます。……貫け!!」
大鍼が、鋼鉄の炉を紙のように貫き、その深奥にある魔核を射抜いた。
刹那。
ドォォォォォ……ッ!!!
鼓膜を揺らす轟音と共に、炉から吐き出されていた紫色の煤煙が、一瞬にして透き通った純白の「清気」へと変わった。
それは地下街を駆け抜け、下水路を通り、王都全域の空気孔から地上へと噴き出した。
街を覆っていたどんよりとした霧が、まるで魔法が解けたかのように、空の彼方へと霧散していく。
家々で苦しんでいた数万人の市民たちが、一斉に新鮮な、瑞々しい空気を肺に吸い込んだ。
「あ……。息が……。息ができるぞ……!」
「喉の痛みが消えた……!? 奇跡だ、聖鍼師様の奇跡だ!」
浄化された空気が王都を包み、朝日が澄み渡った街並みを照らし始める。
炉の前で、ガレオスは力なく膝をついた。彼が積み上げた狂気の理論は、枢の一本の鍼によって、跡形もなく崩れ去っていた。
「……なぜだ。私の魔導医学が、なぜこんな旧式の鍼一本に……」
「ガレオス。お前の医術には、最も大切なものが欠けていた。……それは、患者(この街)が『生きたい』と願う声を聴く心だ。……お前は、この街の呼吸を忘れていたんだよ」
枢は静かに、大鍼を引いた。
嵐の後のような静寂の中、王女セレスティアラが枢の元へ駆け寄り、その手をとる。
「枢様……。本当に、本当にお見事でしたわ……!」
パンデミックの終焉。
だが、その背後で蠢く「真の黒幕」は、まだ王宮の深部で息を潜めていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
パンデミック編、決着です!
街全体を一つの生き物として捉え、その「詰まり」を解消する。
枢ならではのスケールの大きな治療劇、いかがでしたでしょうか。
「一尺の大鍼、デカいけど格好良すぎる!」
「街中の空気が変わる描写、スッキリした!」
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次回、第29話は本日**【12:00】**に更新予定。
事件の裏で糸を引いていた「真の毒」が、王宮を襲います!




