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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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第276話:法則の風邪、狂乱する物理を「重力定礎の鍼」で鎮める

王都の夜明けは、美しくも、あまりにも「支離滅裂」なものでした。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第37話(通算第276話)。


神アルキメスという絶対的な「記述者」を失った世界。それは、厳格な管理者なしで動き始めた巨大な機械のようなものでした。

設計図(物理法則)という名の縛りが消えたことで、自然界のエネルギーはそれぞれの「意思」で勝手な振る舞いを始めます。竈の火は青白く凍てつき、井戸の水は重力を忘れて天へと噴き出し、道行く人々は一歩踏み出すたびに数メートルも宙に浮き上がってしまう。


「……枢様!! 助けて……!! 洗濯物が、……雲と一緒に……どこまでも……昇って行っちゃうの……!!」


大人に戻ったミナが、空へと逃げていく日常の欠片を必死に追いかけます。

神の未練を宿し、白と黒、二色の髪を揺らすくるるは、自身の視力を失った瞳を「世界のひずみ」へと向けました。

物理法則が病に罹ったのなら、その「歪んだ経絡」を真っ直ぐに正すまで。


「……。……。……世界が、……自由を……手に入れて……、……少し……はしゃぎすぎて……いるようですね。……。……私が……、……その……浮ついた……法則たちを、……大地に……繋ぎ止めて……差し上げましょう」


8時、混乱の王都、ことわりの外科往診。

聖鍼師・枢、世界の「背骨」を矯正します。どうぞ最後までお読みください。

神亡き後の最初の朝。王都は、理不尽な「奇跡」に満ち溢れていた。

 

 広場に集まった民衆たちは、歓喜ではなく、戸惑いと恐怖に顔を歪ませている。

 朝食を作ろうと火を熾せば、その炎は氷のような冷気を放ち、肉を焼くどころかフライパンを凍りつかせる。喉を潤そうと汲み上げた水は、桶の中で渦を巻いたかと思うと、そのまま意思を持った生き物のように空へと這い上がっていく。

 極めつけは、大地そのものが持つ「重み」の消失だった。

 馬車は地面から数センチ浮き上がり、荷物を運ぶ労働者は、足を踏み出すたびに木の葉のように宙を舞い、制御不能なまま風に流されていく。

 

 神アルキメスという絶対的な規律が消えたことで、世界の基礎記述パラメーターが暴走を始めたのだ。

 

「……はぁ、……はぁ……。……枢様、……。……世界が、……壊れちゃった……みたい。……何ひとつ……、……当たり前が……通用しないの……」

 

 ミナが、ふわふわと浮き上がる自身の体を必死に石柱に繋ぎ止めながら、悲痛な声を上げる。

 くるるは、その混沌の中心で、静かに、しかし深く、大地に自身の杖を突き立てた。

 

 彼の髪は、昨夜、神の未練を飲み込んだことで、右半分が雪のような白、左半分が深淵のような黒へと染まっている。

 それは、聖なる「生」と、神の遺した「死」の、不完全な混濁の証明。

 

「……。……。……法則が……、……『記述の軸』を……失い……、……迷子に……なって……いるのですね。……。……ならば……、……私が……新しい……規律しんぞうを……打ち込みましょう……」

 

 枢は、自身の左手で、自身の腰にある**『大腸兪だいちょうゆ』**を、自身の自身の肉体を「大地と直結するアンカー(碇)」へと変質させるために、指先が背骨に届くほど強く圧迫した。

 

 彼の心眼には、世界の経絡が、ズタズタに引き裂かれ、空中に漂う色とりどりの「光の糸」となって暴れているのが見えていた。

 火を熱く、水を重く、土を固く保っていた神の記述が、剥き出しのまま無秩序に絡み合っている。

 

 枢は、懐から三本の、漆黒の輝きを放つ「重晶石の鍼」を取り出した。

 それは、浮ついた因果を物理的な重みで地面へと繋ぎ止める、秩序の鍼――『万有定礎グラビティ・アンカー』。

 

「……熱いものは……熱く、……重いものは……重く。……。……。……それが……、……皆さんが……、……今日を……生きるための……約束……ですから……」

 

 枢は、自身の左指を、自身の額にある**『印堂いんどう』**へと、自身の全意識を「世界のバグ(物理的なズレ)」の座標へと直結させるために、深く突き立てた。

 

 一本目の重晶石鍼。

 枢はそれを、王都の中心、重力のツボである**『大地の委中いちゅう』**へと、自身の自身の翡翠の気を「一トンの質量」に変えて叩き込んだ。

 

 ――ズドォォォォォォォンッ!!

 

 王都全体が、これまでで最も「重い」地響きに見舞われた。

 宙を舞っていた馬車や民衆が、磁石に吸い寄せられるように、一斉に石畳の上へと着地する。

 

「……あ、……足が……、……ちゃんと……地面に……つく!! ……身体が……重い、……。……生きてる……重さが……する!!」

 

 民衆が、自分たちの足裏の感触を確かめ、涙を流して喜ぶ。

 だが、まだ「火」と「水」の反乱は止まらない。

 

 二本目の鍼を、空へ向かって逆流し続ける「水の道(水道)」の座標へと、枢は自身の右腕を、自身の自身の骨が粉砕されるほどの重圧を厭わず、井戸の縁へと突き刺した。

 

 ――ドクンッ!! ――ドクンッ!!

 

 枢の血管が、重力の急激な再構成に耐えきれず、全身で破裂した。

 白と黒の混じり合った髪から、鮮血が滴り落ちる。

 

「……降りなさい。……。……渇いた……喉の……ために、……。……大地の……底へ……還りなさい……!!」

 

 三本目の最終鍼。火に「熱」を取り戻させ、冷たい偽物の炎を焼き殺すための一撃。

 

 枢は、自身の左手で、自身の胸にある**『膻中だんちゅう』**を、自身の自身の内に宿した「神の残滓」を熱源ボイラーとして燃やし尽くすために、拳で胸骨を砕くように激しく叩いた。

 

 ――カァァァァァァァァァッ!!

 

 枢の全身から、翡翠と漆黒が混ざり合った「爆発的な熱風」が噴き出した。

 その熱は王都全域へと広がり、凍てついていた竈の火を「赤く、熱い真実の炎」へと強制的に書き換えた。

 

 次の瞬間。

 

 井戸の水は勢いよく底へと沈み、朝食の鍋からは温かい湯気が立ち上り、王都は「昨日までの当たり前」を、枢の鍼によって取り戻した。

 

 枢は、自身の左手で、自身の腹部にある**『気海きかい』**を、自身の自身の命の残滓を、世界の秩序という名の「重石」として固定し続けるために、指先で深く押さえた。

 

「……。……。……これで……、……。……ようやく……、……温かい……朝食が……食べられます……ね……」

 

 第276話。

 聖鍼師・枢は、神という支えを失い、バラバラに浮き上がりかけた「世界の物理法則」を、自らの肉体をアンカーにして繋ぎ止め、人々の足元に「確かな明日」を打ち直した。

 

 白と黒の髪を揺らし、血まみれで立つ彼の姿は、もはや救世主ではなく、この世界の不具合を一つずつ直して歩く、孤独で、しかし最も信頼される「世界の修理医エンジニア」そのものだった。

本日、火曜日8:00の更新を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第四章の第37話(通算第276話)。

絶対的な支配者・神アルキメスが消えたことで、世界そのものが「記述の不全」を起こし、物理法則が狂い始めた混沌の朝。

人体を救うだけでなく、重力や温度といった「世界の基礎規律」を往診の対象とする。これこそが、神の未練を宿したくるるが引き受けた、新たなる聖鍼師の役割です。

火を熱く、水を重く。当たり前の日常を守るために、枢が自らの肉体を世界の「重石」に変える姿を描きました。


今回、枢が狂乱する物理法則を鎮め、大地の秩序を再構築するために駆使したツボの技術を解説します。

まず、浮き上がりかけた自身の肉体を大地に縫い付け、世界の重力の「中心点」として機能させるための起点とした**『大腸兪だいちょうゆ』**。腰にあるこのツボを刺激することで、枢は自身の質量を擬似的に増大させ、王都全体の重力のブレを抑え込むためのアンカーとなりました。


そして、世界の経絡から剥がれ落ちた「物理的なズレ(バグ)」の正確な座標を特定し、そこに鍼を誘導するためのレーダーとした**『印堂いんどう』。眉間にあるこのツボに全意識を集中させることで、枢は目に見えない重力や温度の「歪みの核」を見極め、三本の重晶石鍼を正確に打ち込んだのです。

最後に、神から受け継いだ膨大なエネルギーを「熱」へと変換し、凍てついた炎を再燃させるための燃焼回路とした『膻中だんちゅう』**。胸にあるこのツボを激しく叩くことで、枢は自身の内に宿る「神の残滓」という名の燃料を燃やし、その熱量で王都全域の「冷たい火」を「熱い火」へと強制的に上書きしたのでした。


次回の第277話(第四章 第38話)は、本日火曜日**【12:00】**に更新予定です。


物理を繋ぎ止めた枢。しかし、無理やり法則を固定した反動で、今度は「言葉」が意味を失い始めます。

喋っても喋っても、相手にはただの「砂の音」にしか聞こえない。意思疎通が不全となり、疑心暗鬼に陥る人々。

「……ミナ、……。……私の……声が……、……届いて……いますか……?」


12時、言語の崩壊、沈黙の外科往診。

聖鍼師・枢、消えゆく「意味」を繋ぎ合わせます。どうぞお見逃しなく!

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