表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

265/272

第265話:返礼の一鍼、数万の温もりが灯す「生命の再燃」

王都を覆う暗闇は、もはや恐怖の色ではなく、穏やかな「休息」の帳へと変わっていました。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第26話(通算第265話)。


数千年の歴史の炎症を一人で引き受けたくるるの肉体は、限界を遥かに超え、静かにその機能を停止しようとしていました。

翡翠の光は消え、呼吸は浅く、指先からは体温が奪われていく。

救世主の死を予感し、嘆き悲しむミナや民衆たち。

しかし、その時。かつて枢に命を救われた老人、子供、騎士たちが、一人、また一人と「何か」を手に持ち、彼の元へと集まってきました。


「……聖者様。……。……あなたが……私たちの……因果を……繋いでくれた。……。……今度は……私たちが……あなたの……命を……縫い合わせる……番だ」


それは、神が作ったどんな名器よりも輝く、人々の「想い」という名の黄金の鍼。

逆転の往診、愛の再起動。

本日最後の一話、どうぞ心ゆくまでお召し上がりください。

 夜の帳が王都を包み込み、地底からの怨念が浄化された後の広場には、重苦しい静寂だけが横たわっていた。

 

 その中心で、くるるは崩れ落ちるように膝をついたまま、微動だにしなかった。

 彼の右腕は漆黒の怨念に焼かれて炭のように変色し、その瞳からは光どころか、生命の気配そのものが失われようとしていた。

 

 数千年の歴史の重みを、たった一人の「人間」の経絡で受け流した代償。

 それは、枢という存在そのものが、因果の摩擦熱で燃え尽きてしまうという、残酷な帰結だった。

 

「……枢様……。……。……嫌だよ、……目を開けて……。……お願いだから……!!」

 

 ミナが枢の冷たくなった手を握り、自身の体温を分け与えようと必死に叫ぶ。

 だが、枢の心臓は、もはや自身の意志で拍動する力を残していなかった。

 

 枢の意識は、真っ暗な海の底へと沈んでいくような感覚の中にいた。

 痛みも、哀しみも、もう感じない。

 ただ、自分が救ってきた人々の笑顔だけが、泡のように遠くへ消えていく。

 

(……ああ、……。……これで……良いのですよ。……。……歴史の……トゲは、……抜けました。……。……あとは、……皆さんが……明日を……描くだけ……)

 

 枢が自身の死を静かに受け入れようとした、その時。

 

 ――トクンッ。

 

 停止しかけていた彼の「心根」に、場違いなほど温かい、小さな熱が触れた。

 

「……死なせない。……。……聖者様、……あんたを……ここで……終わらせて……たまるかよ!!」

 

 それは、かつて枢が地脈を治療した時に、真っ先に芽吹いた麦を手に持った農夫の声だった。

 

「……俺たちの……『元気』を……持っていってくれ!!」

 

 一人の農夫が、枢の背中に手を当てた。

 続いて、技術を取り戻したパン屋の主人が、かつて枢に足を治してもらった老婆が、そして怨念から救われた騎士たちが。

 数万人の民衆が、波のように枢の周りに集まり、互いの肩を抱き、大きな「輪」を作って、枢の肉体へと自分たちの気を送り込み始めた。

 

 その気の奔流は、やがて一本の、眩い黄金の光となって枢の胸元へと収束していく。

 

 枢は、混濁する意識の中で、自身の左指を、自身の胸にある**『膻中だんちゅう』**へと、最後の力を振り絞って震わせた。

 

(……これは……、……。……神の……光……ではない。……。……温かい……、……泥臭い……、……けれど……何よりも……強い……『人の力』……)

 

 民衆たちの「手」から溢れ出した気が、枢の体内に残っていた漆黒の怨念を、一粒残らず押し流していく。

 

 枢は、自身の左手で、自身の腹部にある**『気海きかい』**を、自身の内に流れ込む数万人の鼓動を、自身の命として繋ぎ止めるために、掌で包み込むように押さえた。

 

 ――ドクンッ!!

 

 枢の心臓が、力強く、大地を揺らすほどの鼓動を奏でた。

 

 彼の右腕にこびりついていた漆黒の壊死が、黄金の光に焼かれて剥がれ落ち、そこから瑞々しい、赤子のようになめらかな肌が再生していく。

 

 枢は、自身の左指を、自身の額にある**『印堂いんどう』**へと、自身の心眼を「全方位の共鳴」へとアップデートするために深く突き立てた。

 

 ――カァァァァァァァァァッ!!

 

 枢が目を開けた。

 

 その瞳には、かつての翡翠色を超えた、王都に住むすべての人々の魂が反射したような、極彩色の輝きが宿っていた。

 

「……皆さん。……。……往診……。……。……往診に……来たつもりが、……。……私が……往診を……受けて……しまいましたね……」

 

 枢が、掠れた声で、しかしはっきりとした微笑みを浮かべて呟いた。

 

 広場に爆発的な歓声が上がる。

 人々は抱き合い、空を見上げ、自分たちが「聖者を救った」という、歴史上類を見ない奇跡に酔いしれた。

 

 枢は、自身の左手で、自身の首筋にある**『天柱てんちゅう』**を、自身の自身の蘇った生命力を王都の隅々まで循環させ、今日一日のすべての疲れを「癒し」へと変えるために、指先で優しく撫でた。

 

 神という絶対者がいなくても、人は人を救える。

 医師がいなくても、愛があれば、命は繋がる。

 

 第四章の第26話。

 聖鍼師・枢は、人々の「恩返し」という名の究極の医術によって蘇り、神亡き後の世界で生きるための、真の「強さ」を民衆と共に手に入れた。

 

 夜の王都。

 広場に焚かれた大きな火を囲み、枢はミナが焼いたパンを一口、大切そうに噛みしめた。

 その味は、どの神の供え物よりも、力強く、そして優しかった。

 

 第265話。

 因果の往診は、終わらない。

 明日には明日の、新しい「痛み」が待っている。

 けれど、今の枢には、共に歩む数万人の「心臓」が、その背中に寄り添っていた。

本日も、土曜日・全6回更新という過酷なマラソンを、最後まで一緒に走り抜いてくださり、本当にありがとうございました。


第四章の第26話(通算第265話)。

死の淵に立ったくるるを救ったのは、神の魔法ではなく、彼が救ってきた「名もなき人々」の手でした。

医術とは、施す側と受ける側の双方向のやり取りであってこそ、真の奇跡が起きる。枢が民衆に「往診される」という結末は、この物語が目指す「共生」というテーマの、一つの到達点です。


今回、枢が死の淵から蘇り、民衆の気を受け入れるために駆使したツボの技術を解説します。

まず、自身の精神を現世に繋ぎ止め、民衆の温もりに「気づく」ための起点となった**『膻中だんちゅう』**。ここは心の気が集まる場所。枢はここをアンテナにすることで、物理的な死を超えた人々の「愛」を、自身の生命エネルギーへと変換するための入り口としました。


そして、数万人のバラバラな気を、自身の「命の源(丹田)」へと安全に集約させるために用いた**『気海きかい』。文字通り「気の海」であるこのツボを掌で押さえ、フィルターのように機能させることで、枢は過剰なエネルギーによる肉体の破裂を防ぎつつ、自身の細胞を一つずつ再起動させていったのです。

最後に、蘇った瞬間に自身の心眼を再構成し、人々との「絆のネットワーク」を確立するために突いた『印堂いんどう』**。ここを刺激することで、枢は自身の脳を世界そのものと共鳴させ、神亡き後の新しい世界の記述デザインを読み取る力を手に入れたのでした。


次回の第266話(第四章 第27話)は、明日日曜日**【08:00】**に更新予定です。


蘇った枢の前に現れたのは、安息ではなく「未知の訪問者」でした。

王都の遥か西、誰も立ち入ることのなかった「鏡の森」からやってきたという、自身の姿を持たない「影の民」。

「……聖者様。……。……どうか、……私たちの……『存在の薄さ』を、……治して……いただけませんか……?」


日曜日の朝、新展開・鏡の森編。

聖鍼師・枢、今度は「影」を治療します。どうぞお見逃しなく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ