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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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第262話:焦土の呼気、死せる大地を貫く「再燃の三鍼」

真上から照りつける太陽が、かつて豊穣を約束されていた王都の穀倉地帯を、容赦なく焼き払っていました。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第23話(通算第262話)。


技術を取り戻した人々を待っていたのは、あまりにも残酷な「飢え」の現実でした。

神アルキメスという管理者がいなくなったことで、魔力によって不自然なまでに豊かだった大地は、一瞬にしてその生命維持機能を失い、ひび割れた死の荒野へと変わり果てていたのです。


「……枢様、……芽が出ないの。……。……どんなに……水を……撒いても、……土が……死んでるみたいに……冷たいんだ……!!」


泣き崩れる農夫たち。

神の加護という「ドーピング」を失った世界は、自力で芽吹く力さえ忘れていました。

くるるは、自身の左指を、熱を失った土壌へと深く突き立てます。


「……大地も、……。……ひどい……冷え性(虚脱)に……罹っているようですね。……。……私が……火を……灯しましょう」


大地という名の「巨大な患者」を往診する、不動の一鍼。

飢餓の絶望を穿つ、生命の再起動。どうぞ最後までお読みください。

 王都の外縁に広がる「黄金の海」と呼ばれた麦畑は、今や見る影もなく、灰色の死に絶えた泥の海へと変貌していた。

 

 神アルキメスが地上を去ってから、わずか数時間。

 この世界の植物たちは、神から供給される「魔力という名の栄養剤」なしでは生きられないように、その記述を歪められていたのだ。

 根は水分を吸うことを忘れ、葉は光合成という名の生命活動を拒絶し、ただ重力に従って萎れていく。

 

 くるるの足元にある土からは、かつての力強い鼓動パルスが消え失せ、底知れぬ「きょ」の感覚だけが伝わってきた。

 それは、長年の栄養失調と魔力依存によって、大地そのものが「重度のショック状態」に陥っている証だった。

 

「……枢様、……。……見て、……。……さっき……植えた……苗が、……触れただけで……粉になっちゃう……!!」

 

 ミナが、ひび割れた地面に跪き、黒ずんで枯れ果てた小さな芽を、震える手で包み込んでいた。

 周囲の農夫たちも、鍬を放り出し、ただ天を仰いで絶望の涙を流している。

 

 技術があっても、焼くべき麦がなければ、人々は死ぬ。

 神を倒した結果、手に入れた「自由」の正体は、あまりにも冷酷な「飢餓」という名の現実だった。

 

「……皆さん。……。……この大地は、……死んで……などいません。……。……ただ……あまりに……深い……眠りについて……いるだけです」

 

 枢は、自身の左手で、自身の喉にある**『水突すいとつ』**を、自身の渇いた気道を潤し、大地に届くほどの重厚な声を発するために、指先で強く圧迫した。

 

 彼は、自身のボロボロになった衣の裾を捲り上げ、ひび割れた大地に直接、自身の右膝を突き立てた。

 

 盲目の彼には、見えずともわかる。

 地中深く、数メートルの場所を流れる「龍脈(地脈)」が、行き先を失った魔力に阻まれ、巨大な「血栓」のように滞っている様が。

 大地のツボが、詰まっているのだ。

 

「……少し……荒療治に……なりますが、……。……目を……瞑って……いてください」

 

 枢は、自身の左指を、自身の額にある**『印堂いんどう』**に添え、自身の意識を、大地という名の巨大な肉体へと深く、深く沈めていった。

 

 彼は、懐から三本の、太く重厚な「赤銅せきどうの鍼」を取り出した。

 

 それは、かつて彼が、火山の噴火を鎮めるために打ったとされる、熱を操る禁忌の鍼――『火龍の息吹ヒート・パルス』。

 

 枢は、自身の左手で、自身の右肩にある**『肩井けんせい』**を、自身の全身の気を、右腕の一点に凝縮させるために、指先が食い込むほど強く押した。

 

 一本目の赤銅の鍼。

 枢はそれを、大地の「気の玄関口」であるはずの**『湧泉ゆうせん』**の地脈点へと、自身の体重のすべてを乗せて叩き込んだ。

 

 ――ズドォォォォォォンッ!!

 

 大地が、悲鳴を上げるように大きく揺れた。

 鍼を伝わって、枢の体内に宿る「数万人の祈りの熱」が、冷え切った土壌へと一気に流れ込んでいく。

 

「……ぐ、……ぁ……あぁ!!」

 

 枢の口から、鮮血が漏れる。

 大地を流れる強大な冷気(虚)が、逆流して枢の肉体を凍りつかせようと襲いかかる。

 

 だが、枢は退かない。

 

 二本目の鍼を、地脈の分岐点である**『三陰交さんいんこう』**にあたる座標へと、自身の左手で自身の右腕を「槌」のように叩き、さらに深く打ち込んだ。

 

 ――ドクンッ!!

 

 止まっていた大地の鼓動が、一度、力強く跳ね上がった。

 

 枢の周囲、数メートルの地面から、氷のように冷たかった土が、生き物の体温のような熱を帯び、もうもうと白い蒸気を上げ始めたのだ。

 

「……最後……です。……。……起きて……ください、……母なる……地よ……!!」

 

 三本目。大地の「命の根源」である**『関元かんげん』**――いわゆる王都のヘソに位置する、最も深い龍穴へと、枢は自身の翡翠色に輝く右腕を、肩まで土に埋める勢いで突き刺した。

 

 ――カァァァァァァァァァッ!!

 

 王都全域の地面が、翡翠色の光の筋となって明滅した。

 

 枢を媒介にして、天と地、そして人々の意志が、一つの巨大な「循環サークル」として繋ぎ合わされたのだ。

 

 滞っていた地脈の血栓が、黄金の熱によって一気に吹き飛ばされる。

 

 ――シュルシュル、……パキパキ、……。

 

 信じられない光景が、農夫たちの瞳に映り込んだ。

 

 ひび割れていた地面から、瑞々しい緑の芽が、爆発的な勢いで一斉に顔を出したのだ。

 神の魔力による強制的な成長ではない。

 それは、大地自らが「生きたい」と願い、自らの栄養で、自らの呼吸で、力強く天へと手を伸ばす、本物の生命の躍動。

 

「……生えてる、……。……麦が、……本当に……芽吹いてるよ……!!」

 

 農夫たちが、泥にまみれながら、小さな芽を慈しむように撫でる。

 

 枢は、自身の左手で、自身の胸にある**『玉堂ぎょくどう』**を、自身の枯渇した生命力を繋ぎ止め、荒れ狂う大地の熱を鎮めるために、逆手に持った空の鍼筒で強く押さえた。

 

 彼の右腕は、泥と血に汚れ、土壌の過酷な熱で火傷を負っていた。

 それでも、枢の顔には、この上なく穏やかな満足感が漂っていた。

 

「……これで……明日も、……。……パンが……焼けますね、……ミナ……」

 

 第262話。

 聖鍼師・枢は、神という「点滴」を失った世界に対し、大地そのものに鍼を打つことで、人間と自然が自力で共生する「真の健康」を取り戻した。

 

 一面に広がる、瑞々しい緑の海。

 それは、神亡き後の荒野に、枢が最初に描いた「未来という名の処方箋」だった。

本日、土曜日正午の更新を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第四章の第23話(通算第262話)。

「技術」の次は「糧」。神が管理していた豊穣という名の記述が消え、飢餓という名の現実が襲いかかった王都。

それに対し、くるるが大地そのものの地脈ツボを突き、眠っていた生命力を再起動させる姿を描きました。

魔力によるフェイクの豊かさではなく、土が自ら呼吸し、根が水を求める「本来の自然」を取り戻す。これこそが、盲目の聖鍼師による「世界の外科手術」です。


今回、枢が死せる大地を蘇生させるために、自身の肉体を依代として駆使したツボの技術を解説します。

まず、自身の発声を整え、大地に届く「音の共鳴」を作る起点とした**『水突すいとつ』**。ここは喉にあるツボですが、枢はこれを「重低音の増幅器」として使い、自身の声を地中深くの地脈に共鳴させるためのアンカーとしました。


そして、数万人の人々の想いを大地の「気の血栓」へと叩き込むために用いた**『湧泉ゆうせん』。大地のツボとして扱ったここは、かつて枢自身が力を借りていた場所でもあります。今回は逆に、枢がここを通じて大地に「かつ」を入れることで、停滞していた情報の流れを強制的に再開させました。

最後に、大地という巨大な生命体の「丹田」にあたる部分を覚醒させるために打ち込んだ『関元かんげん』**。ここを翡翠の光で貫くことで、枢は大地が自力で「気」を生成する機能を再起動させ、魔力に依存しない真の豊穣を導き出したのでした。


次回の第263話(第四章 第24話)は、本日**【15:00】**に更新予定です。

.

大地を救い、飢えを凌いだ王都。

しかし、急激に回復した生命力に惹かれるように、今度は「目に見えない毒」が王都に充満し始めます。

それは、過剰な生命エネルギーが変質して生まれた、幻覚を伴う胞子病。

「……枢様、……死んだはずの……お母さんが……あそこに……立ってるの……!!」


15時、死者の幻、胞子の舞う街。

聖鍼師・枢、人々の「愛執」という名の病を治療します。どうぞお見逃しなく!

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