表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

260/271

第260話:無秩序の産声、次元の亀裂を縫う「万民の連鍼」

神の光が消えた空に、見たこともない「色のない星」が瞬き始めました。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第21話。

(※第四章・世界調律編、開幕)


王都の人々の祈りによって、灰の中から再誕したくるる

彼の手には、人々の絆が結晶化した「新たな翡翠の鍼」が握られていました。

しかし、安息の時間は一瞬でした。

神アルキメスという「世界の管理人」がいなくなったことで、この世界を「餌場」として狙っていた外域の存在――『虚無の蒐集者ヴォイド・コレクター』たちが、次元の裂け目からその触手を伸ばし始めたのです。


「……いい匂いだ。……管理人のいない、……新鮮な……因果の匂いがする……」


姿なき捕食者が、王都の民衆たちの「記憶」を、端から順に喰らい尽くしていきます。

救われたばかりの日常が、再び白紙へと戻されようとする絶望。

枢は、自身の右腕に宿った「数万人の鼓動」を、一気に解放します。


「……皆さん。……私の……運針リズムに合わせて……、……大きく……息を吸ってください。……ここからは、……全員で……世界を……治すのです」


8時、第四章・新展開。

世界規模の「集団往診」が始まります。どうぞ、最後までお読みください。

 神アルキメスという「絶対的な記述者」を失った世界は、自由を手に入れた代償として、あまりにも無防備な「空白」を晒していた。

 

 王都を包み込んでいた黄金の再誕の光が収束し、ようやく夜明けが訪れるはずだった。

 だが、東の空から昇ってきたのは、太陽ではなかった。

 それは、色彩を欠き、輪郭が絶えず揺らめく、巨大な「穴」のような異形の天体だった。

 

 ――グチャリ、……。

 

 不快な湿った音が、王都の静寂を塗り潰した。

 心眼の光を「人々の絆」として再定義したくるるの意識には、空から降り注ぐ「記述の塵」が、雪のように王都を覆い尽くしていく様が克明に映っていた。

 

「……枢様!! ……あの雲、……変だよ!! ……街の色が、……どんどん……消えていく……!!」

 

 ミナの悲鳴。

 彼女が指差した先では、昨日まで確かにそこにあった噴水が、彫像が、そして家々の壁が、まるでインクを零したように輪郭を崩し、灰色の霧となって空へと吸い上げられていた。

 

 それは、外域より飛来した捕食者『虚無の蒐集者ヴォイド・コレクター』による、概念の強奪。

 神という障壁がいなくなった世界を、彼らはただの「美味な情報エサ」として認識し、この世界の歴史も、感情も、地形さえも、その貪欲な胃袋へと流し込み始めていた。

 

「……皆さん、……。……怖がらないで……。……これは、……世界の……『産後のひだち』が……悪いだけです……」

 

 枢は、自身の左手で、自身の胸にある**『神蔵しんぞう』**を、自身の内に宿る数万人の祈りを、正しく「出力アウトプット」へと変換するために、指先で優しく弾いた。

 

 魔力ではない。翡翠の力でもない。

 彼が今、右腕に宿しているのは、先ほどまで彼を支えていた、王都の民衆一人ひとりの「生きたい」という意志そのもの。

 

 枢は、懐から一本の、今まで見たこともないほど透明な「水晶の鍼」を取り出した。

 

 それは、再誕の瞬間に、枢の涙と人々の祈りが結晶化して生まれた、真の聖鍼――『共鳴調律レゾナンス・チューニング』。

 

「……ゼクス様。……そして、……そこにいる……皆さん。……私の……足跡を……なぞってください」

 

 枢は、自身の左足を、自身の重心を王都の「地脈」と完全に同期させるために、地面にある**『大敦だいとん』**を、石畳の奥底にある土の鼓動を感じるまで深く踏み込んだ。

 

 彼は、王都の広場の中心に立ち、水晶の鍼を天へと掲げた。

 

「……私が……鍼を……打つ……その瞬間に、……皆さんの……『一番……大切な……記憶』を、……強く……思い浮かべて……ください」

 

 空を覆う灰色の霧が、枢の言葉を遮るように、巨大な「顎」となって広場へと急降下してきた。

 触れれば、記憶も肉体も、一瞬で「なかったこと」にされる死の霧。

 

 枢は、自身の左手で、自身の頭頂にある**『百会ひゃくえ』**を、自身の意識を王都全域の民衆一人ひとりと「無線(経絡)」で繋ぐための受信機として叩いた。

 

 ――キィィィィィィィィンッ!!

 

 枢の背後に、数万の「翡翠の糸」が展開された。

 その一本一本の先には、広場に跪く老婆、武器を捨てた騎士、震える子供――王都に住むすべての人間が繋がっていた。

 

「……行きますよ……。……聖鍼法、……万民連動・世界外科……『因果の編み直し(ワールド・リライト)』!!」

 

 枢が水晶の鍼を、空間そのものの「ツボ」へと叩き込んだ。

 

 ――カァァァァァァァァァッ!!

 

 数万人の「大切な記憶」が、枢の肉体を通じて一本の巨大な翡翠の杭となり、空から迫る灰色の霧を真っ向から貫いた。

 

 老婆が思い浮かべた、亡き夫の笑顔。

 少年が思い浮かべた、初めて食べた焼き菓子の味。

 ゼクスが思い浮かべた、初めて剣を握った時の誓い。

 

 それら「個」の強固な意志が、外域の捕食者が最も苦手とする、この世界独自の「意味」となって、虚無の霧を内側から焼き尽くしていく。

 

「……ギ、……ギギギ、……!! ……なんだ、……この……密度は……!? ……ただの……塵(人間)の……分際で、……世界の……記述を……保持……している……だと……!?」

 

 空にある「色のない星」が、苦悶の叫びを上げて歪んだ。

 

 枢は、自身の左手で、自身の腹部にある**『天枢てんすう』**を、自身の全身の力を、空を支えるための「柱」として固定するために強く押し込んだ。

 

 彼は、一人で戦っているのではなかった。

 

 数万人の民衆が、枢の背中に手を添え、自身の「命の灯火」を彼に分け与えていた。

 

 枢の右腕が、人々の想いに応えるように、かつてないほど激しく、美しく翡翠色に燃え上がる。

 

 彼は、水晶の鍼をさらに深く、空の「ツボ」へと押し込んだ。

 

「……神がいなくなっても、……私たちは……消えない。……なぜなら、……私たちの……痛みは、……私たち自身が……覚えているからです」

 

 枢の咆哮と共に、翡翠の光が王都全域に爆発的に広がった。

 

 空の「穴」が塞がれ、灰色の霧は朝露のように消え去った。

 消えかけていた家々が、人々が愛した形へと再構築され、王都には再び「色」と「意味」が戻っていった。

 

 第260話。

 聖鍼師・枢は、民衆と共に「世界そのもの」を外科手術し、外域の捕食者を退けた。

 

 だが、これは始まりに過ぎない。

 神という蓋が外れた世界。

 そこには、これまで隠されていた「未知の病」が、無数に潜んでいるのだから。

 

 枢は、水晶の鍼を静かに筒へ戻し、朝日が昇る王都の広場に、ゆっくりと腰を下ろした。

 

「……皆さん、……。……お疲れ様でした。……。……さあ、……朝ごはんの……用意を……しましょうか」

 

 その顔には、一人の鍼灸師としての、深く、優しい慈愛の微笑みが浮かんでいた。

本日も、土曜日・朝一番の更新を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第四章の第21話(通算第260話)。

神アルキメス亡き後の「世界調律編」、ついにその幕が上がりました。

絶対的な管理者が消え、自由を謳歌するはずだった王都。しかし、外域からの捕食者『虚無の蒐集者』の襲来により、人々の「存在の意味(記憶)」が奪われようとする絶望。

それに対し、くるるが取った手段は、一人の力ではなく「万民の意志」を束ねて空を縫うという、新たな往診の形でした。


今回、枢が数万人の記憶を「攻撃」ではなく「存在の固定」として使い、自身の極限状態を支えるために駆使したツボの技術を解説します。

まず、数万人の想いを自身の肉体で受け止め、心臓への過負荷を防ぐために突いた**『神蔵しんぞう』**。ここは心臓の気を保護し、精神を安定させるための要衝。枢はここを「変換器」にすることで、人々の感情を純粋なエネルギーへと昇華させました。


そして、王都の地脈そのものを自身の足場として固定し、次元の揺れに耐えるために踏みしめた**『大敦だいとん』。足の親指にあるこのツボは、肝経の起点であり、身体を支える「気」を大地と繋ぐ玄関口。枢はここを通じて、自身の肉体を王都そのものへと「杭」として打ち込んだのです。

最後に、数万人の意識を同時に統括し、自身の脳が焼き切れるのを防ぐために叩いた『百会ひゃくえ』**。頭頂のこのツボを物理的に刺激することで、枢は自身の精神を「広域ネットワークのサーバー」のように機能させ、全員の記憶を一本の「鍼」へと集約させることに成功したのでした。


次回の第261話(第四章 第22話)は、本日**【10:00】**に更新予定です。


外域の捕食者を退けたのも束の間、平和を取り戻したはずの王都に、奇妙な「病」が流行り始めます。

それは、身体のどこにも異常がないのに、自身の「職業」や「技術」だけを忘れてしまうという、技術忘却病。

「……枢様、……。パンの焼き方が……、わからないの……!!」


10時、記憶の目詰まり、消える日常。

聖鍼師・枢、失われた「手の記憶」を治療します。

土曜日、怒涛の6話更新。ここからが本当の戦いです。どうぞお見逃しなく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ