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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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255/271

第255話:白銀の虚飾、鎧の隙間に穿つ「真実の一鍼」

夜の帳が下りる頃。聖域の出口を塞ぐのは、かつてくるるが守り、そして彼を捨てた「王都の鉄則」でした。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第十六話。


聖域から生還した枢とミナを待ち受けていたのは、王都最強を誇る「白銀騎士団」。

かつて枢が、疫病から彼らの命を救った際、彼らは枢の右腕を「不吉な魔力」と呼び、彼を国から追放しました。


「……不浄の鍼灸師。……その右腕、……そしてその不吉な鍼を捨て……、……大人しく断頭台へ上がれ!!」


魔力も、翡翠の加護も、今の枢にはありません。

しかし、彼の手には、数万の骨と筋肉を触り続けてきた「指の記憶」があります。

騎士たちの重厚な鎧。その「合わせ目」という名のツボを、枢の銀鍼が音もなく貫きます。


「……騎士様。……あなたの正義という病、……私が……根こそぎ……治して差し上げましょう」


21時、本日最後の往診。

権力を穿つ「静かなる無双」。どうぞ、最後までお読みください。

 聖域の崩壊する震動が止み、代わりにくるるの鼓膜を震わせたのは、重厚な金属の擦れる音――数千の兵たちが整列する、統制された軍靴の響きだった。

 

 冷たい夜風が、枢の頬を撫でる。

 心眼の光を失った彼には、前方にある「光」が、王都の威信を象徴する白銀の鎧に反射した月光であることを、肌の感覚だけで理解していた。

 

「……止まれ、……不浄の者ども!! ……それ以上……一歩でも……王都の土を踏めば、……即座に……処刑の記述プロットを実行する!!」

 

 先頭に立つ男の声。

 枢は、その声を覚えていた。

 かつて、王都を襲った死の疫病『黒死の蔦』から、最前線で命を救ったはずの騎士団長・ゼクス。

 当時の彼は、枢の鍼によって一命を取り留めた際、涙を流して感謝した。

 だが、今の彼の声にあるのは、救われたことへの恩義ではなく、異端を排除しようとする冷徹な「正義」という名の狂気。

 

「……ゼクス様。……お久しぶりです。……お体の方は、……もう……よろしいのですか?」

 

 枢は、自身の左手で、自身の喉にある**『扶突ふとつ』**を、自身の震える声を抑え、威厳を保つために軽く圧迫した。

 

「……黙れ!! ……貴様のその右腕……、……翡翠の禍々しい光が消えたようだが、……もはや隠す力も残っていないようだな!! ……疫病を治したのは……神の加護であり、……貴様の不気味な技術ではない!!」

 

 ゼクスが長剣を抜き放ち、月明かりの下で銀色の弧を描いた。

 その背後に控える数百の白銀騎士たちが、一斉に盾を叩き、枢を威嚇する。

 

「……ミナ。……私の背中に……隠れていなさい」

 

 枢は、自身の左手で、自身の動かぬ右腕を「盾」のように身体の前に固定した。

 

「……でも、……枢様、……あいつらは……魔法を……!!」

 

「……大丈夫です。……彼らの鎧は、……あまりに……重すぎますから」

 

 枢は、自身の左足のつま先を、地面にある**『湧泉ゆうせん』**を刺激するように強く踏み込み、大地の微かな「震動」を読み取った。

 

 騎士たちの立ち位置、重心の傾き、鎧の接合部から漏れる、微かな呼気。

 枢の脳内には、目に見えない彼らの「骨格図」が、鮮明な青い線となって浮かび上がっていた。

 

 枢は、懐から三本の、ひび割れた銀の鍼を取り出した。

 

「……射よ!! ……この不浄を……一瞬で……塵にせよ!!」

 

 ゼクスの号令と共に、騎士団の後方から、魔力を付与された「破魔の矢」が、一斉に放たれた。

 空を埋め尽くす、光の雨。

 

 枢は、自身の左手で、自身の胸にある**『鳩尾きゅうび』**を、自身の心肺機能を一時的に極限まで高めるために、逆手に持った鍼の柄で強く突いた。

 

 ――カッ!!

 

 枢の体内の気が、全身の毛細血管を駆け巡り、彼の反射速度を「常人」の領域から、一瞬だけ「神速」へと引き上げる。

 

 彼は、飛来する数百の矢の「風切り音」を聞き分け、その軌道を点として捉えた。

 

 枢は、動かなかった。

 

 矢が肉体に突き刺さる、その直前。

 彼は、自身の右腕――感覚を失った「重り」を、自身の左手で勢いよく振り回した。

 

 ――ガガガガガガッ!!

 

 枢の右腕が、魔力の矢をすべて弾き飛ばした。

 右腕に封印された翡翠の力が、無意識のうちに、外界からの攻撃を「不純物」として拒絶したのだ。

 

「……何ッ!? ……魔力の矢を、……腕一本で……弾き返しただと!?」

 

「……いいえ。……弾いたのは、……私ではありません。……あなたの放った……悪意が、……この腕に……嫌われただけです」

 

 枢は、自身の左足を一歩、踏み出した。

 

 彼は、逃げ惑う騎士たちの波を割り、真っ直ぐにゼクスの懐へと歩み寄る。

 

「……来るな!! ……来るなァァ!!」

 

 ゼクスが狂ったように剣を振り下ろす。

 

 枢は、自身の左手で、ゼクスの剣の平を、自身の指先にある**『少沢しょうたく』**という、熱を逃がす急所を使って、優しく撫でるように受け流した。

 

 ――キィィィィィィンッ!!

 

 王都の名工が鍛えた名剣が、枢の指先が触れた瞬間、中心から真っ二つに折れ、雪のように地面に散った。

 

「……あ、……ぁ……あ……」

 

「……ゼクス様。……あなたは、……重すぎる鎧を……着すぎた。……そのせいで、……心臓の経絡が……圧迫されています」

 

 枢は、自身の左指に挟んでいた銀の鍼を、ゼクスの胸当ての「継ぎ目」――心臓の真上にある**『膻中だんちゅう』**へと、吸い込まれるように差し込んだ。

 

 物理的な鎧を貫いたのではない。

 枢の鍼は、鎧の微かな「隙間」を縫い、その奥にある、ゼクスの「凝り固まった正義」という名の病根を、直接貫いたのだ。

 

「……ぐ、……あ……、……なんだ、……身体が……軽い……!?」

 

 ゼクスの瞳から、血走った狂気が消え、代わりに大量の涙が溢れ出した。

 

 枢は、さらに二本の鍼を、ゼクスの両肩にある**『肩井けんせい』**へと同時に打ち込んだ。

 

 ――ドサッ!!

 

 王都最強の騎士団長が、その場に膝を突いた。

 枢は、彼を殺したのではない。

 彼を縛っていた「権力への執着」と「恐怖」という名の病を、一瞬にして解体したのだ。

 

「……皆、……武器を……捨てろ……。……私たちは、……この男に……何をしている……!!」

 

 ゼクスの号令に、騎士たちが困惑しながらも剣を下ろす。

 

 枢は、自身の左手で、自身の腹部にある**『気海きかい』**を、自身の底を尽きかけた気力を、最後の一滴まで絞り出すために強く押さえた。

 

 第255話。

 魔力を持たぬ聖鍼師は、暴力ではなく「治療」によって、王都の軍勢を沈黙させた。

 

 彼は、泣き崩れるゼクスの横を通り過ぎ、再びミナの手を引いて、王都へと続く街道を歩き出す。

 

「……本当の……戦いは、……王都の門を……潜ってから……。……行きましょう、……ミナ」

 

 月光が、彼の細い背中を照らし出す。

 そこには、神さえも記述しえなかった、ただ一人の男の「意志」が、翡翠よりも眩しく輝いていた。

本日も、一日の締めくくりの更新を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第四章の第十六話。

王都騎士団との対峙。かつて自身を追放した相手に対し、くるるは憎しみではなく「治療」で応えました。

魔力がないからこそ、相手の鎧の隙間、精神の隙間を的確に穿つ。

これこそが、盲目の聖鍼師が到達した「無双」の新たな形です。


今回、枢が強大な軍勢を前に、自身の身体能力を一時的に限界突破させるために駆使したツボの技術をご紹介します。

まず、相手の威圧感に飲まれず、自身の声を静めるために突いた**『扶突ふとつ』**。ここは喉の腫れや痛みを取る場所ですが、枢はこれを「自己への暗示」として使い、心拍を一定に保つためのアンカーとしました。


そして、魔力の矢を視覚なしで捌くため、自身の全神経を瞬発力へと転換させるために突いた**『鳩尾きゅうび』。みぞおちにあるこの急所は、刺激の与え方次第で全身の「気」を爆発的に循環させることができます。枢はこれを「禁忌の加速器」として使用しました。

最後に、騎士団長ゼクスの狂気を解体するために打ち込んだ『膻中だんちゅう』**。ここは「気会」と呼ばれ、精神的なストレスや焦燥感が集まる場所。ここを正確に穿つことで、枢は彼を操っていた負の因果を排出し、本来の人間性を取り戻させたのです。


次回の第256話は、明日金曜日**【08:00】**に更新予定です。


王都へと帰還した枢。

しかし、彼を待ち受けていたのは、かつて枢が疫病から救ったはずの「民衆」たちの、冷たい石つぶてと罵声でした。

「……魔女を連れた……不吉な鍼師が……帰ってきたぞ!! ……追い出せ!! ……殺せ!!」


金曜日の朝、悲劇の帰還。

救った者たちからの裏切りに、枢の銀鍼は何を映すのか。どうぞお見逃しなく!

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