第25話:不穏な帰還と、乾いた咳
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深海から戻った二人が目にしたのは、死の静寂に包まれた王都。
街中に響く「紫色の煙」を吐き出す奇妙な咳……。
聖鍼師・枢、今度は見えない「流行り病」の正体に挑みます。
1日4本投稿、新章パンデミック編、開幕です!
深海の宮殿を後にした枢とセレスティアラ王女が王都へ降り立った時、最初に感じたのは、刺すような「喉の違和感」だった。
普段なら王宮へ帰還する二人を温かく迎えるはずの民衆の姿が、極端に少ない。広場には活気がなく、露店も半分以上がシャッターを下ろしている。
「……何か変ですわ。まだ昼下がりだというのに、どうしてこんなに静かなのかしら」
王女が不安げに周囲を見渡す。その時、路地裏から聞こえてきたのは、肺を削り取るような、酷く乾いた咳の音だった。
「ゴホッ、ガハッ……! ゲホッ!」
その音を聞いた瞬間、枢の目は「隠居人」から「医家」のそれに変わった。
「王女様、鼻と口を布で覆いなさい。……今の咳は、ただの風邪ではありません」
枢は足早に、倒れ込んでいる市民の元へと駆け寄った。
倒れていたのは、顔を土色にした中年の男だった。呼吸が浅く、首筋の血管が異様に浮き出ている。
枢は翡翠眼を解放した。男の肺周辺を透視すると、そこには見たこともない「紫色の微細な粒子」が、肺胞にびっしりとこびりついているのが見えた。
「これは……!? 肺の気が完全に遮断されている。東洋医学でいう『肺気虚』の急性閉塞……いや、それ以上の何かだ。気道が魔力的な煤で焼き潰されている」
枢は即座に往診バッグから一本の鍼を取り出し、男の腕にある『尺沢』に深く刺し込んだ。
「……っ、ハァッ!!」
男が大きく息を吐き出す。その口から漏れたのは、紫色の、焦げたような匂いのする煙だった。
「な、何だ今の煙は!? 枢様、この方は……!」
「一時的に気道を通しました。……ですが、これは氷山の一角でしょう。王女様、街の様子をよく見てください」
枢が指し示した先。窓を閉め切った家々から、そして王宮の衛兵たちのマスクの下から、同じような「乾いた咳」が連鎖するように響き始めた。
「流行り病……パンデミックです。それも、自然発生したものではない。王都の『空気』そのものが、誰かの手によって毒されている」
枢の言葉を裏付けるように、王宮の塔から非常事態を告げる鐘が鳴り響いた。
聖鍼師の真の戦いは、魔王や人魚といった「個」ではなく、王都という「巨大な生命体」を救うための防疫戦へと突入しようとしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ついに王都全体を巻き込む大事件が勃発しました。
今回、枢が突いた『尺沢』は、実際に喘息や咳の治療に欠かせない、肺の熱を取るツボです。
「街全体が病気なんて、どうやって治すの!?」
「枢先生のウイルスハンターっぷりが楽しみ!」
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次回、第26話は今日**【18:00】**に更新予定。
枢の治療院が、臨時の隔離病棟に……!?




