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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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第246話:因果の天秤、神域を穿つ「翡翠の絶技」

本日も、夕方の更新をお読みいただき、誠にありがとうございます。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第七話。


愛弟子・ミナの聖なる光をその身に受け、彼女を傷つけることなく眠らせたくるる

しかし、運命は休息を許しません。

夕闇が迫る街道の果て、時空そのものが歪むような「不自然な静寂」が彼を包み込みます。


「……ほう、……我が愛娘の魔法を……指一本で払うか。……貴殿、……『名前』がないわりには……良い腕をしている」


現れたのは、漆黒の法衣を纏い、因果を測る天秤を掲げた男。

少年の「パパ」が差し向けた、世界の記述を監視する『裁定者・ゴルゴス』。

彼は、枢の存在そのものを「世界のバグ」として、その根源から消去しようと迫ります。


「……無駄な抵抗はやめなさい。……貴殿は、……この物語には……記述されていない存在だ」


「……記述されていないからこそ、……私は……自由に書き換えられるのですよ」


翡翠の鍼が、偽りの理を切り裂く。

聖鍼師・枢、覚悟の「神域制圧」が始まります。

どうぞ、最後までお楽しみください。

 夕闇が、血のように赤い残光を連れて街道を呑み込んでいく。

 くるるの心眼は、前方の空間が「座標」を失い、飴細工のようにグニャリと捻じ曲がっているのを鮮明に捉えていた。

 

 そこには、生物が放つはずの拍動がない。

 あるのは、冷徹な機械仕掛けのような、規則正しくも不快な因果の「刻み音」だけだ。

 世界という巨大な歯車が、異物である「枢」を噛み潰そうと、そのあぎとを開いている。

 

「……出てきなさい。……私の……『物語』を邪魔する……影の方」

 

 枢が竹杖を止めた。

 その瞬間、空間が鏡のようにひび割れ、そこから一人の男が静かに降り立つ。

 漆黒の法衣を纏い、手には黄金の天秤。

 裁定者・ゴルゴス。

 彼は、アルキメスの深淵が生み出した「世界の修正プログラム」そのものだった。

 

「……フム。……視覚を失いながら、……我が領域を看破するか。……だが、……名もなき旅人よ。……貴殿の右腕に宿る力は、……この世界の許容範囲を……完全に超えている」

 

 ゴルゴスが、その不気味な天秤を高く掲げた。

 

 ――ガシャンッ!!

 

 凄まじい重圧が、枢の頭上から降り注いだ。

 周囲の空気は液体のように重くなり、街道の石畳は耐えきれずにクモの巣状の亀裂を走らせる。

 並の戦士であれば、内臓を押し潰され、一瞬で肉の塊へと変えられていただろう。

 

 だが、枢の膝は、一ミリも揺るがなかった。

 

 彼は、自身の左手で、自身の腰にある**『大腸兪だいちょうゆ』**を、自身の指先で電光石火の如く弾いた。

 体内の気を一気に下半身へと沈め、地の因果と直結させる。

 上空から降り注ぐ絶望的な重圧を、自身の肉体を導線として、そのまま大地へと逃がす「因果の接地アース」の神業。

 

「……重力の操作、……ですか。……残念ながら、……私の肉体は……すでに……物理の鎖を……引き千切っています」

 

「……減らず口を。……ならば、……存在そのものを……ゼロに帰してくれよう!!」

 

 ゴルゴスが天秤の皿を激しく叩く。

 枢の足元から、無数の「黒い文字」が溢れ出し、蛇のように足首へと絡みついた。

 それは、枢の存在を「虚偽」として定義し、この世界から消去するための消去コード(呪詛)。

 

 枢は、自身の右腕にある『翡翠の芽』を、内側から静かに爆発させた。

 

「……翡翠よ、……偽りの理を……真実いのちへと……書き換えなさい」

 

 枢が右手を、ゆったりとした円を描くように一閃させる。

 

 彼に絡みついていた呪いの文字が、枢の放つ翡翠の光に触れた瞬間、鮮やかな「翠色の蝶」へと姿を変え、夕闇の空へと舞い上がった。

 破壊ではない。

 「死の命令」を「生の記述」へと、その場で翻訳コンパイルし直したのだ。

 これこそが、忘却の果てに手にした、聖鍼師・枢の新たな「無双」の形。


「……な、……なんだと……!? ……我の裁定を……『上書き』したというのか……!?」

 

「……あなたの……『因果の目詰まり』は、……あまりに深く……そして冷たい……」

 

 枢が、一歩、踏み出す。

 その歩みは、まるで水面を歩くかのように音もなく、優雅ですらあった。

 

 ゴルゴスは恐怖に顔を歪め、天秤の皿から無数の「漆黒の刃」を放った。

 空間そのものを切り刻む、全方位からの不可避の連撃。

 

 枢は、自身の右手に挟んだ三本の「翡翠の鍼」を、同時に投擲した。

 

 ――チチチッ、……パァァァァンッ!!

 

 翡翠の鍼は、飛来する漆黒の刃を一撃ごとに「解体」し、そのままゴルゴスの急所へと殺到した。

 ゴルゴスが防御障壁を張るより早く、一本の鍼が、彼の喉元にある**『天突てんとつ』**に、深々と突き刺さる。

 

「……ぐ、……あ、……ぁ……!! ……声が、……命令が……通らぬ……!!」

 

 枢の攻勢は、止まらない。

 

 彼は、残りの二本の鍼を、ゴルゴスの両肩にある**『肩井けんせい』**へと刺入した。

 

 枢の指先が、鍼の尾を軽く弾く。

 その振動が、ゴルゴスの肉体を支えていた「歪んだ誇り」という名の因果の澱みを、物理的に引き摺り出した。

 

「……墜ちなさい。……あなたが……裁くべきは、……他者ではなく、……自身の……傲慢さです」

 

 枢が、静かに指を鳴らした。

 

 ――ドォォォォォォンッ!!

 

 ゴルゴスの肉体から、眩いばかりの翠色の光柱が天を突いた。

 彼の中にあった「修正プログラム」としての偽りの生命が、枢の鍼によって正しく解体され、本来の静寂へと還っていく。

 

 漆黒の法衣が霧散し、後に残されたのは、ただのひび割れた古い黄金の天秤だけだった。

 

 圧倒的な蹂躙。

 世界のルールを自称した裁定者は、自身が枢という「真理」に書き換えられ、消滅した。

 

 枢は、自身の左手で、自身の胸にある**『中府ちゅうふ』**を、自身の激しい動悸を抑えるために強く突いた。

 翡翠の力を使えば使うほど、彼の存在は世界から「透明」になっていく。

 だが、その指先に、迷いも後悔もなかった。


 夕闇の街道。

 独り残された枢は、拾い上げた天秤を見つめることなく、再び北へと歩き出した。

 

 第246話。

 忘却の聖者は、もはや神の裁きさえも「上書き」する、孤独な絶対者へと至ろうとしていた。

本日も、夕方の更新を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第四章の第七話。

裁定者・ゴルゴスとの、世界の記述を懸けた真剣勝負。

翡翠の力を得た枢は、もはや「治療」という枠を飛び越え、世界の法則プログラムそのものを書き換える「再記述リライト」の領域へと達しました。

敵を倒すのではなく、その存在理由を上書きし、正しい静寂へと導く。

この圧倒的な「神の領域」の無双、楽しんでいただけていれば幸いです。


さて、今回枢が自身の体や敵に施した鍼ですが、実はどれも深い意味があります。

まず、ゴルゴスの重圧に耐えるために枢が自身の腰で弾いた**『大腸兪だいちょうゆ』**。本来は腰痛や便秘の特効薬のようなツボですが、枢はここを「気の接地」として使い、重力を大地へ逃がしました。


また、敵の喉を射抜いた**『天突てんとつ』。ここは気管支の不調を整えるツボですが、枢はここを封じることで、敵の「言葉による命令」を物理的に断ち切ったのです。

さらに両肩の『肩井けんせい』。肩こりの名穴ですが、枢はここに翡翠の鍼を打つことで、ゴルゴスの「力み(傲慢)」を根こそぎ抜き去り、その存在を崩壊させました。

最後に枢が自分自身の胸に手を当てた『中府ちゅうふ』**。これは肺の気を整える場所で、激戦で乱れた呼吸と因果の揺らぎを鎮めるために欠かせない一鍼でした。


次回の第247話は、本日**【21:00】**に更新予定です。


街道の先で、枢はついに「棄てられた聖域」の本体へと足を踏み入れます。

そこで彼を待っていたのは、かつての自分自身の「幻影」。

「……お前、……自分の名前を……捨ててまで、……誰を救うつもりだ?」


21時、本日最後の更新。

自分自身との対峙。物語は第四章の核心へと突き進みます。どうぞお見逃しなく!

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