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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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244/271

第244話:再会の検問、魂が震える「偽りの初対面」

おはようございます。本日も朝の更新をお読みいただき、ありがとうございます。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第五話。


夜の森で「業の器」を塵に帰したくるるは、夜明けと共に、かつて共に戦った戦士たちの休息地へと辿り着きます。

しかし、そこに待っていたのは、温かな再会ではありませんでした。


「……おい、止まれ。……見ねえ顔だな。……この先は、俺たちが預かってる」


聞き慣れた、野太くも信頼に満ちた声。

だが、その声の主であるカザンの瞳には、枢との旅路の記憶は一片も残っていませんでした。

親友を「不審者」として検問するカザン。

そして、彼が抱える「癒えぬ傷」に気づいてしまう枢。


「……初めまして。……旅の、……鍼灸師です」


偽りの自己紹介から始まる、二人の「二度目の出会い」。

魂に刻まれた絆は、忘却の呪いを超えることができるのか。

どうぞ、最後までお楽しみください。

 朝靄あさもやが立ち込める街道の分岐点。

 くるるは、自身の竹杖を一定のリズムで地面に突き、冷え切った空気を切り裂きながら歩いていた。

 

 心眼が、前方に巨大な「熱源」を捉える。

 それは太陽のような、荒々しくも真っ直ぐな闘気。

 枢の胸が、締め付けられるように鳴った。

 

「……止まれってんだよ。……聞こえなかったか、……坊主」

 

 霧の向こうから現れたのは、身の丈を超える大剣を背負った、赤髪の巨漢。

 カザンだった。

 

 かつて、共に王都の闇を駆け、背中を預け合い、「相棒」と呼び合った男。

 だが、今のカザンの瞳に宿っているのは、見知らぬ盲目の旅人に対する、戦士としての「警戒」だけだ。

 

「……あ、……ぁ……」

 

 枢の喉が、熱く焼ける。

 今すぐに「カザン!」と叫び、その逞しい腕に縋り付きたい衝動を、彼は自身の左手で、自身の喉にある**『水突すいとつ』**を強く圧迫することで、無理やり押し留めた。

 

「……申し訳……ありません。……霧が深く、……お声に気づくのが……遅れました」

 

「……ふん、……盲目か。……だが、……その右腕。……ただの旅人にしては、……随分と重い因果を背負ってやがるな」

 

 カザンの直感は、相変わらず鋭かった。

 彼は大剣の柄に手をかけ、枢の右腕――衣服の下で翡翠の光を秘めたその腕を、鋭く睨みつける。

 

「……名を名乗れ。……それから、……その腕を見せろ。……最近、……正体不明の『不純物』が……この辺りに出るって噂でな」

 

 枢は、自身の左指を、自身の額にある**『印堂いんどう』**に添え、溢れ出しそうな涙を因果の気で抑え込んだ。

 

「……名前など、……ありません。……私は、……ただの……流れの鍼灸師です。……腕には、……古い……『火傷』があるだけでして」

 

「……鍼灸師だぁ? ……けっ、……景気のいい話じゃねえな」

 

 カザンは鼻を鳴らし、剣から手を離した。

 だが、彼が歩き出そうとした瞬間、枢の耳が、カザンの肉体から発せられる「不快な不協和音」を捉えた。

 

 ――ギィィ……。

 

 カザンの左膝。

 かつての決戦で負った傷が、忘却の呪いによる「歴史の修正」によって、不自然な形で癒着している。

 枢がいれば一瞬で完治させていたはずのその傷が、今は彼の肉体を、内側から蝕んでいた。

 

「……カザン……さん。……失礼ですが、……その左膝。……相当に、……お辛いのでは?」

 

 カザンの足が止まった。

 彼は驚いたように振り返り、自身の左膝を無意識に摩る。

 

「……あんた、……目が見えねえってのに、……よく分かったな。……ああ、……王都の戦い以来……どうも調子が良くねえんだ。……軍の医者共には、……『骨がズレてる』だの……『気のせいだ』だの言われてるがよ……」

 

 枢の胸が、激しく痛んだ。

 自分がいた記憶が消えたことで、彼が施した「完全な治療」までもが、中途半端な「応急処置」へと書き換えられているのだ。

 

「……よろしければ、……私が……診させていただきます。……これも、……何かの……縁ですから」

 

「……へっ、……縁、……か。……変な野郎だ。……まあいい、……やってみな。……代金は、……この先の村で……美味い酒でも奢ってやる」

 

 カザンが、道端の切り株にどっかと腰を下ろした。

 

 枢は、自身の左手で、カザンの膝にある**『陽陵泉ようりょうせん』**を、自身の指先で優しく探った。

 

 触れた瞬間。

 カザンの記憶にはない「枢」の指先の温もりに、彼の肉体が、一瞬だけビクリと震えた。

 

「……おい、……なんだ。……あんたの指が触れた途端、……妙に……懐かしい感覚がしやがった……」

 

「……気のせい……ですよ。……私は、……初めてお会いした……はずですから」

 

 枢は、自身の右腕にある『翡翠の芽』を微かに脈動させた。

 

 彼は、翡翠の長鍼を一本取り出し、カザンの膝の奥深く――因果の目詰まりが生じている**『足三里あしさんり』**の深部へと、音もなく滑り込ませた。

 

 ――スゥッ……!!

 

 翡翠の光が、カザンの肉体を内側から照らし出す。

 枢は、自身の気を使って、カザンの膝に残る「歪んだ歴史」を、本来の「健やかな記述」へと書き換えていく。

 

「……あ、……あぁッ!? ……なんだ、……これ。……熱い……!! ……だが、……嫌な熱じゃねえ……!!」

 

 カザンの目が見開かれる。

 重く引き摺っていた膝の痛みが、霧が晴れるように消え去っていく。

 

 枢は、自身の左手で、自身の胸にある**『神蔵しんぞう』**を、自身の存在がまた一文字消えていく苦痛に耐えながら突いた。

 

「……はい、……終わりました。……これで、……走ることも、……大剣を振るうことも……自在なはずです」

 

 カザンが立ち上がり、その場で力強く足踏みをした。

 そして、驚愕したように、自身の脚を見つめた。

 

「……信じられねえ。……羽が生えたみたいだ……!! ……おい、……あんた!! ……あんた、……本当は……何者なんだ!?」

 

 カザンが、枢の肩を掴もうと手を伸ばす。

 

 だが、その瞬間。

 枢の指先に触れていたカザンの記憶から、今この瞬間の「驚き」さえも、忘却の奔流が奪い去ろうとする。

 

「……ただの、……鍼灸師です。……さあ、……先をお急ぎください。……仲間の方が……お待ちでしょう?」

 

「……ああ、……そうだったな。……ミナの奴に、……『遅い』って怒鳴られるところだった。……恩に着るぜ、……名もなき先生せんせい!!」

 

 カザンは、満面の笑みで親指を立て、街道の先へと駆け出していった。

 

 枢は、カザンの後ろ姿が霧に消えるまで、その場に立ち尽くしていた。

 

 彼には聞こえていた。

 遠くでカザンが、「……あれ、……俺、……さっき……誰と話してたんだっけか?」と、不思議そうに独り言を漏らす声を。

 

 第244話。

 相棒との再会は、一時の治療と、永劫の忘却を刻んだ。

 

 枢は、自身の左手で、翡翠の残光が消えゆく右腕を抱きしめた。

 

「……いいのです。……あなたの膝が……治ったのなら、……それで……」

 

 朝の光が、独り残された聖鍼師の影を、長く、孤独に引き伸ばしていた。

本日も、朝の更新を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第四章の第五話。

かつての相棒・カザンとの切なすぎる再会。

枢が施した治療さえも、世界はその記憶を奪い去ります。

しかし、カザンの膝が完治したという「事実」だけは、記述として世界に刻まれました。


自分のことを忘れられても、相手の苦しみを取り除く。

聖鍼師・くるるの真骨頂であり、最も孤独な戦いが描かれました。


次回の第245話は、本日**【12:00】**に更新予定です。


街道を進む枢の前に現れたのは、カザンが話していた「ミナ」。

しかし、聖女としての力を増した彼女は、枢の放つ「翡翠の気」を、不浄な異形のものと断定し、全力の神聖魔法を叩き込みます。

「……穢れた因果を纏う者よ。……この光で、……消え去りなさい!!」


12時、かつての慈愛の少女による、容赦なき「聖裁」。

物語はさらに過酷な展開へ。どうぞお見逃しなく!

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