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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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239/271

第239話:星降る大広場、漆黒の右腕が放つ「銀河の往診」

本日も、深夜までお付き合いいただき、心より感謝申し上げます。


ついに土日ブースト2日目、最終回となる21:00。

物語は、漆黒の闇に沈んだ王都・聖アルカディアの「最期の審判」へと至ります。


地下迷宮から生還したくるるたちを待っていたのは、エネルギーを失い、恐怖で狂奔する群衆でした。

新政府の権威は失墜し、人々は互いに傷つけ合い、積み上げてきた偽りの平和を自らの手で壊し始めていました。


「……聴こえますか、……この街の、……悲鳴が」


盲目の聖鍼師が、血を吐きながらも笑いました。

その右腕は、もはや人間の形を留めず、銀河のように渦巻く因果の塊と化しています。

街全体の病を、一人の男が引き受ける。

究極の「自己犠牲」と「新生」の記録。


第239話、王都編クライマックス。

「……これが、……私の……最後の……鍼です」

どうぞ、魂の震える結末を、その目で見届けてください。

 王都・聖アルカディアの中央広場。

 かつてアルキメスの栄光を讃えた巨大な女神像は、倒壊し、瓦礫の山と化していた。

 

 明かりを失った街は、深い闇に包まれている。

 その闇を照らしているのは、暴徒たちが掲げる松明の炎と、互いを憎み、略奪し合う人々の「欲望」が発する、濁った気だけだった。

 

「……殺せッ!! ……新政府の奴らを……引きずり出せ!! ……俺たちの……生活を……返せ!!」

 怒号。悲鳴。

 平和という皮を剥がされた王都は、剥き出しの「病」そのものだった。


 くるるは、カザンの肩を借り、広場の中央へと一歩ずつ進み出た。

 彼の翡翠眼には、依然として光はない。

 だが、彼の心眼には、王都全体を網の目のように覆う、千切れた「経絡の糸」が、鮮明に見えていた。


「……枢先生、……もういいですよ。……もう、……十分に……戦いました」

 ミナが、枢のボロボロの服を掴み、泣きながら縋った。

 枢の体は、先ほどカイルを解放した代償で、内側からボロボロに崩れ始めていた。

 右腕からは漆黒の因果が溢れ出し、左半身は極度の冷気で白く凍りついている。


「……ミナさん。……私は、……まだ……終わっていません」

 枢が、穏やかに微笑んだ。

 

 彼は、震える左手で、自身の胸の正中線上にある**『紫宮しきゅう』**を突いた。

 天の星々が集まる場所。

 自身の精神を宇宙の理へと繋ぎ、個体としての限界を突破するための禁忌のツボ。


「……皆さん、……静かに。……私の声を、……聴いてください」


 枢の声は、喧騒の中に埋もれるはずの、か細いものだった。

 しかし、その声は広場にいた数万人の耳に、直接、水が染み込むように響き渡った。

 枢が自身の喉にある**『廉泉れんせん』**に気を込め、言霊ことだまに因果を乗せたからだ。


 ピタリ、と暴動が止まった。

 人々は、広場の中央に立つ、一人の盲目の男を凝視した。

 右腕を真っ黒に変色させ、血に染まった聖鍼師。


「……この街は、……病んでいます。……それは、……エネルギーを失ったからではありません。……皆さんが、……自分たちの痛みを、……誰かのカイルという……偽りの処方箋で……誤魔化してきたからです」


 枢の声に、群衆の中から石が投げられた。

 

「……うるせえッ!! ……お前に何が分かる!! ……俺たちは……生きていかなきゃ……ならないんだ!!」


 石が枢の額を割り、鮮血が流れる。

 だが、枢は一歩も引かなかった。

 

「……分かります。……私の中には、……あなたがたが捨てた……数万の怨嗟が、……今も息づいていますから。……見てください。……これが、……あなたたちが『見たくない』と願った……物語の結末です」


 枢が、漆黒の右腕を天へと高く掲げた。

 

 ――ズォォォォォォォォンッ!!!!!


 枢の右腕から、封じ込められていた万人の怨嗟、アザレアの村の絶望、そして少年の虚無が、巨大な黒い柱となって夜空へと突き抜けた。

 

 (……あはは、……おじさん。……ついに……やるんだね。……世界を……真っ黒に……塗り潰しちゃうんだね)

 少年の声が、枢の脳内で狂喜に満ちて響く。


「……いいえ、……少年。……私は、……この闇を……『鍼』に変えます」


 枢は、自身の左手で、自身の右肩にある**『肩井けんせい』**を、自身の骨が砕けるほどの力で叩き込んだ。

 溢れ出す全てのエネルギーを、一点へと凝縮させるための「きわみ」。


 枢の掲げた黒い柱が、一点に収束し、王都の空を覆う「漆黒の銀河」へと変貌した。

 そして、その銀河の中心から、一本の、あまりに巨大な「光り輝く透明な鍼」が姿を現した。


 それは枢の命そのもの。

 聖鍼師の物語を、自らの血で書き換えた、究極の再記述リライト


「……万人の痛みを、……今……私が……引き受けます。……せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 枢が、その透明な鍼を、自身の心臓――**『膻中だんちゅう』**へと突き刺した。

 

 自分自身を、王都全体の「病」を吸い取る、巨大なアース(接地)へと変えたのだ。


 一瞬、王都全体が、真っ白な光に包まれた。

 

 人々が抱えていた怒り、憎しみ、後悔、そして肉体的な病。

 それらすべてが、枢という一つの器を目指して、光の帯となって吸い込まれていく。

 

「……が、……は、……ぁ、……ああああああああああああああッ!!!」

 枢の全身の穴という穴から血が吹き出し、彼の右腕が、万人の怨嗟を吸収して限界まで膨張し、そして――。

 

 ――パリンッ。


 ガラスが割れるような、澄んだ音が響いた。

 

 枢の右腕が、粉々に砕け散った。

 中から現れたのは、元の、細く白い、一人の人間の腕だった。

 

 そして、王都の空からは、黒い雪のようなものが降り注いだ。

 それは、枢によって浄化された「因果の塵」。

 人々の心から刺が抜け、広場には、ただ、静かな涙を流す市民たちの姿だけが残された。


「……枢先生……」

 シエラが、崩れ落ちた枢の元へ駆け寄る。


 枢は、力なく地面に横たわっていた。

 右腕は元に戻ったが、彼の翡翠眼は依然として閉じられたまま。

 

 枢は、自身の左指を、隣にいるカザンの手に重ねた。

 

「……カザン、……見えますか。……空に、……星が……戻りましたよ」


 雲が晴れ、王都の空には、アルキメスの偽りの光ではない、本物の、遠い星々の瞬きが広がっていた。

 

 枢の意識が、ゆっくりと遠のいていく。

 

 第239話。

 王都・聖アルカディアは、一人の鍼灸師の「命の往診」によって、その根底から救われた。

 

 だが、代償はあまりにも大きかった。

 

 意識を失った枢の隣で、むくろが自身の義手を静かに降ろした。

 「……バカな野郎だ。……世界を救って、……自分は……『名前』を失っちまうなんてな」


 枢の肉体から、彼を「枢」として定義していた因果の文字が、一文字ずつ消えていく。

 神に背き、万人の痛みを背負った代償。

 彼は、この世界の歴史から「存在しなかった者」として抹消されようとしていた。


 暗闇の中、一人の少年の笑い声だけが、静かに響いていた。

本日も、土日ブースト初日・2日目を通じた全12回の更新をお読みいただき、本当にありがとうございました。


王都編、完結。

枢が自らの存在を賭して行った「広域往診」は、王都の人々を救いましたが、同時に彼自身の「存在」を世界から消し去るという、あまりに過酷な結末を招きました。


視覚を失い、さらに存在そのものが希薄になっていく枢。

カザン、ミナ、シエラたちは、彼のことを覚えていられるのでしょうか。

そして、砕け散った右腕の代わりに、枢の魂に刻まれた「新たな力」とは。


土日ブーストはこれにて一旦の幕引きとなります。

次回の第240話からは、いよいよ新章「忘却の巡礼編」がスタートします。


誰からも忘れられた聖鍼師が、自身の名前を取り戻すために歩む、新たな旅路。

次回の更新も、どうぞご期待ください。


二日間、熱いご声援をいただき、本当にありがとうございました!

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