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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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236/271

第236話:再会の城門、正義という名の「偽りの処方箋」

本日、3回目の更新をお読みいただき、誠にありがとうございます。


土日ブースト2日目、運命の正午。

ついに王都の城門へと辿り着いたくるるたち。

しかし、彼らの前に立ちはだかったのは、かつて共に戦い、王都の動乱を生き抜いた誇り高き女騎士――シエラでした。


「……止まれ。……それ以上進めば、……私は……あなたを……斬らねばならない」


かつての慈愛に満ちた声は消え、そこにあるのは「法の番人」としての冷徹な響き。

しかし、視覚を失い、心眼を開いた枢には聞こえていました。

彼女の鎧の奥で、激しく、悲鳴を上げるように打ち鳴らされる「後悔の鼓動」が。


「……シエラさん。……あなたは、……今……笑っていますか?」


旧友との悲しき再会。

光を失った翡翠眼が、王都の「正義」という名の病を暴き出します。

本日最大級のボリュームで描く、魂の再会劇。

どうぞ、最後までお楽しみください。

 王都、聖アルカディア。

 かつてアルキメスが「神の都」として築き上げ、今は新政府が「人間の法」を敷こうと足掻いている、この物語の中心地。

 その巨大な白亜の城門が、霧の向こうから、巨大な墓標のようにそびえ立っていた。


 くるるは、一歩ずつ、重い足取りで石畳を踏みしめていた。

 視覚を失った彼にとって、王都は「音の奔流」だった。

 城壁の上で忙しなく動く兵士たちの足音、市場から漏れ出す活気のないざわめき、そして、街全体を覆う、何かが腐敗していくような「停滞した気の淀み」。


「……止まれッ!! これより先は、……新政府の許可なき者の通行は禁じられている!!」


 城門の真下。

 何十人もの重装歩兵が槍を揃え、枢たちの行く手を阻む。

 その中央。

 一際鋭い、しかしどこか震えるような気が、枢の心眼に飛び込んできた。


「……シエラ、……さんですね」

 枢が、光のない瞳を真っ直ぐに前へと向けた。


 カザンが、驚きに目を見開く。

 そこには、かつての枢の護衛官であり、今は王都守備隊の若き指揮官となったシエラが、白銀の甲冑に身を包んで立っていた。

 その手には、枢を守るために振るわれていたはずの長剣が、今は枢の喉元を狙って構えられている。


「……枢先生。……いいえ、……『因果の反逆者』。……速やかに……武器を捨て、……その汚れた右腕を……封印なさい」

 シエラの声は冷たく、事務的だった。

 だが、枢は聴き逃さなかった。

 彼女の喉にある**『水突すいとつ』**が、極度の緊張と悲しみによって、細かく痙攣している音を。


「……枢……。……お前、……本当に……目が見えねえのか?」

 シエラが、構えを崩さずに問いかける。

 彼女の視界に映る枢は、以前の穏やかな聖鍼師の面影を辛うじて残しながらも、その右腕は肩から先が漆黒の闇に飲み込まれ、ドクドクと不気味な脈動を繰り返している、異形の姿だった。


「……はい。……光は、……少年に差し上げました。……今の私には、……あなたの顔も、……この街の輝きも、……見ることができません」

 枢が、一歩、前へ出た。


 ガチャンッ!

 シエラが一歩退き、剣先が枢の胸元に触れる。

 

「……来るなッ!! ……先生、……あなたは……危険すぎる。……その腕に封じられた……数万の怨嗟は、……この王都の平和を……一瞬で瓦解させる爆弾だ。……私たちは、……この『新しい秩序』を……守らねばならないんだ!!」


「……秩序、……ですか」

 枢が、自嘲気味に微笑んだ。

 彼は、自身の左指を、自身の右胸にある**『雲門うんもん』**へと置いた。

 肺の気の入り口。

 そこから、シエラが必死に守ろうとしている「新政府」の気を、心眼で診る。


「……シエラさん。……あなたの守っているそれは、……平和ではありません。……ただの、……『痛みへの蓋』です。……アルキメスがいなくなった後、……人々が……自分の罪から……目を逸らすために……作り上げた……まやかしの処方箋……」


「……黙れッ!! ……何も知らないくせに……勝手なことを言うな!!」

 シエラの剣が、枢の頬を掠め、一筋の血が流れる。

 

 カザンが吼え、紅蓮槍を突き出そうとしたが、むくろがそれを制した。

 骸の視線は、枢の右腕に注がれていた。

 

 枢の右腕が、シエラの「拒絶」に共鳴するように、漆黒の煙を上げ始めた。

 (……あはは、……おじさん。……ほらね、……誰も……おじさんを……待ってない。……みんな、……自分たちの……心地よい嘘を……壊されたくないんだよ……)

 脳内で少年の声が、嘲笑うように響く。


「……いいえ、……私は……嘘を暴きに来たのではありません。……私は、……ただ……この街の『詰まり』を……通しに来ただけです」


 枢は、左手で自身の腹部にある**『天枢てんすう』**を強く突いた。

 天の軸。

 自らの精神を極限まで安定させ、右腕の暴走を強引に抑え込む。

 

 そして、枢は信じられない行動に出た。

 

 シエラの構える剣を、自らの漆黒の右腕で、直接掴み取ったのだ。

 

「……なっ、……馬鹿なッ!! 手が……溶けるぞ!!」

 シエラが悲鳴を上げる。

 

 剣の刃が、枢の黒い肉に食い込み、因果の火花が飛び散る。

 だが、枢は痛みを感じていないかのように、その剣を引き寄せ、シエラとの距離をゼロにした。


 枢の左指が、シエラの鎧の隙間、首筋にある**『風池ふうち』**へと伸びる。

 

「……シエラさん。……泣いても……いいんですよ。……あなたは……ずっと……アルキメスを……殺してしまった後悔を……その背中に……背負いすぎている」


 枢の指先から、清冽な気が注ぎ込まれた。

 脳内を支配していた「正義」という名の緊張が、一瞬で融解していく。

 

「……ぁ、……う、……ぁ……!!」

 シエラの力が抜け、剣が手から滑り落ちた。

 彼女はその場に崩れ落ち、枢の胸に顔を埋めて、子供のように嗚咽を漏らした。


 城門の兵士たちは、その異様な光景に圧倒され、一歩も動くことができなかった。

 

 最強の女騎士を、一突きの鍼も使わず、ただの指先一つで「武装解除」させた盲目の鍼灸師。

 

「……大丈夫です。……私が、……全部……診ていきますから」


 枢は、泣きじゃくる旧友の頭を、黒い右腕で優しく撫でた。

 その腕からは、怨嗟ではなく、静かな、あまりに静かな「慈悲」の気が漏れ出していた。


 第236話。

 王都の門は、一人の男の「指先」によって、音もなく開かれた。

 

 しかし、それはさらなる地獄への入り口に過ぎない。

 城の奥深く、新政府の最深部で、枢を待ち受けているのは、かつてアルキメスが「没案」として切り捨てた、世界を滅ぼすための『究極の毒』だった。


 盲目の聖鍼師。

 不完全な正義を抱えた王都に、今、最後にして最大の「往診」が始まる。

本日、昼の更新を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


土日ブースト2日目、第3回。

シエラとの再会、そして彼女の心を縛っていた「正義」という名の鎖を、枢が解き放つ回となりました。

視覚を失った枢が、相手の心の震えをダイレクトに感じる描写、いかがでしたでしょうか。


しかし、シエラを救ったことは、新政府という巨大な組織を敵に回すことを意味します。

王都の法を無視し、自分たちのルールで「救済」を行う枢たちは、もはや国家反逆罪に等しい存在です。


次回の第237話は、本日**【15:00】**に更新予定です。


王都の地下牢に捕らえられた、かつての患者たちの声。

彼らを救うため、枢は暗闇の地下迷宮へと潜入します。

そこで彼を待っていたのは、人の形を失った「肉の壁」でした。


15時、物語はホラーテイストを帯びた、衝撃の地下探索編へと突入します。

本日も、圧倒的なボリュームでお届けします。お楽しみに!

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