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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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235/271

第235話:不可視の凶刃、闇を裂く「共鳴する指先」

本日、2回目の更新をお読みいただき、誠にありがとうございます。


土日ブースト2日目、10:00。

視覚を完全に失い、闇の住人となったくるる

少年に奪われた「光」の代償は大きく、仲間の顔さえも見ることが叶わない中、一行の前に音もなく忍び寄る「影の刺客」が現れます。


「……見えないからこそ、見えるものがある。……あなたの心臓の音が、悲鳴を上げていますよ」

姿なき敵に対し、枢が放つのは、視覚を超越した「心眼」の鍼。


闇に紛れる暗殺者と、闇そのものとなった鍼灸師。

静寂の中で火花を散らす、究極の「不可視の死闘」が幕を開けます。


本日も、圧倒的なボリュームでお届けします。

第235話、どうぞ心ゆくまでお楽しみください。

 街道を包む霧は、陽光を弾き返し、不気味な薄墨色に染まっていた。


 くるるの瞳は、翡翠の輝きを失い、曇った硝子のような虚無を湛えている。

 だが、彼の世界は、視覚を失う前よりも遥かに「饒舌」だった。

 足元の土が含む微かな湿り気、三キロ先で羽ばたく鳥の風切り音、そして――。

 草むらの中で、殺意を押し殺し、自身の心拍数を極限まで低下させている「影」の存在。


「……カザン。……止まってください」

 枢の声は、静かな水面に落ちた一滴の雫のように、周囲の空気を震わせた。


「……あぁ? ……どうした、枢。……何か見え……いや、……聞こえるのか?」

 カザンが紅蓮槍を構え、周囲を警戒する。

 彼の目には、何も映っていない。

 ただの、静かな街道。

 しかし、カザンの背筋を走る嫌な予感だけが、枢の言葉の正しさを裏付けていた。


「……敵は三人。……上空に一人、……右の茂みに一人。……そして、……私たちの『足元』に一人です」

 枢は、自身の左手で、耳の上にある**『角孫かくそん』**を強く圧迫した。

 聴覚を司るこのツボを刺激し、世界を「音の立体地図」へと変換する。


 その瞬間、枢の脳内に、目で見える以上の鮮明さで「殺意の軌跡」が浮かび上がった。

 

 ――シュッ!!


 空気を切り裂く微かな音。

 上空から放たれたのは、因果を狂わせる「透明な毒針」。

 カザンの目には見えないその一撃を、枢は首を僅かに傾けるだけで回避した。


「……骸。……上空、……三時の方角に……黒い気を……放ってください。……そこに……依代よりしろがあります」


「……フン、……注文が多いな、……盲目の先生よォ!」

 むくろが、漆黒の義手を空へと突き出した。

 死の気が砲弾のように放たれ、何もないはずの空間で「ガィィィン!」と金属音が響く。

 姿を隠していた暗殺者が、骸の攻撃によって強制的に実体化させられ、地面へと叩きつけられた。


 だが、真の脅威はそこからだった。

 

 枢の足元の影が、突如として鎌のように鎌首をもたげ、彼の喉元を刈り取ろうと襲いかかる。

 「影縫い」の暗殺。

 アルキメスがかつて没案として捨てた、光そのものを武器にする影の戦士。


「……枢ッ!!」

 ミナの悲鳴が響く。


 枢は動じなかった。

 彼は、漆黒に変色し、数万の怨嗟を封じ込めた右腕を、無造作に自身の足元へと突き立てた。

 

 ――ドォォォォォォンッ!!!!!


 枢の右腕から溢れ出した「絶望の気」が、襲いかかってきた影を物理的に押し潰し、地面を黒い亀裂で埋め尽くす。

 右腕に宿った少年の意識が、枢の脳内でクスクスと笑っていた。

 (……おじさん、……いいよ。……もっと……ボクの力を使ってよ。……そうすれば、……痛みなんて……感じなくなるから……)


「……いいえ。……痛みは、……生きていくために……必要なものです」

 枢は、自身の内側の声に答えるように、左手で自身の胸元にある**『中府ちゅうふ』**を突いた。

 肺の気を整え、暴走しそうになる右腕の力を、強引に自身の「鍼」へと転換する。


 枢は、往診鞄から三本の銀鍼を取り出し、それを扇状に構えた。

 

「……あなたの心臓、……見えましたよ」

 

 枢が、何もない空間に向かって鍼を放った。

 

 一見、闇雲に投げられたように見えたその鍼は、空気の渦を縫うように蛇行し、茂みの中に潜んでいた三体目の刺客の、最も防御の薄い「ツボ」を正確に撃ち抜いた。

 

 刺客の首の付け根――『大椎だいつい』。

 全身の陽気が集まるその一点を貫かれたことで、暗殺者の術式は完全に崩壊した。

 実体化した刺客は、白目を剥いてその場に沈み、彼の持っていた短剣が地面に突き刺さった。


「……枢、……お前、……本当に目が見えねえのか?」

 カザンが呆気にとられたように問いかける。

 今の枢の動きは、視覚がある時よりも遥かに無駄がなく、恐ろしいほどの精度を誇っていた。


「……はい。……光は見えません。……ですが、……因果の流れ……そして、……命が発する……『悲鳴』だけは、……痛いほどに……伝わってきます」


 枢は、膝を突き、倒れた刺客の傍らに寄り添った。

 敵であるはずの暗殺者。

 だが、枢はその左指を、刺客の額にある**『神庭しんてい』**へと置いた。

 

「……あなたもまた、……アルキメスの……『捨て駒』だったのですね。……苦しかったでしょう。……もう、……眠っていいんですよ」


 枢の指先から、温かな気が注ぎ込まれる。

 刺客の顔から殺意が消え、彼は安らかな寝顔を浮かべて息を引き取った。

 

 救済と殺戮。

 その境界線上で、枢は独り、闇の中を歩き続ける。

 

 彼を襲った刺客は、王都に巣食う「修正者」たちの先遣隊に過ぎない。

 これから先、さらに強大な「物語の門番」たちが、枢の命を、そして彼の右腕に宿る「禁忌の記録」を狙って現れるだろう。


「……行きましょう。……王都まで、……あとわずかです」


 枢が立ち上がった時、彼の背中には、目に見えない「漆黒の光」が宿っていた。

 視覚を失ったことで手に入れた、世界の裏側を診る「心眼」。

 それは、神さえも予測できなかった、聖鍼師の「最終進化」の兆しだった。


 第235話。

 闇の中でこそ冴え渡る、執念の翡翠。

 一人の鍼灸師が、光なき世界で「真実の光」を紡ぎ出すための、絶望的な往診が続く。

本日、2回目の更新をお読みいただき、本当にありがとうございました。


視覚を失ったことで、かえって「因果の糸」を直接捉えることができるようになった枢。

かつての優しさに加え、右腕に宿る「少年の虚無」を武器に変えるという、危うくも力強い進化を遂げました。


しかし、刺客を「看取る」枢の姿は、どこかこの世の者ではないような、底知れぬ孤独を漂わせています。

彼が王都に辿り着いた時、待ち受けているのは、一体どのような「結末」なのでしょうか。


次回の第236話は、本日**【12:00】**に更新予定です。


ついに王都の城門へと辿り着いた枢たち。

しかし、そこで彼らを待っていたのは、かつての仲間であり、今は王都の「法の守護者」となった、あの女騎士でした。

「……枢先生。……今のあなたは、……この国にとって……排除すべき……最大の毒です」


12時、旧友との悲しき再会。

本日中盤戦、さらに激動の展開があなたを待ち受けます。

お見逃しなく!

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