第229話:鉄槌の騎士と「異端」の共闘
本日、2回目の更新をお読みいただき、誠にありがとうございます。
世界の「自動修正機能」である銀の騎士たちに包囲された枢。
右腕に宿る「絶望の毒」を武器に変え、辛うじて一体を退けたものの、その負荷は彼の細い肉体を内側から破壊し始めていました。
「……エラー排除、……優先度『極大』に移行。……排除を開始せよ」
無慈悲に振り下ろされる銀の剣。
絶体絶命のその瞬間、戦場を真っ二つに切り裂く「正義の鉄槌」が響き渡ります。
「――やれやれ、不自由な体で無理をするなと言ったはずだぞ、鍼灸師」
現れたのは、かつて王都で対立し、今は「新政府」の治安維持を担うあの男。
そして、彼が連れてきた「意外な協力者」とは。
奇跡なき時代に、人間の知恵と意志が結集する。
第229話、激動の共闘劇をお楽しみください。
アザレアの村の広場は、今や現実と虚構が混ざり合う、異様な「手術室」と化していた。
銀の騎士たちの剣が振るわれるたびに、大気の層が薄く削り取られ、そこにあったはずの風景が、色のない白紙へと書き換えられていく。
枢は、自身の右腕から溢れ出す「どす黒い気」を必死に抑え込みながら、次の一手を模索していた。
「……排除、……開始……」
三体の銀の騎士が、同時に跳躍した。
死角からの同時攻撃。
右腕の感覚を失っている枢にとって、それを回避する術はない。
だが、その刃が枢の肌に触れる寸前。
頭上から、落雷のような咆哮が降り注いだ。
「――『天秤の裁き』を受けろッ!!!」
轟音。
銀の騎士たちの中央に、巨大な「鉄の棍棒」が突き刺さった。
衝撃波だけで騎士たちの姿勢を崩し、その不自然な透明な体を、物理的な圧力で押し潰す。
「……この声は、……」
枢が目を見開く。
土煙の中から現れたのは、重厚な鎧に身を包んだ、王都守備隊の元隊長――レオナードだった。
かつてアルキメスの「正義」に従い枢を追いつめた男は、今、自らの意志でその巨大な武器を振るっている。
「……レオナードさん。……なぜ、ここに……」
「……サロメお嬢様からの伝令だ。……『不器用な先生が、また自分を犠牲にしようとしている』とな。……やれやれ、全くその通りだ。……顔色が死人よりも酷いぞ、枢」
レオナードが、背中で枢を庇うように立ち塞がる。
その隣には、さらにもう一人の影があった。
修道服を翻し、手にした経典を不気味に発光させているのは、かつてアルキメスの側近でありながら、最後には枢に手を貸した「裏切りの聖女」ベアトリスだった。
「……お久しぶりですね、枢先生。……不浄な因果を……その腕に溜め込むなど、……相変わらず……狂気じみた治療を続けておられるようで」
「……ベアトリスさんまで。……しかし、……彼らは……物理的な力では……」
「……分かっております。……だからこそ、……教団の『禁忌図書』を持ち出してきました。……設定を消去する力が『消しゴム』なら、……私たちは……その上から……『上書き』のインクを塗ればいい」
ベアトリスが経典を開き、高らかに詠唱を開始した。
彼女の周囲に、黄金の輝きとは異なる、鈍い、しかし強固な「人間の祈り」の気が渦巻き始める。
「……カザン! 骸! ……奴らの『核』は、胸の瞳の紋様だ! ……レオナード殿が姿勢を崩し、……私が因果の防御を剥ぐ! ……トドメはお前たちに任せたぞ!!」
「……ケッ、……王都のカタブツに指図されるのは癪だが……背に腹は代えられねえな!!」
カザンが紅蓮槍を回転させ、地を蹴った。
乱戦が始まる。
レオナードの鉄槌が銀の騎士の盾を砕き、ベアトリスの術式が彼らの存在確率を「固定」する。
実体化した騎士たちの胸元を、カザンの槍と骸の義手が、正確に撃ち抜いていく。
枢は、その激しい戦いの中で、自身の内側を診ていた。
右腕の腫れは限界に達している。
アルキメスの絶望という「劇薬」は、今や枢の心臓へと続く経絡を侵食し始めていた。
「……っ、……まだ、……まだ倒れるわけには……いかない」
枢は、左手で自身の腹部――**『天枢』**を強く突いた。
天の軸を意味するこのツボは、消化器の調整だけでなく、体内の「淀んだ気」を強制的に排泄させるためのスイッチでもある。
さらに、足首にある**『太谿』**。
生命力の源である「腎」の気を呼び起こし、枯れかけた経絡に無理やり潤いをもたらす。
「……ふ、……ぅ……。……せいやッ!!!」
枢は、自らの血を吐き出しながら、一本の銀鍼を自身の喉元――**『天突』**に刺し込んだ。
それは、声帯や呼吸を整えるための処置ではない。
外部から迫り来る「世界の否定(白化)」に対する、枢なりの「反論」を形にするための荒療治だった。
「……レオナードさん、……ベアトリスさん! ……騎士たちの動きが……鈍りました。……今です、……彼らの『因果の糸』が……一箇所に集まりつつあります!!」
枢の叫びに、共闘する三人が同時に動いた。
騎士たちが倒れ、消える際に放つ「未練の気」が、広場の中央で巨大な渦を形成している。
そこには、かつてアルキメスが書き損じ、捨て去った「名もなき数万の没案」たちの怨嗟が凝縮されていた。
世界の修正機能の正体は、神に捨てられた物語たちの、成仏できぬ「嘆き」そのものだったのだ。
「……枢先生、……あれを消し去ることは……私たちにはできません! ……あまりにも……負のエネルギーが……巨大すぎます!!」
ベアトリスが、防御壁を維持しながら悲鳴を上げる。
「……いいえ、……消し去る必要はありません」
枢が、一歩、また一歩と、因果の渦へと近づいていく。
「……彼らもまた、……治療を待っている……『患者』に過ぎません。……私が、……引き受けます」
「……枢、……貴様ッ、……何を言っている!? ……あんなものを飲み込めば、……お前の魂ごと……白紙に……!!」
レオナードの制止の声。
だが、枢は止まらなかった。
彼は、三角巾を投げ捨て、包帯にまみれた、しかし不気味に脈動する右腕を、因果の渦の中へと突き立てた。
その指先が狙うのは、渦の中心――『神闕』。
世界の「へそ」とも呼べるその一点。
第229話。
黄金を失った右腕が、今、万人の絶望と繋がった。
一人の鍼灸師が、世界の「痛み」を肩代わりするための、無謀なる往診が最高潮を迎える。
4月4日(土)、10:00。
本日2回目の更新をお読みいただき、本当にありがとうございました。
レオナード、そしてベアトリスの参戦。
王都で敵味方として戦った者たちが、今、一つの目的のために手を取り合う熱い展開となりました。
しかし、枢が選んだのは「敵を倒す」ことではなく、その「絶望を飲み込む」という、あまりにも過酷な医師の道でした。
万人の嘆きをその右腕に宿し、枢の肉体はどうなってしまうのか。
次回、第230話は本日**【12:00】**に更新予定です。
因果の渦を飲み込んだ枢の右腕が、異形の変貌を遂げます。
聖鍼師でもなく、ただの人間でもない、「救済の怪物」の誕生。
本日中盤戦、さらにアクセルを踏んでお届けします。
引き続き、お楽しみください!




