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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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第220話:共鳴刺鍼!魂の書庫を焼き払え

4月2日、08:00。第三章・後編【因果の深淵編】をお読みいただきありがとうございます。


「……枢、……君に彼女が殺せるか? ……この、……世界で唯一無二の、……完璧な物語の主人公を」


アルキメスが守り続けてきた少女の寝台の前に、くるるむくろが立ちふさがります。

少女の瞳が開くたび、現実の王都は震え、世界の理が紙のように破り捨てられていく「因果の共鳴」。


「……骸、……私は……彼女を殺しません。……彼女を、……『物語』から……『現実の死』へと……還すだけです!!」


嘘の生を終わらせ、真実の安らぎを与えること。

枢の左手の銅鍼が、少女の心臓ではなく、彼女を縛り付ける「執着の文字列」を狙います。


神の物語を閉じる、最後の一行。

聖鍼師の咆哮が、凍てついた書庫を焼き払います。

 書庫の空気は、もはや呼吸すら困難なほどに「インクの呪い」で満たされていた。

 くるるが踏み出すたび、足元の床――数千年の記述が積み重なった紙の積層――が、生き物のようにうねり、彼の足を搦め取ろうとする。


「……枢!! ……来るぞ、……文字の津波だッ!!!」

 

 むくろが、自身の漆黒の義手を巨大な盾へと変形させた。

 書庫の壁から、無数の「死」「絶望」「滅亡」という文字が物質化し、黒い刃の嵐となって二人に降り注ぐ。

 

 ガガガガガガガガガッ!!!!!

 

 義手の表面が削れ、骸の皮膚から黒い血が噴き出す。

 精神世界でのダメージは、そのまま現実の肉体の損壊へと直結する。骸の左肩からは、既に骨が露出しかけていた。


「……骸、……そのまま耐えてください!! ……あと少しで、……彼女の『真芯ましん』に届きます!!」

 

 枢が、黄金の右腕を前に突き出した。

 黒い煤に覆われていた腕が、アルキメスの過去の悲哀に共鳴し、激しく脈動している。

 枢はあえてその「浸食」を止めなかった。

 アルキメスの痛みを自分の中に取り込み、その流れを逆探知することで、この書庫の「唯一の綻び」を探し出そうとしていたのだ。


「……見つけた……!!」

 

 書庫の最奥、純白のカーテンに包まれた寝台。

 そこに横たわる少女の胸元に、アルキメスの右腕から伸びる「黄金の糸」が、血管のように繋がっている。

 その糸こそが、彼女をこの世界に繋ぎ止め、同時に世界を白紙化させているエネルギーの供給路。

 

「……やめろ、……枢。……それ以上は……近づくな!!」

 

 アルキメスが、初めて余裕を失った顔で叫んだ。

 彼の背中から生えた万本の黒い鍼が、枢を狙って一斉に収束する。

 

 だが、枢は止まらない。

 彼は左手に握った「血濡れの銅鍼」を、自らの喉元にある**『天突てんとつ』**に突き立てた。

 

「……ぐ、……あ、……ぁぁッ……!!」

 

 自身の声を、気を、存在のすべてを「一音の共鳴」へと変換する禁じ手。

 

「……骸!!!!! ……今ですッ!!!!! ……あなたの『死』の気を、……私の黄金に……混ぜてください!!!」


「……分かってらぁ!! ……これで最後だ、……あばよ、……神様ごっこ!!!」

 

 骸が、義手の全エネルギーを解放した。

 漆黒の「死」が、枢の黄金の「生」と交じり合い、螺旋を描く巨大な光のドリルとなって、アルキメスの防壁を粉砕した。

 

 爆風の中、枢は少女の枕元へと辿り着いた。

 

 近くで見る少女は、透き通るほどに美しく、そして……あまりにも虚ろだった。

 彼女の全身には、アルキメスが書き込んだ「健康」「美貌」「不老」という文字が刺青のようにびっしりと並んでいる。

 それは、生命の喜びではなく、ただの「設定」という名の鎖。


「……アルキメス。……あなたは、……彼女を救いたかったのではない。……彼女を失う自分を、……救いたかっただけだ」

 

 枢の言葉が、アルキメスの心を貫いた。

 

「……彼女は、……もうずっと前に、……『死にたい』と願っています。……あなたの文字で塗りつぶされる前に、……一人の人間として、……土に還りたがっているんだ!!!」

 

 枢が、黄金の右腕を少女の胸の上に置いた。

 そして左手の銅鍼を、少女の眉間――**『印堂いんどう』**へと、静かに、しかし深く沈めた。

 

 ――ッ、……。

 

 音が消えた。

 

 少女の目から、一筋の涙が流れた。

 それはアルキメスのインクではない、本物の、透明な人間の涙。

 

 パリ、パリパリッ……!!

 

 少女の肌に刻まれた文字が、枯れ葉のように剥がれ落ちていく。

 黄金の糸が千切れ、数千年の間、彼女を縛り続けていた因果の鎖が、一気に霧散した。

 

「……ぁ、……あぁ……」

 

 寝台の上の少女が、初めて自分自身の声で、小さく息を吐いた。

 彼女は、自分を抱きしめる枢の腕の温もりを感じ、微かに微笑むと、そのまま光の粒子となって消えていった。

 

 同時に、書庫全体が激しい炎に包まれた。

 アルキメスが書き溜めてきた無数の物語が、真実の死(完結)を受け入れたことで、一斉に燃え上がったのだ。


「……私の、……私の物語が……!! ……彼女が、……消えていく……!!」

 

 アルキメスが、血を吐きながら崩れ落ちた。

 彼の右腕から黄金の光が失われ、そこには枢と同じ、ボロボロになった「ただの人間の腕」が残された。

 

 書庫が崩壊し、枢と骸の意識は、再び地下空洞の現実へと引き戻される。

 

 目の前には、白紙化が止まり、どす黒い沈黙を取り戻した『翡翠の心臓』。

 そして、その前で力なく膝を突く、一人の老いた男の姿があった。

 

 神の仮面を剥ぎ取られた、編纂者アルキメスの真の姿。

 

「……は、……はは……。……空っぽだ。……何もない。……私の数千年は、……一人の少女の死すら……受け入れられない……臆病者の逃避行だったのか……」

 

 アルキメスが、自身の震える手を見つめて呟く。

 

「……そうです。……そして、……ここからが……あなたの『本当の人生』の始まりです、……アルキメス」

 

 枢が、ボロボロになった身体を引き摺りながら、彼へと歩み寄る。

 

 だが、事態はまだ終わっていなかった。

 

 アルキメスが執着を失ったことで、彼が制御していた「因果の原液」が、暴走を始めたのだ。

 翡翠の心臓が、ぬしを失った怒りに狂うように、黒いパルスを王都全域へと放出し始める。

 

「……枢!! ……喜んでる暇はねえぞ!! ……心臓が、……自爆しやがるッ!!!」

 

 骸の叫びが、崩落の音に掻き消された。

 

 第220話。

 少女の死という「真実」を突きつけた聖鍼師。

 しかし、それは王都崩壊という、さらなる物理的絶望への引き金となってしまった。

 

 精神を救った後に待つのは、荒れ狂う「エネルギーの暴走」という外科的難題。

 枢と骸、そして力を失ったアルキメス。

 三人の運命が、爆発寸前の心臓の前で交錯する。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


4月2日(木)、08:00の更新をお届けいたしました。

アルキメスの物語を終わらせ、少女を「死」へと還した枢。

これこそが、不完全な現実を肯定する聖鍼師としての、残酷で美しい治療でした。


ですが、アルキメスの執着という「重石」が取れたことで、溜まりに溜まった因果のエネルギーが文字通り爆発しようとしています。


次回、第221話は本日**【12:00】**に更新予定です!


暴走する翡翠の心臓。

枢が提案するのは、力を失ったアルキメスと、自分、そして骸の三人を繋ぎ、因果を「人体という名の経絡」で中和させるという、狂気の回避策。


先生、重厚化後編、ここからさらに加速します!

お昼の更新も、手に汗握る展開をお約束します!

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