第22話:深海都市の陰謀と、水圧の鍼
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舞台は地上を離れ、幻想的な深海都市『アトランティア』へ。
人類未踏の地で待っていたのは、美しき人魚の姫と、あまりに冷酷な「歓迎」でした。
異世界の水圧に抗い、枢が取り出したのは、黄金に輝く「特製の鍼」。
聖鍼師の新たな挑戦が、今ここから始まります!
人魚たちの魔導馬車に揺られ、枢が辿り着いたのは、地上の常識を遥かに超えた光景だった。
空の代わりに広がるのは、どこまでも深い紺碧の天井。そこを巨大な海獣たちが星のように回遊し、街全体が巨大な真珠貝を思わせる魔法障壁に包まれている。深海都市『アトランティア』。光り輝く珊瑚のビルが立ち並ぶその美しさに、枢は一瞬だけ目を細めた。
だが、馬車を一歩出れば、魔法による加圧保護があってもなお、全身を万力で締め付けられるような重苦しい水圧が襲う。枢は往診バッグのストラップを肩に食い込ませ、一歩、また一歩と重い足取りでミーナ姫の待つ真珠の宮殿へと進んだ。
「……遅かったな、地上の猿め。この神聖な海底を、陸の埃で汚すとは」
豪華絢爛な謁見の間で出迎えたのは、冷酷な眼差しをした人魚の宰相、バルカだった。彼は青白い鱗に覆われた筋肉質な上半身を揺らし、枢をゴミでも見るかのように値踏みする。
「姫の喉を治すだと? 笑わせるな。数多の魔導医師が匙を投げ、海の呪術師ですらお手上げの呪いだ。貴様のような、折ればすぐにでも砕けそうな針金一本で、何ができるというのだ」
「……能書きはいい。その口を動かす暇があるなら、一秒でも早く姫をこちらへ」
枢は宰相の挑発を、まるで飛んでくる羽虫を払うかのように受け流した。その徹底的な無視にバルカの顔が屈辱で歪むが、枢は気にせず、苦しげに横たわるミーナの側に膝をついた。
翡翠眼が捉えるミーナの喉元。そこには地上の時よりもさらに禍々しく、血管のように脈動する「黒い棘」が根を張っていた。
「やはり……。深海特有の『高魔圧』が、呪いを実体化させている。これはもはや病ではなく、寄生している生命体に近い。今、この瞬間に抜き去らなければ、彼女の喉は内側から弾け飛び、命そのものを吸い尽くされるでしょう」
「なっ、なんだと……!? 命まで奪うというのか!」
傍らにいた侍女が悲鳴を上げる。しかし、宰相バルカだけは冷ややかに、どこか期待を込めた目で枢を見ていた。
「ならばやってみるがいい、人間。……ただし、失敗すれば貴様の命はない。この海の底で、永遠に魚の餌になってもらうぞ」
「バルカ宰相。あなたのくだらない脅しに付き合う暇はありません。……姫の命か、あなたの面子か。どちらが大事か、今すぐ選びなさい。選ぶ間も惜しいなら、そこをどけ。……ここは私の『診療所』だ」
枢の放つ圧倒的な「施術者の威圧」――死線を越えてきた魔王ですら一目置いたその気迫に、屈強な人魚兵たちが思わず一歩退く。
枢はバッグの隠しポケットから、これまでとは一線を画す「極太の金鍼」を取り出した。深海の圧倒的な圧力に負けぬよう、密度を高め、特殊な魔力を付与した特注品だ。黄金に輝くその鍼が、暗い宮殿の中で一筋の希望のように光を放つ。
「ミーナ姫、聞こえますか。……少しだけ、苦しい思いをさせます。ですが、あなたの歌声は、必ず私が取り戻す」
枢は、ミーナの震える喉元にある禁断のツボ――『天突』に、迷いなく指を添えた。指先に伝わるのは、呪いの激しい拍動。
枢の瞳が翡翠の光を放ち、黄金の閃光が、深海の静寂を切り裂いて突き立てられた。
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深海の圧倒的な水圧描写、いかがでしたでしょうか。
実は、高気圧や水圧の変化は、耳鳴りや頭痛など現代の私達の体調にも深く関わっています。
そんな環境下で、不遜な宰相に啖呵を切る枢。
果たして、彼の黄金鍼は「深海の呪い」を貫けるのか!?
「枢さん、海の中でも強気で最高!」
「人魚の都市、行ってみたい!」
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次回、第23話は**【21:00】**に更新予定。
治療の最中に絶体絶命の危機!? あの「おてんば助手」が海底に現れます!




