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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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第211話:祈りの連鎖、名もなき救護者たちが灯す希望

3月30日、21:00。本日最終、第三章・中編の結びをお読みいただきありがとうございます。


王都外門でカザンとサロメが死闘を繰り広げていたその頃。

中央広場には、編纂者たちが放った人々の精神を蝕む「因果の毒霧」が立ち込めていました。


「……枢先生がいないからって、……私たちが、……この街を見捨てるわけにはいかないわ!!」


震える手で、薬草を調合するミナ。

その傍らで、かつての気高き王女としての誇りではなく、一人の救護者としての慈悲を胸に、光の魔法を編み上げるアンナ。


「……わたくしたちが、……あの方の背中を守るための……最後の防波堤になりますの!!」


剣も槍も持たない二人の少女。

彼女たちが放つ「祈りの香」が、絶望に沈む王都の心に、小さな灯火を宿していきます。

第三章・中編、守護者たちの戦記。今ここに、完結いたします。

 王都外門でカザンとサロメが亡霊騎士団を食い止めていたその時。

 市街地の中央広場は、編纂者たちが地下の廃液を気化させて放った「因果の毒霧」によって、静かな、しかし確実な絶望に包まれていた。

 

 紫色の霧を吸い込んだ人々は、かつての憎しみや恐怖を増幅させ、互いに刃を向け合い、あるいは絶望してその場にうずくまっていく。

 それは肉体ではなく、魂の経絡を直接破壊する、最も卑劣な攻撃であった。


「……みんな、……しっかりして!! ……これは幻覚よ!! ……自分を見失っちゃダメ!!」

 ミナが、往診鞄を抱えながら、倒れ伏す老婆の背中を懸命にさすっていた。


「……ミナさん、……だめですわ。……霧の密度が、……高すぎます……。……わたくしの清浄魔法でも、……浄化が追いつきません……」

 アンナが、自身の魔力を絞り出し、小さな光の結界を作っていたが、その顔は青ざめ、膝はガクガクと震えていた。


 アンナは、かつて王都の「籠の鳥」だった。

 誰かに守られることしか知らなかった彼女が、今、ボロボロの修道服を纏い、泥にまみれた市民の血を拭っている。

 

 ――「アンナさん。あなたの手は、人を癒すためにあります。王女としての義務ではなく、一人の人間としての『慈悲』を、その手に宿してください」――


 枢がかつて、彼女の震える手を握ってかけた言葉。

 その言葉が、今のアンナを支える唯一の支柱だった。


「……ミナさん。……枢先生から預かった、……あの『薬草』を使いましょう」


「……えっ!? ……でも、……あれは先生が『最後の手段』だって……」


「……今が、……その時ですわ。……これ以上、……この都の心を、……腐らせてはなりません!!」


 ミナは、往診鞄の底に隠されていた、小さな琥珀色の瓶を取り出した。

 中に入っていたのは、枢が自身の精霊力と、むくろの死の気を特殊な比率で調合して作り上げた、実験的な燻蒸薬くんじょうやく――『鎮魂の翡翠香しんこんのひすいこう』。


「……これ、……どうやって使うの?」


「……わたくしが、……光の魔法で……霧状にして拡散させます。……ミナさんは、……火を!!」


 ミナが震える手でマッチを擦り、瓶の芯に火を灯した。

 瞬間、瓶から立ち昇ったのは、目に染みるような鮮やかな翡翠色の煙。

 アンナがその煙を自身の魔力で包み込み、広場全体へと一気に解き放った。


「……お願い……、……届いて……!! ……みんなの、……凍りついた心に……!!」


 翡翠の香りが、紫の毒霧を次々と中和していく。

 香りを吸い込んだ人々は、激しく咳き込みながらも、その瞳に正気の色を取り戻していった。

 

 だが、その奇跡を許さない影が、広場の屋根から飛び降りてきた。

 編纂者の暗殺部隊。

 感情を去勢された漆黒の装束の男たちが、無言のまま、ミナとアンナへと短剣を振り下ろす。


「……ひっ、……あ、……あぁ……!!」

 

 ミナが目を閉じた。

 死を覚悟したその瞬間、彼女の前に、一人の大男が割って入った。


「……待たせたな、……お嬢ちゃんたち。……門の掃除は、……大体終わったぜ!!」

 

 カザンだった。

 満身創痍の彼は、折れた槍を杖にしながらも、暗殺者の短剣をその肉体で弾き飛ばした。

 その後ろからは、氷の魔力で自身の体温を保ちながら、サロメがゆらりと現れる。


「……枢先生がいない間に、……可愛い妹分たちを傷つけさせるわけには、……いきませんわ」


「……カザンさん!! ……サロメさん!!」

 ミナが、泣きながら二人に駆け寄る。


「……へっ、……いい顔してるじゃねえか。……お前らが、……この広場の連中を繋ぎ止めてくれたおかげで、……王都の『気』が、……まだ死なずに済んでる」


 カザンが、広場に座り込む市民たちを見渡した。

 かつては絶望していた彼らが、今、ミナとアンナの献身的な姿を見て、自らも立ち上がり、周囲の負傷者を助け始めていた。

 

 それは、枢がずっと説いてきた「治癒の連鎖」だった。

 

 鍼灸師一人の力ではなく、救われた者が、次の誰かを救う。

 その小さな祈りの積み重ねが、編纂者たちの「因果の操作」を、根本から打ち破る唯一の力となる。


「……あ、……見て……!! ……王城が……!!」

 アンナが、天を指差した。

 

 王城の最上階から、黄金と翡翠の光が螺旋を描いて空へと立ち昇り、王都全体を覆っていた黒い雲を、一気に払い除けていく。

 

 枢が、ゼノヴィアの魂を救い、王都の因果を書き換えた、まさにその瞬間だった。


「……やった、……のかな……?」

 ミナが、涙を拭いながら呟く。


「……ええ。……あのお節介な先生のことですもの。……きっと、……自分をボロボロにして、……やり遂げたはずですわ」

 サロメが、穏やかな表情で王城を見つめる。


「……よし、……野郎ども!! ……枢が帰ってくる場所を、……俺たちが綺麗にしねえとな!! ……動ける奴は手を貸せ!! ……王都の再建、……開始だぁぁぁッ!!!」

 

 カザンの咆哮に、市民たちが歓声で応える。

 

 武器を持たない少女たちの勇気が、守護者たちの誇りを繋ぎ、そして、聖鍼師の奇跡を完成させた。

 

 ――こうして、王都奪還の「裏側」は、一つの大団円へと向かう。

 

 数時間後。

 王城からゆっくりと降りてくる、両腕を黄金に染めた枢の姿を、広場にいた全員が、惜しみない拍手と涙で迎えることになる。

 

 第211話。

 守護者たちの戦記、完結。

 

 物語の焦点は、再び枢と、そして帰還したむくろへと戻っていく。

 王都奪還編・後編。

 地下深くに眠る「真の黒幕」との、最終決戦の幕が開く。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月30日(月)、中編【守護者たちの戦記】を、この一話で締めくくらせていただきました。

武器を持たないミナやアンナの「治療の精神」が、市民たちの心を救う。

枢という中心軸があるからこそ、仲間たちがそれぞれの持ち場で「聖鍼師」としての魂を体現する。

そんな群像劇としての厚みを、このサイドストーリーで表現できたと感じています。


いよいよ明日からは、**第三章・後編【因果の深淵編】**がスタートします!

207話で再会した枢と骸。

二人が向かうのは、エドワード国王さえも知らなかった、王都の地下一万メートルに眠る「初代国王の霊廟」。

そこで彼らを待っていたのは、編纂者たちの「創造主」を名乗る、ある男の姿でした……。


本日の更新も、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

明日の朝、禁忌の扉が開く瞬間を、どうぞお見逃しなく!

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