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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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第209話:亡霊の槍、師弟が交わす絶望の旋律

3月30日、12:00。第三章・中編、第2回の更新をお読みいただきありがとうございます。


王都外門「天の逆鉾」を埋め尽くす、紫の霧。

その中から現れたのは、かつて王都を守護し、翡翠の異変の初期に命を散らした英雄たちの成れの果て――「亡霊騎士団」でした。


「……その構え、……その槍の条理……。……まさか、……バルガス師匠なのか……ッ!?」


驚愕に目を見開くカザン。

翡翠の結晶に右目を貫かれ、虚ろな眼光を放つ老騎士は、無言のまま愛槍『大蛇殺し』を突き出します。


「……カザン殿、……動揺してはなりませんわ。……あれは、……もはや魂の抜けた泥の器に過ぎませんのよ」


サロメの制止も届かず、カザンは師の槍を正面から受け止めます。

師弟の再会は、血塗られた殺し合いへと変貌を遂げていきます。

 紫の霧が、王都外門の石畳を舐めるように広がっていく。

 結晶兵団クリスタル・レギオンを退けた直後の静寂を破ったのは、カザンとサロメの背筋を凍らせるような、重厚な金属の足音だった。


 霧の奥から現れたのは、十数騎の騎兵たち。

 彼らが纏う鎧は、王都の正規騎士団「白銀の盾」のものであったが、その隙間からは腐敗した肉体と、それを強引に繋ぎ止める翡翠の結晶が突き出している。

 

 そして、その先頭に立つ一人の老騎士を見た瞬間、カザンの息が止まった。


「……嘘、……だろ……。……あんたは、……三ヶ月前の翡翠の暴走の時、……俺を逃がして、……一人で……」


 老騎士は答えない。

 かつて「王国の壁」と称えられた槍聖バルガス。

 カザンに槍のいろはを叩き込み、彼が最も尊敬し、超えるべき壁として仰いできた師。

 そのバルガスの右目は結晶に塞がれ、口元からは不気味な因果の廃液が滴り落ちていた。


「……カザン殿、……しっかりなさい!! ……あれは編纂者たちが作り出した『因果の操り人形』。……あなたの知る師匠ではありませんわ!!」

 サロメが鋭く叱咤し、氷の礫を放つ。

 

 だが、バルガス――その亡骸が、音もなく槍を振るった。

 一閃。

 サロメの放った氷の礫が、空中で粉々に砕け散り、その余波だけで彼女の結界に亀裂が入る。


「……なっ、……わたくしの魔法を、……ただの素振りで……!?」


「……サロメ、……下がってろ」

 カザンが、震える手で自身の槍を握り直した。

 彼の目には、悲しみと、それを上回る激しい怒りの炎が宿っていた。


「……編纂者のクソ野郎どもが……。……死んだ英雄の誇りまで、……泥で汚しやがって……!!」


 カザンが地を蹴った。

 紅蓮の闘気を全身に纏い、バルガスの懐へと飛び込む。

 

「……師匠ォォォォォォォッ!!! ……あんたの槍は、……こんなところで、……無様に振り回されるためのもんじゃねえだろ!!!」


 カザンの渾身の突き。

 だが、バルガスの槍『大蛇殺し』は、まるでカザンの思考を読み切っているかのように、最小限の動きでそれを逸らし、逆にカザンの脇腹を鋭く掠めた。


「……ぐ、……あぁッ……!!」

 

「……カザン殿!!」


「……来るな!! ……これは、……俺の……俺たちのケジメだ!!」


 カザンは吐血しながらも、槍の柄を短く持ち替え、近接戦闘へと持ち込む。

 

 ガギィィィィィィィンッ!!!

 

 火花が散り、二人の槍使いが至近距離で睨み合う。

 バルガスの虚ろな左目が、一瞬だけ、カザンの顔を捉えた。

 その瞬間、カザンの脳裏に、かつての修練の日々がフラッシュバックする。

 

 ――「カザン、槍は力で振るうのではない。大地の気を吸い上げ、己の魂を穂先へと流し込むのだ」――

 

 バルガスの教え。

 今、目の前の亡骸が放つ一撃一撃には、その教え通りの、極限まで無駄を削ぎ落とした「条理」が宿っていた。

 編纂者たちは、バルガスの肉体だけでなく、彼が長年培ってきた「武の記憶」さえも、因果の力で再現していたのだ。


「……はは、……やっぱり……本物だよ、……あんたは……」

 カザンは、自身の槍の穂先が少しずつ削られていくのを感じていた。

 バルガスの槍に纏わりつく紫の瘴気が、カザンの闘気を蝕んでいく。

 

 このままでは、あと数合で槍が折れる。

 サロメもまた、亡霊騎士団の他の騎兵たちを食い止めるのに手一杯で、カザンへの加勢は不可能だった。


(……どうすればいい。……俺の槍じゃ、……師匠には届かねえ……。……枢なら、……この『呪い』をどう診る……?)


 枢。

 その名を脳裏に浮かべた瞬間、カザンの視界が、不自然なほどにクリアになった。

 

 枢がいつも言っていたこと。

 「病の原因は、気の詰まりにある」。

 

 バルガスの亡骸を動かしているのは、その心臓部に埋め込まれた、翡翠の結晶の「核」だ。

 そこへ向けて、全身の経絡を無視した、強引な因果の流れが集中している。

 

「……見えた……。……あんたを縛ってる、……その……一番汚い『糸』がよ!!」


 カザンは、槍を構え直した。

 紅蓮の闘気を、槍の全体ではなく、極小の一点――穂先の先端だけに凝縮させる。

 それは、カザンがこれまで避けてきた、命中率を極限まで犠牲にした「点」の突撃。


「……バルガス師匠!! ……最後は、……俺の槍を……その眼に焼き付けろッ!!!」


 バルガスが、迎え撃つように槍を突き出した。

 大気を切り裂く、必殺の螺旋突き。

 カザンは、その一撃を避けない。

 自身の左肩を貫かせるのと引き換えに、彼は最短距離で、自身の魂を込めた穂先をバルガスの心臓へと送り込んだ。

 

 ――ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 カザンの槍が、バルガスの胸の結晶核を粉砕した。

 同時に、バルガスの槍もまた、カザンの肩を深く貫き、黄金の熱が彼の全身を駆け巡る。

 

「……カ、……ザ……ン……」

 

 一瞬。

 バルガスの虚ろな瞳に、かつての慈愛に満ちた光が戻った。

 彼は、血を吐く愛弟子の顔を見つめ、静かに、しかし誇らしげに口角を上げた。


「……よ……く……、……やった……。……お前の槍……、……届いた……ぞ……」


 バルガスの身体から、紫の霧が抜けていく。

 亡霊騎士団の主力を失ったことで、他の騎兵たちもまた、霧散するように消滅していった。

 

 カザンは、貫かれた肩を押さえながら、ゆっくりと崩れ落ちるバルガスの亡骸を、その両腕で抱きかかえた。


「……師匠……。……ごめん、……なさい……。……もっと、……早く……」


「……泣くな……。……お前は……王国の……槍だ……。……枢、……とかいう……男を……、……最後まで……守れ……」


 バルガスの肉体は、柔らかな光の粒子となって、王都の空へと昇っていった。

 後に残されたのは、カザンの熱い涙と、彼の中に刻まれた「真の槍聖」の魂だけだった。


「……カザン殿……」

 サロメが歩み寄り、傷ついた彼の背中に、そっと手を置いた。


「……大丈夫だ、サロメ。……師匠に、……合格点は……もらえたみたいだからな」


 カザンは立ち上がった。

 傷は深いが、その瞳には、もはや迷いはなかった。

 

 だが、安堵の時間は一瞬で終わった。

 王城の尖塔から、天を突くような不気味な黒い光が放たれた。

 枢がゼノヴィアと対峙した、まさにその瞬間の共鳴が、外門まで響いてきたのだ。


「……枢先生……。……ついに、……始まってしまいましたわね」


「……あぁ。……ここからが、……本当の踏ん張りどころだぜ!!」


 第209話。

 守護者たちの誇り。

 カザンは、亡き師の意志を背負い、さらなる地獄へと身を投じていく。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月30日(月)、中編第2幕をお届けいたしました。

カザンの師、バルガスとの悲哀に満ちた決着。

武人としての誇りと、枢から学んだ「気の流れ」を活かした戦術。

このサイドストーリーがあることで、本編第207話でのカザンの「枢への信頼」により深みが増したのではないでしょうか。


次回、第210話は本日**【18:00】**に更新予定です!


カザンの次は、サロメ。

極北の王族でありながら、なぜ彼女は枢の仲間となったのか。

亡霊騎士団の第二波として現れたのは、サロメがかつて捨てたはずの「故郷の影」でした。


夕方の更新も、心を込めて執筆いたします。

引き続き、応援をよろしくお願いいたします!

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