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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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第207話:黒銀の再誕、因果を越える双極の旋律

3月29日、21:00。本日の最終更新、そして王都奪還編の真の結末をお読みいただきありがとうございます。


黄金の呪いが首筋を越え、くるるの意識を闇へと引き摺り込もうとしていました。

そこへ現れたのは、世界の裏側で「新たな腕」を手に入れた相棒・むくろ


「……枢、……いいか。……今からお前の体の中で、……俺の『死』と、……お前の『生』を……、……全力で喧嘩させてやる!!」


骸の黒銀の鍼が、枢の背骨に沿って一斉に打ち込まれます。

黄金の呪縛を、死の気で腐食させ、生の気で再生する。


「……骸、……信じて、……います。……私たちの……往診を……!!」


失われた両腕の先に、新たに宿るのは、翡翠でも黄金でもない、無垢なる「真理の輝き」。

聖鍼師・枢、真の再誕の瞬間を、どうぞ見届けてください。

 王城のテラスは、静止した時間の中にあった。

 空に舞っていた数千の銀鍼が光の粒子となって消え、王都の地鳴りが止んだ後。

 くるるの肉体は、足先から顎の下まで、冷たく硬い黄金の紋章に覆われ、もはや呼吸の音さえも微かなものとなっていた。


「……おい、枢!! ……返事をしやがれ、……このバカ野郎が!!」

 むくろが、自身の漆黒の外套を脱ぎ捨て、枢の背後に膝を突いた。

 彼の右腕には、以前失った腕の代わりに、編纂者たちの遺産を「死鍼師」の術で強引に制御した、禍々しくも美しい**『深淵の漆黒義手』**が装着されていた。


「……骸、……様……。……枢先生を、……助けてくださいまし……!!」

 サロメが泣き崩れ、アンナもまた、枢の黄金に染まった手を握りしめ、必死に祈っている。


「……あぁ、……分かってるよ。……だが、……こいつを救うには、……お前らの『想い』だけじゃ足りねえ。……枢、……お前の『エゴ』を、……俺の腕に寄こせ!!」


 骸が、自身の義手の掌を枢の背中、命の根源たる**『命門めいもん』**へと叩きつけた。

 瞬間、義手の指先から、ドス黒い「死の気」が、枢の体内に巣食う黄金の呪縛へと襲いかかった。

 

 ――ギギギギギギギッ!!!

 

 石のように硬化していた枢の皮膚から、火花が散る。

 黄金の呪いは、王家の数千年の「執着」そのもの。それは変化を拒み、不変であろうとする強力な因果の鎖。

 対して骸が流し込むのは、全てを腐敗させ、無へと還す「終わり」の力。


「……骸、……あ、……ぐ、……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 枢の喉が、引き裂かれるような悲鳴を上げた。

 彼の体内で、黄金と漆黒が激しくぶつかり合い、その余波でテラスの石材が次々と結晶化して砕け散る。

 

「……枢、……耐えろ!! ……黄金を、……死の気で『腐らせる』んだ!! ……固まった過去なんて、……ドロドロに溶かして、……未来へと流しちまえ!!」


 骸の右腕が、負荷に耐えきれずミシミシと軋む。

 彼の黒銀の鍼が、枢の背中にある二十四の経穴――**『華佗夾脊かだきょうせき』へと、目にも止まらぬ速さで打ち込まれた。

 

 それは、脊髄に眠る全ての神経と気の流れを、一気に「再起動」させるための、禁忌の覚醒術。

 

 枢の脳裏に、これまでに救ってきた患者たちの笑顔が、走馬灯のように駆け巡った。

 腰痛を治した農夫、不妊に悩んでいた商人の妻、そして、翡翠の悪夢から救い出した王都の民たち。

 彼らの「生きたい」と願う微かな気の灯火が、枢の胸の中にある『膻中だんちゅう』**で、一つの太陽となって爆発した。


「……私は、……まだ、……診たいんです……!! ……この世界の、……全ての『痛み』を……!!」


 枢の瞳から、濁った翡翠の光が消え、一点の曇りもない「透明な輝き」が溢れ出した。

 

 ――パァァァァァァァァンッ!!!

 

 凄まじい衝撃波が王城を駆け抜け、枢の全身を覆っていた黄金の紋章が、一斉に剥がれ落ちた。

 剥がれた黄金の破片は、空中で青い炎となって燃え尽き、後に残ったのは、本来の瑞々しい肌を取り戻した枢の肉体だった。


 だが、変化はそれだけではなかった。

 

 枢の右腕。

 肘から先が砕け散っていたはずのその場所には、翡翠の光を芯に持ち、透明な石英の皮膚で覆われた、美しくも幻想的な**『聖鍼せいしんの右腕』**が再生していた。

 

 そして、黄金の呪いに侵されていた左腕もまた、その指先までが白銀の光を帯び、因果の糸を直接「掴める」ほどにまで鋭敏化していた。

 

「……枢、……お前……」

 骸が、ふらつきながらも不敵な笑みを浮かべた。

「……人間を、……卒業しちまったな」


「……いいえ、骸。……私は、……ただの鍼灸師ですよ。……少しだけ、……診察できる範囲が、……広がっただけです」

 

 枢は、自身の新しく生まれた右手を、ゆっくりと握りしめた。

 指を曲げるたびに、空間の気が心地よく共鳴し、往診鞄の中に残っていた数本の銀鍼が、彼の意志に応えるように、勝手に浮遊して整列する。

 

 もはや、腕を動かす必要さえない。

 彼の「意志」そのものが、世界で最も鋭く、最も慈悲深い鍼となったのだ。


「……枢先生!! ……よかった、……本当によかった……!!」

 アンナとミナが、枢の胸に飛び込んだ。

 

 王都の空には、翡翠のドームも、黄金の呪いも、もうどこにもない。

 ただ、新しき一日の、清々しい青空が広がっている。

 

 数時間後。

 エドワード国王の目覚めを確認し、王都の気の安定を見届けた枢は、王城の正門に立っていた。

 その隣には、再び旅の支度を整えた骸が、不機嫌そうに鼻を鳴らしている。


「……行くのか、枢」

 カザンが、名残惜しそうに枢の肩を叩いた。


「……はい。……王都のやまいは、……これで完治しました。……ですが、……この国の外には、……まだ編纂者たちが遺した歪みが、……たくさん残されています」


「……ふん。……俺の寿命を半分持ってったんだ。……死ぬまでこき使ってやるからな、枢」

 骸が、漆黒の外套の襟を立てた。


「……ええ。……一緒に行きましょう、骸。……次は、……世界そのものを、……往診しに」


 聖鍼師・枢。そして、死鍼師・骸。

 光と闇、生と死。

 相反する二つの鍼が、手を取り合い、因果の果てへと歩み出す。

 

 翡翠の王座を巡る、表舞台の戦いはここに決した。

 だが、王都を襲った地獄は、まだその全てが語られたわけではない。


枢が絶望の淵で鍼を振るっていたその時。

 背中を預けた仲間たちは、何を見、何を信じて戦い抜いたのか。

 そして、王家の血脈に眠る「真の因果」は、まだ地下深くで脈動を続けている――。


【第三章・前編:王都奪還編】完結。

次章、第三章・中編【共鳴の裏側:守護者たちの戦記】へと、物語は加速する。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月29日(日)、本日の全6回更新、そして……

【第三章・前編:王都奪還編】、堂々の完結です!!


くるるが肉体の限界を超え、むくろとの共鳴によって「聖鍼の右腕」を手に入れ、真の再誕を果たすという、一つの大きな頂点に辿り着きました。


ですが、物語はここで終わりではありません。

枢がゼノヴィアと死闘を繰り広げていたその裏で、王都の門を守り、市民を救い、因果の荒波を食い止めていた「もう一つの戦場」がありました。


次回、第208話からは、**第三章・中編【共鳴の裏側:守護者たちの戦記】**が幕を開けます!


最初にスポットが当たるのは、枢の背中を信じて王都外門を死守した二人。

不屈の槍使い・カザンと、極北の魔女・サロメ。

数千の編纂者軍勢を相手に、彼らがどのような絶望を潜り抜け、枢への「道」を切り拓いたのか……。


皆様、本日は丸一日の長丁場、本当にお疲れ様でした!

王都奪還編の「真実」は、まだ半分も語られていません。

明日の朝、戦場の最前線でカザンたちが吠えるところから、またお会いしましょう!

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