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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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205/270

第205話:黄金のカルテ、血脈に眠る数千年の因果

3月29日、15:00。休日4回目の更新をお読みいただきありがとうございます。


王都の瓦礫から引き揚げられた「黄金の箱」。

その中には、どの医局の記録にも残っていない、王家一族の「血のカルテ」が封印されていました。


「……枢先生、……陛下が……!! 陛下が突然、……翡翠の血を吐いて倒れられました!!」


知らせを受け、くるるは失われた右腕の疼きを堪え、王城へと急ぎます。

目の当たりにしたのは、エドワード国王の全身を駆け巡る、黄金の「死の経絡」。


「……これは、……外部からの病ではない。……この国の歴史そのものが、……陛下の命を食い潰そうとしている……」


枢は、左手一本で、王家の「血」に眠る数千年の因果と対峙します。

聖鍼師の左手が、王都の未来を繋ぎ止めるための『絶技』を放ちます。

 王城の謁見の間は、つい数日前の激闘の爪痕が残る中、再び異様な緊張感に包まれていた。

 再建の指揮を執っていたはずのエドワード国王が、突如として意識を失い、その口から「黄金色に輝く血液」を吐き出したのだ。

 駆けつけたくるるの目に飛び込んできたのは、ベッドに横たわるエドワードの胸元から、首筋にかけて浮かび上がる、不気味な黄金の紋章だった。


「……これは、……ただの病ではありませんわ。……魔力の暴走でも、……ゼノヴィアの残滓でもない。……もっと、……古く、……重い『因果』の匂いがします」

 サロメが、エドワードの額に冷たい手を当てながら、顔を曇らせた。

 彼女の氷の魔力をもってしても、エドワードの体内から溢れ出す「黄金の熱」を抑え込むことができない。


「……枢先生、……これを見てください」

 アンナが、瓦礫から発見された「黄金の箱」の中身――羊皮紙に記された、あまりにも複雑な経絡図を差し出した。

 そこには、初代国王から百代以上にわたる王族たちの「死因」と、彼らの体内に共通して現れた、異常な経穴の配置が克明に記録されていた。


「……『王のおうのやまい』……。……初代国王が、……この国を興す際、……大地の精霊と交わした『契約の代償』……」

 枢が、左手で羊皮紙をなぞる。

 彼の翡翠眼ひすいがんは、エドワードの体内で、黄金の気が「螺旋」を描きながら、心臓を締め上げているのを捉えていた。

 それは、王家の血筋が持つ強大な魔力の源泉であり、同時に、一定の年齢に達すると宿主を焼き尽くす「時限爆弾」でもあったのだ。


「……ゼノヴィアは、……これを知っていたのですね。……だから、……陛下を『演算機』として利用し、……この黄金の因果を、……無理やり翡翠の結晶で蓋をしていた……」


「……ってことは、……ゼノヴィアを倒したことで、……その蓋が外れちまったってことかよ!?」

 カザンが槍を握り締め、悔しげに床を叩いた。


「……はい。……今の陛下は、……数千年分の『王家の業』を一心に受けています。……このままでは、……あと一刻(二時間)も持ちません」


 枢は、自身の左腕を見つめた。

 午前中の『旋回刺鍼』の反動で、筋肉は断裂し、指先は感覚を失いかけている。右腕はない。

 だが、エドワードの苦しげな呼吸を聞くたび、枢の胸にある**『膻中だんちゅう』**が、激しく疼いた。


「……アンナさん、……サロメさん。……陛下の体を、……垂直に起こして支えてください。……カザン殿、……私の左腕に、……あなたの『闘気』を流し込んでください。……無理やり、……神経を繋ぎ止めます」


「……枢、……無茶だ!! ……そんなことをすれば、……お前の左腕まで、……二度と動かなくなるぞ!!」

 カザンが叫ぶが、枢の目は、一ミリも揺らいでいなかった。


「……右腕を失った時、……誓ったのです。……この左手は、……誰かを救うためだけに、……神様から残されたものだと。……さあ、……始めてください!!」


 カザンが覚悟を決め、枢の左肩に掌を置いた。

 燃え盛るような闘気が枢の左腕を駆け巡り、麻痺していた指先が、強引に再起動する。

 枢は、激痛に歯を食いしばりながら、往診鞄からむくろの**『黒銀の双鍼』**を取り出した。


「……診せなさい、……王家の孤独な魂を。……あなたが数千年間、……一人で背負ってきた『重み』を……!!」


 枢は、左手一本で、エドワードの背骨に沿った最重要穴――**『霊台れいだい』と、心臓の真裏にある『心兪しんゆ』**を、同時に見定めた。

 一本の鍼を、二つの経穴の「中間」に打ち込み、そこから気を二手に分けるという、常識外れの高等技術。


「……鍼灸秘儀、……『一鍼双流いっしんそうりゅう・黄金の解呪』!!」


 枢が、左手首を鋭く捻り、黒銀の鍼をエドワードの背中に突き立てた。

 

 ――キィィィィィィィィンッ!!!

 

 黒銀の鍼から、骸の「死の気」が黄金の因果を喰らい、枢の「生の気」がエドワードの生命力を補強する。

 エドワードの体内に溜まっていた黄金の気が、鍼を通じて枢の左腕へと逆流してきた。

 

「……ぐ、……あ、……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 枢の叫び。

 彼の左腕の皮膚が、黄金色に輝き、結晶化し始める。

 それは、王家の呪いを、枢が「自身の肉体」で引き受けている証だった。


「……枢先生!! ……もう十分です、……これ以上は、……あなたが……!!」

 アンナが涙を流しながら叫ぶが、枢は止まらない。

 

「……まだ、……まだです……!! ……この国の『病根』を、……今ここで、……私が断ち切る……!!」

 

 枢は、黄金の熱に焼かれながら、さらに指先に力を込めた。

 彼の脳裏に、初代国王が大地に鍼を打ち、荒野を緑に変えた時の、数千年前の記憶が流れ込んでくる。

 

 ――「守りたかった。ただ、民の笑顔を守りたかったのだ」――

 

 それは、呪いではなく、行き場を失った「祈り」の残響だった。


「……その祈り、……私が引き継ぎます!!」


 枢の左手から、翡翠色の光が爆発的に溢れ出し、エドワードの体内の黄金の気を、一点の淀みもなく「流動」へと変えた。

 

 バキバキッ……!!

 

 エドワードの胸に浮かんでいた黄金の紋章が、光の粒子となって砕け、窓から外へと、王都の空へと還っていった。

 

「……ハァ、……ハァ、……ハァ……」

 

 エドワードの呼吸が、穏やかなものに変わる。

 黄金の吐血は止まり、彼の頬には、人間らしい健康的な赤みが戻っていた。


 しかし、枢は、その場に力なく崩れ落ちた。

 彼の左腕は、肘から先が黄金色の紋章に覆われ、全く動かなくなっていた。

 

「……枢、……お前……。……右腕に続いて、……左腕まで……」

 カザンが、枢の動かなくなった左腕を抱きかかえ、声を震わせた。


「……ふ、……ふふ。……これで、……お相子、……ですね……」

 枢は、朦朧とする意識の中で、遠く離れたどこかにいる骸へと、語りかけるように呟いた。

 

「……骸、……私は……両腕を、……失いました。……でも、……見えるんです。……この世界全体の、……『気の流れ』が……」


 両腕の機能を失った聖鍼師。

 だが、その瞳に宿る翡翠の光は、以前よりも深く、宇宙の深淵を覗くかのような、圧倒的な「診察眼」へと進化を遂げていた。

 

 第205話。

 王家の呪いを解いた代償。

 「手」を失った鍼灸師は、一体どうやって、次なる患者を救うのか。

 物語は、肉体という器を超えた、新たなステージへと向かう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月29日(日)、15:00の更新、過去最大の熱量でお届けいたしました!

王家の血脈に眠る「黄金の呪い」を、自身の左腕を犠牲にして治療したくるる

両腕を失うという、鍼灸師としては致命的な状況に追い込まれた枢ですが、その代わりに手に入れたのは、もはや肉体に頼る必要のない「究極の視座」でした。


今回登場した術理、『霊台れいだい』と『心兪しんゆ』。

背中の中心にある霊台は「魂の居所」とされ、心の真裏にある心兪と組み合わせることで、王家の血に刻まれた深い精神的な呪縛インプリンティングを解除するという、高次元の治療を表現しました。


次回、第206話は本日**【18:00】**に更新予定です!


両腕を失い、ベッドに横たわる枢。

だが、王都の地下から、さらなる「地鳴り」が響き始めます。

腕がない、鍼も握れない。

そんな絶望の中で、枢が示した「新たな治療の形」とは。


記念すべき第200話台の後半戦、物語はさらなる衝撃へと突入します。

引き続き、応援の評価やブックマークをよろしくお願いいたします!

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